077 精神統一
「マーナさん」
「うわぁ!! ハ、ハハハハルくん!」
僕が声を掛けると、マナさんは飛び跳ねるように驚いて見せた。
今日はお店の定休日だから、マナさんと訓練とか色々したいなと思ってクロアさんの家まで来たんだけど、タイミング悪かったかな。
「どうかしたんですか? 玄関でうぃっちさんがウキウキしながら出掛けていきましたけど」
「ああ……えっと、お買い物に行ったよ。人の全財産持っていって」
「何がどうしてどうなったのかは分からないですけど……マナさんは何を慌てているんですか?」
「いや、その……クロアがもうすぐ帰ってくるっていうから、ちょっとシャワーを……」
そっか、そういえばそうだった。
僕も色々とお屋敷の方々にお世話になったし、何かお礼をしないとかな。
「でも、そんなに焦ることですか?」
「だって、私臭いよ!?」
「え?」
僕はマナさん近付き、すんすんと匂いを嗅いだ。
うーん、特に変な匂いはしないと思うけどなぁ。マナさんはいつも良い香りがしてるし。
「大丈夫ですよ、マナさん。全然匂わないです!」
「そ、そそそそう? ハルくんは甘い匂いがするね」
「そうですか? あ、お菓子の匂いかな」
リアルの方でもたまに言われてたな、スイーツ系男子って。
「あ、そうだ。よかったらこれどうぞ」
「これは……オイル?」
「えっと、なんて言ったかな。香油? お風呂とかで使うと良いらしいですよ」
「へぇ、良いの? なんだか高そうだけど」
「全然良いですよ。どうせクエストの報酬で手に入れたものですし」
こういうのは大人の使う物って感じで持て余してたんだよね。
マナさんは大人の人だし、僕が使うよりいいでしょ。
「じゃあ、ありがたく使わせてもらうね」
「はい!」
「あ、そういえばミヤは? 一緒じゃないね」
「ああ、ミヤはちょっと視察に」
「視察?」
「はい。最近、魔王討伐に出たっていうパーティがいるみたいで、その様子をちょっと見てきてもらおうかなって」
「そっか……そうだよね、こうしてる間にも色んな人が戦ってるんだよね」
僕も四代精霊を使役出来るようになったとはいえ、100パーセント使いこなせているわけじゃない。
僕ももっと強くならなきゃ。
「あ、引き止めちゃってごめんなさい。マナさん、お風呂ですよね」
「そうだった! それじゃあ行ってくるね!」
「はい」
駆け足でお風呂に向かうマナさんを見送り、僕はクロアさんの道場に向かった。
クロアさんもかなり強い人だって噂は各地で聞いていた。
戻ってきたら、僕も手合せをしてもらおう。
目標は精霊の四体同時召喚。これが出来なきゃ、きっと魔王討伐なんて夢のまた夢だ。
「すぅー、はぁー……」
誰もいない道場の真ん中で、僕は正座して気持ちを落ち着けた。
魔力は精神力。荒れた心じゃ何もできない。
何事にも安定した精神で挑まなきゃ。
「……ちょっとお腹すいたかも」
朝ごはん、ちょっとしか食べてなかったからなぁ。
お腹が鳴ったくらいで気持ちを乱してちゃダメなのに。
頑張れ、僕。マナさんだって訓練頑張っているんだ。
深呼吸を繰り返す。
自然を感じる。
自分の呼吸。遠くから聞こえる人の声。触れる空気。感じる熱。
全部、取り込むんだ。
「出来る。きっと、僕なら出来る」
信じなきゃ何も出来ない。
USER NAME/片岡春臣
LOGIN NAME/ハル
SEX/女?
PARTNER/ミヤ
LOGIN TIME/35127:20:18




