006 初めての魔法
「へー、種って大体2日から3日で育つんだ」
僕は畑を耕した後、家に戻ってから説明書を読んだ。
物にもよるけど、早いものは2日もあれば出来るんだって。小麦なんかは早く育つみたいだ。
果物系は時間掛かるみたいだけどな。
「……チョコとか、そういうのはどうしようかな」
カカオから作る?
いや、さすがにそれは難しいな。どっかで売ってる店探すか。
同じような店をやってる業者見つけて、他にも必要な食材を調達していかないと。
「……そうだ」
自分の店だけでなく、他のアイテムショップみたいな場所でも売ってもらえるようにしてほしいな。そうしたら売り上げも伸びるし。
いい案かも。ショップ検索して、同業者とコンタクト取ってみよう。まずはアイテム作らないとだけど。
通販的なモノは出来ないのかな。こういうの初めてだから、何が出来るのかが分かんないからな。
叔父さんにもっと聞いておけばよかった。ひと段落したら、もう一回街に出てみよう。
「あ、卵」
それに牛乳も必要じゃん。
どうしようかな。その辺も自分で育ててみようかな。せっかくだしね。うん。
お金もまだ余ってるし。それにこの家、小屋とかも付いてたし。
うん、そうしよう。全部一からやる。最高じゃん。
てか、この世界の食材とかって、リアルにあるもの多いな。
まぁ、牧場とか農業を楽しめるようになってるもんな。そこで変に名前とか変えたら、ややこしいし。
「よし。買った種を蒔いてから街行こう」
僕は説明書を映した画面を閉じて、外に出た。
なんか、この世界って金銭感覚とかおかしくなりそうだな。こんなに簡単に家とか借りれちゃうし。
「まずは、ここに小麦を植えて―っと」
アイテム覧から種を出し、端から順にそれを植えていった。
こういうの、どれくらいぶりかな。小学生のときにプチトマト植えたくらいかな。
ケーキとかお菓子作りは結構やるけど、果物とかは市販のものを買うだけだもんな。
将来、プロを目指すなら食材にはこだわらないといけないよな。
「さて」
買った種は全部植えた。
あとはお楽しみ。【水魔法】の出番だ。
「まずは、初期装備の杖に【魔法】を……えーっと、こうかな?」
自分のステータス画面から、装備してる杖に【水魔法】を付ける。
これで【魔法】が使えるようになってるはず。
僕は小さな杖を手に取り、畑の方へ翳す。
これで、どうしたらいいのかな。呪文? 呪文とかいる?
でも説明書にはそんなこと書いてなかった。いや、もっと高度な魔法には呪文みたいなのがあるみたいだけど。
でもこれは簡単な初歩魔法。多分、念じるだけでいいと思うんだよね。
イメージするんだ。
そう。きっと、合ってると思う。
頭の中でイメージして、それを解き放つような感覚で――。
イメージ……。
――雨。
そうだ。雨みたいな感じ。
渇いた地面に、小雨のように。霧のように――。
――雨よ、降れ……!!
心に強く念じると、頭の奥の方がジリっと熱くなった。
それが指先へと流れ、杖に伝わっていく。
そして、杖に宿った魔力が僕の頭の中に描かれた【魔法】を現実へと変えてくれる。
「う、わぁ!!」
生まれて初めての魔法だ。
キラキラを輝く雫が、地面に降り注いでいく。
なんか、感動。
魔法って綺麗だ。凄い。凄いよ、このゲーム!!
「わぁ……は、はは……あはは!!」
僕はパラパラと振る雫を浴びてみたくて、畑の中心へと走り出した。
冷たくて気持ちいい。
こういう感覚もリアルに感じられるんだな。
「ふはっ、はは!」
僕は機嫌が良くなって、思わず鼻歌を歌いながらクルクルと踊るように雨に打たれていった。
楽しくなりそうだな、このゲーム。
ていうか、メッチャ楽しい。
最高!
USER NAME/片岡春臣
LOGIN NAME/ハル
SEX/女?
LOGIN TIME/0007:06:54