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Trans Sexual Online~のんびりほのぼのTS生活~  作者: an℟anju
第三章 それぞれの旅立ちと冒険
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052 イケメンショタ教授……?

「やあ、こんにちは。君が佐塚真奈美さんかい?」


 高校の臨時職員用実験室の隣。

 来賓用の部屋のソファで寛いでいた私に声を掛けてくる青年。


「あ、はい。すいません、お忙しいところ」


 慌てて立ち上がり頭を下げる。

 その様子をみて爽やかな笑顔を振りまいた青年。


 大野昭之助――。

 以前、ちらっとテレビ番組に映っているところを見たことがあったけど……。

 こいつは、ヤバい。

 かなりのイケメンだ。


「ちょっと実験室が散らかってましてね。このままここでお話を聞かせていただいても?」


 申し訳なさそうに答えた大野教授。

 私も実験中の学生らの邪魔をしたくないので、ここで話が出来ればそれに越したことはない。


「もちろん構いません。それで、早速で申し訳ないのですけれど――」


「せっかくお越しいただいたので、珈琲くらいは淹れさせてください」


「あ……。ありがとう……ございます」


 いきなりの先制パンチを喰らい、ノックアウト寸前。

 いや、珈琲を淹れてくれるという善意にノックアウトしそうになったのではない。

 ――あの『笑顔』だ。

 あのはにかんだ感じの、母性を擽るような笑顔。

 まるでショタのような笑顔。


 教授という権威を持ちながら、見た目はイケメン青年で、笑顔はショタ級。

 一体どんな三段活用ですかねこれ。


 珈琲メーカーから良い香りが漂ってくる。

 彼の後ろ姿もまた様になっているし……。

 こりゃ、結構な数の修羅場を潜っているのではなかろうか。

 当然、女性関係の修羅場に巻き込まれて、という意味なのだが。


「どうぞ」


「……いただきます」


 珈琲の入った紙コップを手渡され、口を付ける。

 嗚呼……美味しい。

 イケメンショタ教授の淹れてくれた珈琲とか、マズいわけがない。


「そういえば、佐塚さんは桂君の知り合いなんだとか。もしかして付き合っているとか、なのかな」


「ぶっ!」


 危うく珈琲を吹き出しそうになり、すんでのところで堪える。


「あ、いや、気を悪くさせてしまったのならすまない。僕も桂君には期待していてね。彼は論理的に物事を考えることに長けているし、研究熱心だからいつも助けられているんだよ。あまり女性と関わることに積極的ではないから、彼の知り合いということで女の子が訪ねてくると聞いて、もしかして……と思っただけなんだ」


 慌てて謝罪をした大野教授。

 その姿がまた可愛らしくて、お姉さんもう何でも許しちゃう。

 ……いや、違うだろ!


「あの馬鹿はただの知り合いです! たまたま友人と一緒に飲みにいったら、相手の友人があの馬鹿を連れていて、それで……!」


 ついつい声が上ずってしまい、一旦深呼吸をする。

 どうして私があんな馬鹿のことで慌てて弁解みたいなことをしないといけないんだよ!


「……それで、その、腐れ縁というか、たまに一緒にゲームをしたり、買い物に付き合ってもらったり、とか」


「そうなんだ。まあ、僕が言うのも何なんだけど、彼のことを宜しく頼むよ。ここ数日連絡が取れないのも、君のような友人と遊んでいるのかもしれないしね」


 大野教授の言葉に少しだけ違和感を覚える。

 ……あの馬鹿いさむが、数日も友人と遊んでいる?

 いやいや、あり得ない。

 私と一緒でそんなに友達は多くないはずだ。


「……いつからですか? 連絡が取れないのって」


「え? そうだな……ゴールデンウイークに入るだいぶ前だったから……四月の下旬くらいかな」


 今日が五月の八日。

 やはりおかしい。

 十日以上も大学に行かないなんて、あの勉強馬鹿にはあり得ない話だ。


「まあ、彼の話は置いておいて。……もしかして話ってこのことかな」


「あ、いいえ。妹さんの静香さんからお聞きして伺ったんです。大野さんは《Trans Sexual Online》というゲームを御存じだと」


「ああ、そういうことですか」


 大野教授はいつものはみかむような笑顔でそう答えた。

 でもちょっとだけ先ほどとは違う笑顔だ。


「今もかなり世間を騒がしてしますからね。佐塚さんも、あのゲームを?」


「はい。私は運よくログアウト不能状態から脱することが出来たんですけど、友人がまだあの世界に取り残されたままで……」


 早く春臣くんを助け出したい。

 日に日に焦りが募るばかりだ。


「それは気の毒に……。静香も僕もβテスターでしたからね。僕のほうは正式サービスのほうも少しだけプレイしました」


「そのときに何か異変は感じませんでしか? 例えば……そうですね。ログアウトの操作に違和感とか」


「うーん……。特にテストプレイのときと違いは見られなかったですね。あるとしたら、若干戦闘の際の行動データの読み込みを遅く感じたくらいでしょうか」


 顎に手を乗せ、私の質問に真剣に答えてくれる大野教授。

 

 その後もいくつか質問を繰り返したが、これといった成果は得られず。

 私は教授に礼を言い、その場を後にしようとする。


「あ、そうそう。桂君と連絡が取れるようだったら、彼に伝えてくれないかな。溜っている研究と課題を締め切りまでには間に合わせてくれって」


「分かりました。もしも連絡がきたら、そう伝えておきます」


「助かるよ。じゃあ、またいつでも遊びにおいで」


「ありがとうございます」


 またあのはみかみ笑顔で見送ってくれた大野教授。

 それにしてもさっきの違和感は一体何だったのだろう……。


 私はもう一度頭を下げ、今度こそ応接室を後にした。




















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