075 お守り
女の姿になって、数年。
長い髪とか色々な身支度とか、そういったものに慣れてしまった自分にちょっと何とも言えない感情をたまに抱くこの頃。
元の世界に戻った時、ちゃんと男としての僕に戻れるのだろうかって思うこともある。
「マナさんはログアウトしたときにそういう感じなかったですか?」
「私はそれどころじゃなかったからね」
「そうですよねぇ。あ、マナさんそっちにモンスターが行きました」
「はい、よっと!!」
今日はマナさんと一緒に素材集めを兼ね、レベル上げのために小クエストをしている。
さすがマナさんというか。戦闘は難なくこなすし、レベルもここ数日で格段に上がってる。ミヤとの連携も取れてきているし、この調子なら、すぐにでも魔王討伐に行けちゃうかもしれない。
「これでクエストは完了ですね。あとは報告して、報酬を貰えばおしまいです」
「いやぁ、ハルくんのおかげであっという間に終わっちゃったね。さっすが最強の魔法少女」
「なっ!? そんなことないですよ!」
ドロップしたアイテムを回収し、僕たちは街へと戻った。
お店を再開したのはいいんだけど、思った以上に繁盛しちゃったせいで材料が底をつきそうで困ってたんだよね。
マナさんは一人で、っていうか、うぃっちさんが一緒だから厳密に言えば一人ではないんだけど。マナさんだけで材料集めに行くって言うから、それはさすがに申し訳ないと思って、臨時休業にして二人でクエストに行くことにしたんだ。
普通に素材集めするよりクエストの方が効率もいいし。
「それにしても、ハルくんの魔法は凄いね。召喚術って高度な魔法なのに、全然魔力消耗した感じもないし」
「強い魔法を使わなければ、そんなに魔力使わないで喚べますから」
「いいなぁ。私も魔法とか使ってみたかったよ」
「……あ、そうだ」
「うん?」
僕は自分のアイテム欄から、前に手に入れたカードを取り出した。
何だったかな、何かのクエストをクリアしたときに貰った報酬、だったはず。
「マナさん、これあげます」
「これは?」
「このカードに僕の魔法を一つ覚えさせてあるんです。これを使えば、マナさんにも魔法が使えるようになりますよ。ただ、残念ながら一度だけしか使えませんけど」
「凄い! じゃあ困ったときのお守りにするね」
「ちなみに、閃光の剣舞を覚えさせてあります。かなり魔力を消耗するので僕も数回しか使ったことないんですねど」
「光属性の魔法なんだね」
「はい。きっと魔王戦に役立つと思って、切り札として用意しておいたんです。もし僕の魔力が尽きても、カードに宿した魔法は使えますし」
他にもいざってときのために他の魔法もカードに覚えさせておいてある。
とはいっても、このカードはレアアイテムだから、そんなに数はないんだけど。
「きっと、マナさんを守ってくれます。そう願っておきましたから」
「……ありがとう、ハルくん。凄く心強いよ」
「えへへ」
緊急時にはオートで発動するようになってる。
でも、本当はそれが使われないのが一番いいことなんだけど。
「魔王の強さは最早デタラメです。簡単に法を変えて、自分の都合のいいようにしている。正攻法で挑んで勝てるかどうか、分かったものじゃありません」
「……うん」
「でも、僕たちは勝たなきゃいけない」
「そうだね。ハルくんのお母さんも凄く心配してたし」
「はい。マナさんにも、ちゃんと会いたいですし」
「そうだね。……会う前に美容院行っておいた方がいいかな」
「どうしました?」
「ううん!? なんでもないよ!」
僕も力を高めるために、ちゃんと訓練しないとな。
そうだ。さっき手に入れた素材で攻撃力とか上げるお菓子作れたはず。そういうの、ストックしておかなきゃ。
出来ること、今のうちにやっておかなきゃね。
USER NAME/片岡春臣
LOGIN NAME/ハル
SEX/女?
PARTNER/ミヤ
LOGIN TIME/35119:04:46




