072 料理をしよう!
ハルくんのフリフリエプロン姿を妄想しつつ、私は彼と一緒にグラーティアへと向かいました。
ええと『グラーティア』っていうのは商業都市ガイアでハルくんが始めたお店なんです。
九尾が言うにはガイアでも一位二位を争うくらいの人気ぶりだったらしいんだけど、私が姿を消してからしばらくしてお店を一時閉店しちゃったのだとか。
「ごめんね、ハルくん……。私を探すためにお店まで閉めちゃったみたいで……」
「いいえ、そんなことないです。こうやってマナさんと再会できましたし、マナさんも僕を探すために必死であちこち回ってくれたんですから」
ハルくんはそう言って照れくさそうに笑いました。
もう、何だろう。申し訳ないという気持ちよりもハルくんが可愛すぎて涙が出そう。
今すぐにでも抱きしめたい。
でもこんな公衆の面前でそんなことしたら警備兵の人に捕まっちゃうかもしれない。
「お店を閉めたのは、ちょうど三年前ですね。マナさんが姿を消してから一年後です。ボクも色々とお菓子作りを勉強して、素材集めや調味料の調達、他国にあるレシピを求めてクエストを受けたりとか色々頑張ったんですよ」
「へー、やっぱりハルくんて努力家なんだね。魔術を極めるのにも相当苦労したんだろうし、本当にすごいよハルくん」
「そ、そうですかね……。マナさんにそう言われると嬉しいんですけど、ちょっと恥ずかしいというか、なんというか」
私がキラキラした目でハルくんを見ると、彼はちょっとだけ苦笑いをしました。
……いやキラキラというよりギラギラだ。
いかんいかん、これ以上やると引かれるぞマナ。
ここは一旦深呼吸をして気持ちを抑えるとして――。
「どうぞ。ちょうど昨日ミラさんとルーイさんに頼んで店内を綺麗にしてもらったんですよ。閉店中もたまにお店の中の空気の入れ替えとかもしてくれてたので、そんなに汚れていなかったんですけど」
「うわぁ……。すごいね。調理場も広いし、店内も結構席があるんだね」
様々な調理道具が整頓された料理場。
すぐ隣には大きな鍋のようなものがあるけど、全体にびっしりと幾何学模様が刻まれているし。
何だろう……。素材を調合するときとかに使う魔法の鍋とかなのかな……。
店内もゆったりとしたスペースにテーブルが四台。
カウンター席の前には作りたてのお菓子が並べられるショーウインドウまで完備されている。
「マナさんも確か料理がお好きでしたよね。ちょっと調理場を使ってみますか?」
「いいの? ぜひ使わせてください!」
元気よくそう答えると笑顔で私を調理場に案内してくれたハルくん。
まだまだレベルの低い私じゃ、お料理くらいしか彼の役に立てないだろう。
元気がいっぱい出るようなお弁当とか作ってあげて、精一杯ハルくんをサポートしなきゃね。
「《TSO》の料理は全てスキルで管理されてますけど、料理スキルはレベル1から発動できますからマナさんでも大丈夫ですよ。やり方は簡単でウインドウから獲得したレシピをタップして、それに必要な素材をアイテム欄から選んで、あの模様の入った鍋に入れるんです。あとは自動でシステムが作動して、スキルレベルに応じた味・見た目の補正値が加算されて料理が完成します」
ハルくんに言われるがまま、私はウインドウを操作していきます。
まだ料理のレシピは一つも持っていないので、とりあえずハルくんが持っていた『オムライス』のレシピを使わせてもらうことにしました。
ちょうどお昼時だし、二人分に分量を設定して、いざスタート。
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〇レシピNO.0021 『オムライス』
必要料理スキルレベル 1~
材料(二人前)
・肉 →
・たまねぎ →
・ご飯 →
・卵 →
・塩 →
・胡椒 →
・ケチャップ →
・醤油 →
・鶏ガラスープ →
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「調味料の塩、胡椒、ケチャップ、醤油、鶏がらスープはお店で用意してあるのを使って下さい。他の材料は比較的簡単に手に入るので、マナさんのアイテム欄にも入っているんじゃないでしょうか」
「ええと……ちょっと待ってね」
レシピウインドウの中に現れた材料の横にある矢印をタップすると、今現在私が所持しているアイテムの中から使える素材がピックアップされていきます。
『肉』の項目で出てきたのは『ガイア豚のウインナー』の一つだけ。
『たまねぎ』の項目では『たまんねーぎの身』と『たまたまねぎの心臓』という二つ。
……そういえばガイア周辺にこんな変な名前のモンスターが出没していたような気がしなくもない。
『ご飯』の項目に出てきたのは、先日お総菜屋さんで買って余っちゃった『冷蔵ご飯』。
「ええと、じゃあこの『ガイア豚のウインナー』と『たまたまねぎの心臓』と『冷蔵ご飯』を選択して……。で、最後は『卵』の項目――」
そこまで言って、私の指は止まってしまった。
タップを押そうとした先にある、素材名――。
――『ヅラっちの卵』。
「……」
「……」
押し黙る二人。
…………うん。
ヅラっちって、アレだよね。ヅラっちだよね。
スライム系のモンスター。ヅラを被っているけど、分裂するやつ。
…………うん。…………卵から、生まれるの?
ヅラが先なの? 卵が先なの?
鶏が先か卵が先か、みたいな?
「め、珍しい素材を持っているんですね、マナさん……」
「う、うん……。なんか、持ってたみたい……」
微妙な空気が私達を包み込みます。
そういえばヅラっちの集団に襲われたとき、奴らの素材を大量に獲得した記憶がある……。
きっとその中に混ざっていたのだろう。
……たぶん。
「じ、じゃあそれらを全部入力して、確認したら『完了』のボタンをタップしてください」
「う、うん……」
私は震える手でヅラっちの卵を選択しました。
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〇レシピNO.0021 『オムライス』
必要料理スキルレベル 1~
材料(二人前)
・肉 → 【ガイア豚のウインナー】
・たまねぎ → 【たまたまねぎの心臓】
・ご飯 → 【冷蔵ご飯】
・卵 → 【ヅラっちの卵】
・塩 → 【グラーティア特製の塩】
・胡椒 → 【グラーティア特製の胡椒】
・ケチャップ → 【グラーティア特製のケチャップ】
・醤油 → 【グラーティア特製の醤油】
・鶏ガラスープ → 【グラーティア特製の鶏がらスープ】
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「んで、『完了』っと」
全ての素材を選択した私は『完了』のボタンをタップする。
すると自動的に素材がアイテム欄から出現し、宙をグルグルと回った後に魔法の鍋に吸い込まれていった。
なにこれ。手品みたい。
クルクル。ポーン!
「ほら、出来上がりましたよ」
「はやっ! もう出来たの?」
ものの数秒で料理が完成。
私達の目の前にはお皿に盛られたオムライスが二人前用意されていました。
「……普通の、オムライスだね」
「……はい。普通のオムライス、ですね」
若干卵に不安があったけど、見た目は普通のオムライスっぽいです。
でも問題は味だ。
卵の中に殻じゃなくて、ヅラが入ってたらどうしようとか考えてしまう……。
ここは私が毒見をしなきゃ駄目だよね……!
「い、いただきます!」
用意されたスプーンを片手に、目を瞑り一気に頬張ります。
もぐもぐ。もぐもぐもぐ……。
………。
……………………。
「ど、どうですか? お味は……?」
「大丈夫! 殻もヅラも入っていないし、普通においしい!」
味はまあまあ。レベル1にしては上出来じゃない?
というかこのグラーティア特製の調味料が美味しい。
世界中を回って集めてきたんだろうなぁ、ハルくん。
「よーし! ちょっとやる気出てきた! ハルくんのためにもっともっと料理の腕を磨くぞー!」
私がそう叫ぶと、口の周りをケチャップでいっぱいにした天使のようなハルくんが微笑みました。
あーもう! 可愛いんだから、本当に!
USER NAME/佐塚真奈美
LOGIN NAME/マナ
SEX/男?
PARTNER/うぃっち
LOGIN TIME/35108:05:12




