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Trans Sexual Online~のんびりほのぼのTS生活~  作者: an℟anju
第五章 ストーカー魔王とヅラと魔法少女とニート主婦
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069 異常事態の黒幕

 ラグーナ地方。エルランド王国より遥か北に聳える霊峰。

 周囲を樹海で覆われたかの地は、魔王により占拠された忌まわしき土地である。

 その土地の中心に位置する、魔物達の街ミッドナイト。

 夜になると活発に活動を始める彼らの目を盗むように、一匹のヅライムが町外れの酒場で溜息交じりに酒を煽っていた。


「あー、ほんとマジ無理。四年だぞ、四年。なんで俺がヅラを被ったスライム型モンスターのまま、四年もゲームの世界から外に出られねぇんだよ。なにこの罰ゲーム。俺の人生、台無しなんだけど」


 彼の名は桂いさむ。

 都内の大学に通う、どこにでもいそうな二十一歳の男子学生――だったモンスターだ。

 四年という歳月はログアウト不能という過酷な世界で、彼を極限まで強くした。

 ヅライム族の王たる称号――【頭面王キングヅライム】がその証でもある。

 その彼が半分自棄になり酒を煽る理由――。


「こんにちはー。うちのダーリン、いる~?」


「ギクッ」


 突然、店の入り口から聞こえてきた女の声。

 その姿を見た客は椅子から立ち上がり、ある者は尊敬のまなざしで、またある者は恐怖に慄き震えていた。


「ま、魔王様……! こんな辺鄙な飲み屋に何の用でしょう……! 今月分の上納金はきちんと払っておりますが……!」


「ううん、そうじゃないの。まーたうちのダーリンが護衛獣の目を盗んで魔王城を抜け出したから、どこかで飲み歩いているじゃないかと思って――ん? あ、ダーリン! 見っけ!」


 魔王と呼ばれた女は店内の隅でこっそりと一人酒を楽しんでいた一匹のヅライムの元に駆け出す。

 彼女の名は北瀬愛理子。

 都内の高校に通う、かなり変わった女子高生――だった魔王だ。

 一年前に前魔王を倒した彼女は、報酬として手に入れた魔宝石に新たな魔王となることを願った。

 そしてもう一つ――。


「もう! どうしていつも勝手に城を抜け出しちゃうの? 24時間、365日、私と一緒にいる約束でしょう?」


「そんな約束してねぇだろ! それはお前が勝手に【法律ロウ】を変えたからだ! それと俺のヅラを引っ張って遊ぶんじゃない! ゴムが伸びるだろうが!」


 一気に騒がしくなった店内。

 他の客も、まさか店の端っこで一人寂しく酒を飲んでいたヅライムが、魔王の側近である最強の魔族、ヅラっちであるとは思いもしなかっただろう。

 二人のやりとりを固唾を飲んで見守ることしかできない。


「違うでしょう。だって私達、結婚したんだよ? 子供も三人もいるのに、まだそんなことを言うの? まったくダーリンたら私を押し倒してあんなことやこんなことをするから、四人目だってもうすぐ――」


「ちょっと待て! どうしたらお前と俺で子供が出来るんだよ! あいつらは俺の『分身』だっつうの! お前が夜な夜な俺を夜這いしようとして襲うから、あちこち衝撃を受けて勝手に分裂しちまっただけだろうが! しかもその『結婚』っつうのもお前が捻じ曲げた【法律ロウ】が――!」


 言い合う二人。

 彼らを止められる者など存在しない。

 そのルールの一つが【ダーリンとの仲を邪魔するものは許さない】という法律ロウだ。

 口を出した瞬間、その者の身体は燃え上がり灰となる。


「ああ、もうやってらんねぇ! お前からは逃げられねぇし、現実世界にも戻れねぇし! 俺どうしたらいいの! 誰か教えて!」


「だーかーら。何度も言っているけど、そのために・・・・・私が魔王になったんでしょう? ダーリンが作ってくれたこの『魔剣グラム』じゃ、まだあいつに勝てないけど・・・・・・・・、最強の剣さえ作れればどうにか元の世界に戻れるわ」


 そう言った魔王は黒銀に光る剣を鞘から抜いた。

 ――魔剣グラム。

 現時点では最強と言わざるを得ないこの魔剣を、鍛冶職人の頂点でもあるヅラっちが作成してから半年の歳月が過ぎた。

 しかし、それでも最後のボス・・・・・を倒すには程遠い。


 この《Trans Sexual Online》の発案者にして、ログアウト不能の事態を招いた当事者――。

 桂いさむが通う大学の分子生物学の教授――大野昭之助・・・・・、その人だ。


「……なあ、その話、未だに信じられねぇんだけど。大野教授がこの異常事態の黒幕だったとして、どうしてそんなことをするんだ? 別にデスゲームでもないし、現実の世界でもまだ死者とか出てないんだろう?」


「そんなの私が分かるわけないじゃない。私が知っているのは、大野教授が《TSO》のプログラミングにバグ・・を仕掛けてたってことだけ。それをたまたま知った私は、それを脅しに使って大野教授にアプローチしたのに、彼は笑いながら平気で断ってきたわ。もう絶対に許せないんだから!」


「……いや、脅しに使う前に警察に相談しろよ。はぁ……」


 溜息を吐いた桂は席を立ち、勘定を済ませ店を出た。

 それを慌てて追いかける愛理子。


 彼女らは各々の目的を達することが出来るのか否か――。




USER NAME/かつらいさむ

LOGIN NAME/ヅライム

SEX/???

PARTNER/魔王アリス

LOGIN TIME/35109:01:01

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