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Trans Sexual Online~のんびりほのぼのTS生活~  作者: an℟anju
第五章 ストーカー魔王とヅラと魔法少女とニート主婦
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074 夫婦円満の秘訣

 周囲を山々に囲まれたラグーナ地方にある城――魔王城。

 日の光が一切届かないこの土地で、俺は終始溜息を吐く。

 北瀬愛理子はこのゲーム――《Trans Sexual Online》のラスボスである前魔王を倒し、魔宝石を手に入れた。

 この魔宝石があればクリアボーナスとして願い事をひとつだけ叶えることができる。

 恐らく大野教授は、ゲームクリア達成者が願うであろう『ログアウト』を、全プレイヤーへの報酬・・・・・・・・・・として用意していたはずだと俺は考える。

 あの教授は変人だが悪人ではない。

 人の命を奪おうなどと大層なことを考える人でもないし、プログラムにバグを仕掛けたのにも何かワケがあるはずだと俺は信じている。


「――なのに、アリスの奴が魔宝石に『ログアウト』を願わなかった。変人である大野教授を越えた超変人――。……いや、あれはもう何か悪い病原菌に脳を汚染された哀れな女としか言いようがない。だから、俺は…………逃げる!」


 もう一体何度同じことを繰り返しているのか。

 迷路と化している魔王城から逃げ出そうとしても、すぐに奴に見付かってしまう。

 ――軟禁。俺の自由はこの四年間、無いにも等しいのだ。


「おや、ヅラっち様。懲りずに今夜も挑戦なさるのですか。貴方も諦めが悪いですなぁ」


 魔王城執事、『髭の男爵』ことオルガが苦笑いをして俺を見送る。

 どうせ今夜も失敗すると踏んでいるのだろう。俺を追ってくる気配を微塵も感じない。

 というか基本、この魔王城に勤務している魔族は皆、仕事をする気がない。

 前魔王を倒された今、NPCである奴らにインプットされていた法律ロウ、【勇者来たらボコボコにしようぜ!】はすでにアリスにより破棄されている。

 今ではのんびり家庭菜園をしながら、平和に暮らしている者がほとんどだ。


 オルガを振り向きもせず、俺は廊下をまっすぐにひた走る。

 そして突き当りを右に曲がった場所にあるワープゾーンに飛び込んだ。

 城内の構造はすでに頭に入っている。

 アリスに勘付かれる前に最短で城を抜け出し、ミッドナイトの街に影武者を用意する。

 俺はいくらでも分裂できるから、そうやっていくつもの街に影武者を仕込んでアリスの目を誤魔化そうとするのだが――。


「――ちっ、やっぱ【法律ロウ】が邪魔だな。あまり複雑な【法律ロウ】は魔力を大幅に消耗するから、すぐに作成することは不可能だが……」


 それでも奴は紛うことなき『魔王』――。

 魔力量は他の者に比べ桁違いに高いのは当然。

 ならば魔力の消費量が少ない、簡単なルールを【法律ロウ】として定めてしまえば、いくらでも対応が可能ということになる。


 ワープを抜け、更に長い廊下をまっすぐに進む。

 途中で何度か魔族とすれ違ったが、皆せせら笑うだけで俺に注意すらしない。

 くそ、見てろよ……! 今度こそ俺は自由になってやる……!!


「でも無駄だと思うよ。ダーリンが私から逃げられるはずもないし」


「うおっ!? お、お、お前……! どこから顔を出してやがんだ!! ――――あ」


 ――ガシャン!!


 いきなり俺のヅラからアリスがひょっこりと顔を出してきたもんだから、派手にすっ転びました……。

 その拍子に宙をくるりと回り、華麗に着地をするアリス。


「うーん、今回は30点かなぁ。ダーリンの特技である『分裂』を使って私の目を誤魔化そうとする着眼点はまあまあ。でもそれは前にもやったから、私のダーリン手帳にはちゃんとメモしてあるし」


「ぐっ……! お前、また何か【法律ロウ】を追加しただろ……! どんな【法律ロウ】か言え!!」


 俺は廊下に転がったヅラを拾い上げ、丁寧に手ぬぐいで拭いたあとに頭に装着。

 これが無いと安心できん。こう、心のゆとりというか、男としての威厳みたいなものがね。うん。


「もう、ダーリンのお願いだったら教えないわけにはいかないじゃん。じゃあ発表するね」


 アリスは目を閉じ詠唱を開始した。

 彼女の周囲にはいくつもの魔法陣が浮かび上がり、そして宙から一冊の書物が舞い降りてくる。

 それを手にした彼女は書物を開きページを捲る。


「――《Trans Sexual Online》、ルールブック――通称、【法律ロウ】。第十二節第七条第五項。ダーリンに対する拘束。『いついかなる時もダーリンの考えていることがアリスには手に取るように分かる。これぞ夫婦円満の秘訣』」


「どこが夫婦円満なのかさっぱり分かんない!!」


 危うくヅラを放り投げんばかりに怒鳴ってしまいました……。

 つまりアレか? 俺の心の声を読んだというわけか……?


「うん、そういうこと。だって愛する者同士、何を考えているかお互いに知っていたほうが幸せじゃない? 私の気持ちは常に口に出しているけれど、ダーリンはいつも何も言ってくれないんだもん。ほら、ダーリンってシャイで寡黙で、何かこう、口元もベトベトしてるし自分の気持ちを正直に伝えられない感じじゃん?」


「ヅライムだからね! ごめんねベトベトしてて!」


 怒りを通り越して呆れた俺はトボトボと歩き、帰り支度を始めます。

 アカン。心を読まれているのだったら何をしても無意味だ。

 もう一度計画を練り直さないと、俺は一生アリスから逃げ出すことすらできない――。



 ストーカーに磨きが掛かった魔王アリスから、ヅラっちは無事逃げ出すことができるのか――。




USER NAME/かつらいさむ

LOGIN NAME/ヅライム

SEX/???

PARTNER/魔王アリス

LOGIN TIME/35113:12:10

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