054 イケメンと妖刀
勇者アリスこと北瀬愛理子が俺のパートナーになってから丸二日。
俺はもう精も根も尽き果てていたわけで。
「ダーリン。はい、あーん」
「……」
口を開けない俺のスライム状の顔面に指を突っ込み。
強制的にスプーンを突っ込むアリス。
ていうか俺はヅライムなんだから口があるわけ無いんだが。
「どう? 美味しい? アリス、一生懸命作ったの。ダーリンのために」
「……」
確かに、味は悪くない。
この性格さえなんとななれば、いつかは良い奥さんになれるのかもしれない。
……この性格さえなんとかなれば。
「婚姻三日目。ダーリンはまだ私に心を開いてくれないけれど、夜の営みもまだだけど、それでも私は幸せを噛み締めている。今朝はベーコンエッグを作った。ダーリンはだんまりだけど、私、料理には自信があるからマズいなんて言われるわけがない。冥界の王との盟約により人差し指から一滴の血をベーコンに染み込ませ、それを焼く。じゅうじゅうと音を立てたベーコンに、これまた一滴血を垂らした卵を――」
「お前の血が入ってんのかよ!! ぺっ、ぺっ!! うわ、もう喰っちまったじゃねぇかよ!!」
メモ帳のようなものに日記を書き始めたアリスに怒号を飛ばす。
もうホント、勘弁して下さいよ……。
「ねえダーリン。この街で私達の新居を作らない?」
「作らない」
「商業都市ガイア。この街だったら生活していくにも困らないし、その……子供とか? 出来ちゃっても保育施設も完備されてるし、私もマダム気分を味わえるし」
「味あわせない」
「きっと私達幸せになれると思うんだ「思わない」。だってこんなにお互いに愛し合って「愛し合っていない」」
「……」
「……」
アリスと目が合う。
いや、目はないんだけど俺。
「……ふふ、ふふふふ。愛し合っていないなんて、きっと何かの間違い。うん、そう。だって私達はすでに結婚しているんですもの。人種の壁を乗り越え、親の反対を押し切り、この異世界でお互いの愛だけを信じて――」
もう完全に自分の世界に入ってます。
俺は一人語り続けるアリスをその場に残し、その場を後にします。
◇
商業都市ガイア――。
再びこの街に戻ってきた俺とアリスは、宿を借り、共同生活を始めた。
最初は野生モンスターだと街中の人間から追い回された俺だったが。
アリスのパートナーとなった今、俺は『害の無いモンスター』として無事認定されたってわけだ。
まあ、『パートナー』なのはアリスのほうだっていうのは置いておいて……。
で、さっそく鍛冶屋を見つけたんだけど、これがかなりの頑固じいさんで。
弟子入りさせてくれって頼んでも話を聞きやしない。
やれ『ヅライムの弟子なんてとれるか! 帰れ!』とか。
やれ『そっちの嬢ちゃんだったら手とり足取り教えてあげるよーん』とか。
ただのエロおやじだろう、あれ……。
「こんちゃーっす」
「うわ、また来た。弟子はとらねぇっつってんだろうよ。お前さんも諦めが悪いな」
鍛冶屋に顔を出した瞬間、俺を軽くあしらう店主。
この街で有名な『エクスなんちゃら家』っていう名家をお得意先にしているドワーフ族のおやじ。
名をゼガル・グランディアとか言ったっけ。
「頼むから弟子にしてくれよ。俺、ヅラが無いと不安で不安で生きていけないんだよ」
「知るか。ヅライムにとって命の次に大事なヅラを奪われるほうが悪い。さあ帰った帰った」
「ぐっ……! 相変わらず冷たいエロドワーフが……!」
毎日毎日お願いに来てもこんな調子で追い返される。
もうこうなったらアリスに頼むしかないか……?
ちょっと一晩、このエロドワーフにお酌でもしてもらって――。
「やあ、今日は珍しいお客さんがいるね、ゼガル」
「ああ、クロアじゃねぇか。もう出来てるぜ。まったく、とんでもない『妖刀』を任せやがて……。俺じゃなきゃ鍛冶できない代物だぜ、ありゃ」
「ふふ、でもばっちり完成したんだろう? ゼガルの腕の良さは僕が一番良く知っているからね」
完全に俺をスルーしたゼガルは一旦店内に戻ってしまう。
そしてすぐに一本の刀を持ってきた。
紫色のもやがかかった、明らかに曰くつきっぽい刀――。
「『名』は判明した?」
「当たり前だろうが。これは《和光侍雷阿》。お前さんの得意な【雷魔法】との相性は『SSS』だ。まさにお前さんのためにあるような刀だな」
和光侍雷阿と呼ばれた刀をイケメン青年に渡したゼガル。
……ていうかさっき『クロア』って言ってたか。
どこかで聞いた名前のような気がするけど……。
『おい』
「ひいぃ!」
いきなり背後から声を掛けられて悲鳴を上げる俺。
この声は――。
『やはりこの前のヅライムか。お前がゼガルの店にいるということは、弟子になりにきたというわけだな』
フサフサの尻尾を持つキツネの化物。
初めてこの街に来たときに、俺を匿ってくれたモンスターだ。
「おどかすなよ……。あ、思い出した。確かお前の主人の名がクロア――」
「おや、知り合いだったのかい、九尾。君が他のモンスターと知り合うなんて珍しいね」
俺とキツネとの会話に割って入ってきたイケメン青年。
そうか。このキツネは『九尾』というのか。
『知り合いではございません、ダンナ。数日前にこの街を騒がせた野生モンスターがこいつっていうだけです』
「ああ、あのときの……。でもこうやって普通に街を歩いているということは、【パートナー】を見つけたってことだろう? 良かったじゃないか。君も同じモンスターの友達を欲しがっていたし」
『……いや、あっしは同じキツネ型モンスターの友人が欲しいと言っただけで……。こんなヅラなしのスライムなんかどうでも良いのですが』
「ヅラなしゆうな! 今の俺にヅラなしゆうな!」
どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって……!
でも今は我慢のとき!
ここで暴走モードに入ったら、ゼガルの弟子になれなくなっちゃう!
「おい、そこのイケメン! お前からもこのエロおやじに頼んでくれ! 俺は鍛冶師になりたいんだ! だから弟子にして欲しいんだよ! そこのエロおやじの!」
「……遠回しに嫌がらせするのはやめんか。そんなに叫んだら客が来なくなるじゃろ」
すっごい睨んできたゼガル。
弟子にしてくれるまで、毎日でも叫んじゃうよ俺。
『この店の店主はロリコンです!』とか。
「ゼガル。君も確か弟子をとりたいって言っていたよね」
「おいおい、クロア。今のタイミングでその話はやめてくれ。俺が欲しいのは人間族かドワーフ族の弟子だ。ヅラなしスライムの弟子なんて真っ平ごめんなんだが」
「またヅラなしって言った!」
もう皆きらいー!
俺、暴走しちゃうよー!
『ゼガルのダンナ。あっしからもお願いします。こいつを弟子にしてやってください』
「おい、九尾までそんなことを……」
『こいつに鍛冶師の弟子になるようにアドバイスをしたのはあっしなんです。今となったら後悔してますが、あっしにも責任があります。どうか、この通り』
九尾が俺のために頭を下げてくれている。
あれ……なんか涙が出てきそう。
なんだかんだ言って、いい奴じゃねぇかよ、このキツネ……。
「頼む! なんでもするから! ヅラないと生きていけないの!」
俺も精一杯お願いする。
早くこのそわそわした感覚から脱したい!
「あー、もうウルセェ! じゃあ条件を出すぞ! 今から俺が言う『鍛冶素材』を期日まで全部集めてこい! それが出来たら弟子にしてやらぁ!」
「マジで! なんでも集めます! 俺、頑張ります!」
ようやく折れてくれたゼガル。
その様子を嬉しそうに眺めているクロア。
さあ、ここからが本番だ。
どんな試練でも乗り越えてやんぜ!
――ヅラのためなら!!
USER NAME/桂いさむ
LOGIN NAME/ヅライム
SEX/???
PARTNER/勇者アリス
LOGIN TIME/00065:33:32




