065 最強の魔法少女
森を抜け荒野をひた走り、商業都市ガイアに到着した早々――。
――空から、天使が降ってきました。
ううん、天使だけど、この子はハルくんだ。
四年間で成長し、女の子らしくなった春臣くん。
背も少し伸びたのかな。
髪の毛は相変わらずサラサラの金髪で、前と少し髪型を変えている。
「…………あ…………」
ようやく今、目の前で起きていることを脳が理解できたのか。
私はその場にへたり込み、いつの間にか泣いてしまっていた。
春臣くん。ハルくん。
私にとっての、たったの四日。
でも彼にしたら四年という、残酷なほどに長い時間。
私が彼を見つける前に、先に私を見つけてくれた。
つまり、ずっと待っていてくれたのだ。
四年間も。何も連絡ができなかった私を。
――彼は『おかえりなさい』と、温かく出迎えてくれた。
「マナ。この近くにクロアの家、ある。そこでハルを休ませる」
「あ……うん。そうだね」
ハルくんの仲間モンスター。
……ええと確か守護獣のミヤくん、だっけ。
あの猫みたいに小さくて可愛い姿から、こんなイケメン男子に変身できるなんて……。
一体どれほどの魔力を秘めているのか、想像もつかない。
『……あ……あああ……あああああ!!』
「うわ、なに!? ビックリした!!」
急に発狂したうぃっち。
何故か分からないけれど、人化したミヤくんを指差して半分泡を吹いている。
『守護獣ミヤ……! あのレンダリア洞窟の守護獣にして、この世界で最強種の一つと言われている伝説の……! え? ということはハルって……あの有名な魔法少女ハル!?』
「……魔法少女?」
どうしてうぃっちがハルくんのことを知っているのだろう。
というか叫び散らしてさっきから私の顔に唾が飛びまくっているのですが。
――はて。レンダリア洞窟?
どこかで聞いたことがあるような、ないような……?
『ちょっと、あんた知らないの!? 守護獣ミヤを従えたゴスロリ魔法少女、ハルよ! すでに四大精霊のうちの三人、水の精霊ウンディーネ、風の精霊シルフ、大地の精霊ノームを召喚獣として従えているっていう噂よ! 魔術師の中の魔術師……! 今、この世界で彼女の名を知らない者はいないわよ! そんな大物がどうして初級冒険者のあんたなんかと知り合いなのよ!』
さらに詰め寄ってくるうぃっち。
もう何だか混乱してきました。
ハルくんが有名なゴスロリ魔法少女で?
四大精霊って……何だっけ?
……いや、確か以前にちょっとだけ聞いたことがあるかもしれない。
でもその時は《TSO》を始めたばかりの頃だったから、まだまだ遥か先に発生するイベントだった気が……。
「どうしてって言われても……。ていうか、ガイアに来るまでに説明したでしょう? 私は四日間だけログアウトしてたんだけど、この《TSO》の世界は四年間も経過しちゃってたって話」
『そんな話はどうでも良いのよ! ああん、ミヤ様に会えるなんて、本当についてるわぁ……! ささ、ミヤ様ぁん♪ クロアという男の屋敷に向かうのですよねぇ? そこでハル様をゆっくりと休ませて、そのあと近くの茶屋で御一緒にお茶でも――』
「…………」
私を無視し、ミヤの背中を押して行ってしまったうぃっち。
あいつ、絶対にハルくんかミヤに取り入るつもりだ……!
怖い……! 腹黒いうぃっち、怖すぎる……!
「……あ、でも……そうか。私……」
胸に手を置いた私は、大きく息を吸い込み、吐き出した。
心の中にあった大きな氷塊が解けだしたような感覚――。
ハルくんに出会えただけで、全てが解決したかのような、そんな安心感。
問題はまだ山積みだけれど、今はまだ、これでいい。
早くクロアに会って、ハルくんを休ませてあげよう。
四日ぶりに笑顔が戻った私は、太陽の眩しさに目を細めたのだった。
USER NAME/佐塚真奈美
LOGIN NAME/マナ
SEX/男?
PARTNER/うぃっち
LOGIN TIME/35105:11:00




