061 『――闇より深き暗黒よ。黒より重き混沌よ。その力を以て一族怨敵に天罰を与えたまえ! 究極の闇魔法――《原理崩壊(ラ・プリンシフル)》!!』
『――闇より深き暗黒よ。黒より重き混沌よ。その力を以て一族怨敵に天罰を与えたまえ! 究極の闇魔法――《原理崩壊》!!』
うぃっちの周囲に立ち込めていた漆黒の霧が一か所に集まり、大きな球体を描いた。
巨大な球体は私の頭上に舞い上がり、私を押し潰すかの如く落下する。
「ぐ……!」
重い……!
私には魔法は利かないはずなのに、重力に押しつぶされそうだ。
このままでは装備が持たない……!
『オーホッホッホ! そのまま押し潰されて死ぬか、生きていても装備が砕けて丸裸になるか! どちらにせよ貴方は大恥を掻くことになるのよ! さあ、晒しちゃいなさい! その見事なモノを晒しちゃいなさい!』
うぃっちは声高らかに笑う。
すでに彼女は勝利を確信しているようだった。
バリン、と音を立て崩れていく装備。
このままでは本当に丸裸にされてしまう……!
「こ……の……、えろびっちがあああああぁぁぁ!!」
『へ……?』
渾身の力を込めた私の身体は眩い光に包まれた。
魔力を持たぬ私に光魔法は使えない。
これは――無魔法の力?
『あ、いや、ちょっと待って……。え? 球体を押し返そうとしてる……? いやいやいや、意味分かんない。究極魔法よ? 四年掛かったのよ? ちょちょ、こっちに投げ返そうとか、ないない。ナッシング。そんなのぶつけられたら、わたし消滅しちゃう。妹みたいに死んじゃう。やめて。ごめん、謝るからやめて……!』
「うおりゃああああぁぁぁぁぁ!!」
『嫌ああああぁぁぁぁぁぁ!!』
叫ぶ私。泣き叫ぶうぃっち。
私は黒い球体をうぃっちに向け――たりはせず、森の後方、滝があった方面に放り投げた。
ドコォォン、というけたたましい音が遠くから鳴り響いてきた。
直後、空から大量の雨が降り注いでくる。
――いや、これは雨ではない。
滝が蒸発し、空から降り注いでいるのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。あっぶない、死ぬとこだった……」
その場にへたり込み、大の字に寝転がる。
再ログインできたばかりだと言うのに、最初の森で死んでしまってはハルくんを助けるどころではない。
通常、ゲーム内で死ねばランダムなスタート地点まで戻され、それまで取得したお金やアイテムが没収されるだけで済むのだが――。
「――今は何が起こるか分からないもんね。ここでの『死』が、現実世界の『死』に直結している可能性だってあるし」
そうだとしたら、安易な戦闘は避けたほうが良いのかもしれない。
私には回復魔法だって使えないのだから、貯めたお金は装備品や回復アイテムなどに極力振るようにしないと駄目だろう。
『ひん……ぐす、ぐす……。じ、死ぬがど思っだ……。貴方、本当は良い奴だっだのね……。妹の件は忘れてあげるわ……。だから、だから…………』
膝を突き、泣きじゃくっているうぃっち。
この子はさっきから何を言っているのだろう。
妹の件……?
そう言えばさっきから私のことを知っている風なことを言っていた気が――。
『貴方の、仲間モンスターになってあげてもいいのよ……! 全部、水に流してあげる……!』
「………………はい?」
大の字で寝転がったまま、私は素っ頓狂な声を上げてしまいました。
USER NAME/佐塚真奈美
LOGIN NAME/マナ
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