070 捻じ曲げられた法律(ロウ)
私がこの《TSO》に再ログインしてから、丸三日が経過しました。
その間にハルくんはお店を再開する準備をし、私はガイアで色々と情報収集にあたりました。
以下、私が三日で集めた情報です。
〇現魔王の名はアリス・ノースシャロウズ。あのヅラっちこと、魔王軍幹部のひとりである【頭面王】の称号を持つヅライム族の王を配下にしている
〇クロアがエルランド王から受けた依頼は、魔王討伐に関するクエストだった
〇この世界のルールである【法律】は魔王によってかなり書き換えられている
〇魔王を討伐するには四大精霊の力を借りなければ不可能
〇どんな願いでも一つだけ叶えることができる魔宝石を手に入れるため、世界中の冒険者が魔王討伐を目論んでいる
〇未だにログアウト不可能状態が続いており、その原因は解明されていない
「うーーん、やっぱ解決の糸口はあのヅライムなのかしら……」
クロアの屋敷の一室。
畳の良い匂いを満喫しながら、寝転がり考え中。
「現実世界で聞こえた『あの声』は、確かにヅラっちのものだった。それにあの『マップ』……。ハルくんの居場所を教えてくれたあいつに礼の一つでも言わなきゃと思ってたけど、まさかこの四年で魔王の幹部になってるなんてね」
それだけ四年という歳月は長かったというわけだ。
私もしっかりと訓練して、ハルくんに追いつかなきゃ駄目だ。
でも正直、強くなって魔王と戦って、それで私はどうするのだろう。
この三日間、街中を歩いてみたけれど、まるで平和そのものだった。
どうやら元々いた魔王が相当悪い奴で、今の魔王は頭はおかしいけど他国に攻め入るとか、人を殺すとかはしない方針だという話だし……。
むしろ魔王の持つ魔宝石を狙う冒険者のほうが、一攫千金を狙う悪い奴らに見えるくらいなんですが……。
「どうにか話し合いで解決できれば良いんだけど……。でも厄介なのが魔王が作ったっていう新しい【法律】なんだよね……」
ウインドウを操作し、この世界のルールブックを表示させる。
私が初めてログインしたときとは、まったく内容が書き変わっているのだ。
【法律】とは、いわば《TSO》の世界におけるマニュアルのようなものだ。
ゲームの取扱説明書と言い換えてもいい。
例えばログインプレイヤー同士で一対一の対決――『デュエル』があったとして。
勝ったほうと負けたほうで、それぞれ勝利アドヴァンテージと敗北ペナルティが発生する。
通常の法律であれば、デュエルに勝てば相手のアイテムリストから一番ランクの高いアイテムや武具をランダムに入手できるし、負ければその逆になるというわけだ。
しかし、新たな法律は、このルールを捻じ曲げた。
それがまたとんでもない、頭がおかしいとしか言えないルール変更なのだ。
「――《Trans Sexual Online》、ルールブック――通称、【法律】。第四節第三条第七項。デュエルにおける勝敗規定。『勝者は敗者にアイテムリストの中から一番ランクの高いアイテムを譲渡し、敗者は勝者によるその大いなる寛容を享受し、心から尊敬の念を示さなければならない。これをナデポという』」
……。
…………うん。
何を言っているのか、さっぱり理解できない。
ナデポって……何?
そもそもどうして勝ったほうが負けたほうにレアアイテムを取られないといけないの……?
「……他にもレベルアップの方法、魔法の取得、ギルドの加入条件、武具のトレード、パートナー変更条件に……婚姻条件? 職業別転職情報を随時更新……? 恋愛占いが得意な占い師は、魔王領南、魔物達の街ミッドナイトまで。今なら魔王アリス様の特製ブロマイドを配布中……」
……。
…………うん。
もはや何でもアリです。
法律というより、情報誌みたいになってるし……。
これ作った魔王って、よっぼと変わった人なんだね……。
「あー、なんか目が疲れたー。どちらにしても、私はコツコツとレベルを上げないと駄目だし、ハルくんのお店でも手伝わせてもらおうかなぁ。ここは女らしく、掃除・洗濯・料理や武具のメンテナンスまでやらせてもらおう!」
立ち上がった私は、さっそく屋敷を出てハルくんのお店に向かいました。
USER NAME/佐塚真奈美
LOGIN NAME/マナ
SEX/男?
PARTNER/うぃっち
LOGIN TIME/35188:12:48




