051 絶対絶命
「うーん……」
探せるところは探し尽くしたと思う。
人が居た形跡はあった。
でもそれは、何日も前のものみたいだった。
決して新しいものではないのは確かだ。
てことは、マナさんもこれを見て別の場所を探しに行ったのかな。
「どうしよう……」
とにかく、近くの街に行って聞き込みでもしてみようかな。
ガイア以外の街なんて初めてだけど、他に行くところなんかないし。
まずは手がかりを掴まないことには何も出来ない。
「そうと決まれば、まずはここから出ようか」
「……」
「ミヤ?」
ミヤがボクの腕の中で小さく唸りながら一点を睨みつけてる。
……何を見てるんだ?
そっちが壁で、何もない。
近づいてみるけど、やっぱり普通の岩で出来た壁だ。
「ミヤ、どうかしたの?」
「みゅう……」
「何かあるの? 見えない、なに、か……」
考えて、背中がゾクッときた。
いやいやいや、ここゲームの中だよ。そんなのいる訳ないじゃん。
やだやだ、ジャパニーズホラー怖い。
「と、とにかくここから離れようか。ね、ミヤ」
「ふみゅう!!」
「なに!? どうしたの、何があるの? 何かいるの?」
ミヤがボクの腕の中から飛び出し、岩をガリガリ引っ掻いてる。
どうしたんだろう。マップ的にもここは行き止まりだ。魔法でも何も表示されなかったし。
……もしかして隠し通路でもあるのかな。
だとすれば、マナさんもこの中にいる?
「ミヤ。何か分かるの?」
「みゅう!」
「何か、あるんだね」
だけど、どうすればいいんだろう。
どこか押せば開く的な?
でも、どこを触ってもただの壁だ。
『ひらけごま』みたいな呪文が必要とかだったら完全に詰みだよ。
「困ったなぁ……」
「みゅう!」
「……え?」
ミヤがボクのブーツを噛んできた。
なにか見つけたの?
そう思って屈んでみると、下のほうに何か色の違う岩があった。
こんな小さいの、ミヤじゃないと気づけないよ。
「……押してみるよ?」
「ふみゅ!」
ボクは恐る恐るその岩を押し込んでみた。
すると、ゴゴゴっと音を立てて壁が2つに割れて道が開けた。
まさかの本当に隠し通路があったなんて。
「ミヤ、よく気付いたね」
「みゅっ!」
「何、もしかして気をつけろって言ってる?」
「みゅみゅ!」
「やっぱり何かいるんだ……」
ちょっと……いや、かなり怖い。
でも、ミヤが一緒だし。
ここにマナさんがいるかもしれないし。
「い、行こうか」
「ふみゅう!」
慎重に、一歩一歩進んでいく。
隠し通路はさっきまでと違って人の手が入ってるみたいで壁が綺麗だ。
それに、なんか空気が冷たい。
うう、スカートだとスースーして余計に寒いなぁ。
女子って、よくこれで冬とか平気だよな。
風邪引くよ、こんなの。
「……あ」
開けた場所に出た。
なんか、奥のほうには祭壇みたいなものがある。
……もしかして、ここって神聖な場所だったりするのかな。
勝手に入ってきちゃダメだったかも……?
「ミヤ……。誰かの気配とか、分かる?」
「みゅ……」
ミヤが首を振った。
じゃあ誰も居ないのかな。
だったらなんでミヤはここを気にしてたんだろう。
「みゅ!」
「ん……? あ、これは……?」
祭壇の上には一冊の魔法書が置かれていた。
でも、これはなんの魔法書なんだろう……。表紙には何も書かれてない。
……『無の魔法』、とか?
まさかね、そんなものある訳ないか。
「それにしても、凄い場所だね。……あ、奥の方に水がある。小さな滝みたいな……」
この辺りの岩、所々が光ってる。
そのせいか水がキラキラと青く光ってて綺麗だ。
「みゅう!」
「え? あ、ミヤ!」
気付くとミヤが祭壇の上に飛び乗っていた。
そういう所って勝手に触ったりしたらダメじゃないかな。バチが当たったりしない?
ここがどういう場所かも分からないのに……。
「ミヤ、ダメだよ。ほら、降りて――」
ドドドドドドド!
ボクがミヤを祭壇の上から退けようとした、その瞬間――。
――入り口の方から地響きのような音が聞こえてきた。
「何!? 何が起きたのっ!?」
ボクは急いでミヤを裁断から退かそうとしたけど、ミヤは爪を立ててそこから離れようとはしなかった。
「ミ、ミヤ……!」
どうしよう……!
もしかして、通路の入り口が塞がっちゃったんじゃ……?
焦っていると、こっちへと近付く足音がしてきた。
マズい。盗賊が、戻ってきたんじゃないか……?
このままじゃ、逃げ場もない。
どう、しよう。
「おお、戻ってきたら知らない通路が出来てると思えば……。こんなところに可愛いお嬢さんがいるとはなぁ」
現れたのはガタイのいい男たちが数人。
……コイツらが盗賊なのか?
普通に強そう。ボクなんかじゃ相手にならないよ。
逃げたいけど、唯一の出口はコイツらに塞がれてる。
……ヤバイ。絶体絶命だ。
「ん? なんだ、その魔法書」
「なんだよ。ちゃんとお宝があるんじゃねーか」
「この洞窟、何もないから拠点を変えようかと思ってたけど……」
こいつら、この魔法書を狙ってるのか……。
だったら、さっさとこれを渡して見逃してもらおう。
……見逃してくれるか怪しいところだけど。
「お嬢ちゃんもそれ、狙ってきた口か?」
「い、いえ……ボクは……」
「ふみゅう!!」
「ミ、ミヤ……」
「みゅうみゅう!!」
どうしちゃったんだよ、ミヤ……!
その魔法書がそんなに気になるの?
ミヤに必要なものなの……?
――だったら、渡す訳にはいかない、よね。
「なんだ? コイツ……どけ!!」
「ミヤ!」
男の一人がミヤに向かって拳を振り下ろした。
ボクは反射的にミヤを庇い、モロにその拳を頭に受けてしまった。
「あーあ、女の子殴っちまったよ」
「どうするよ、その子」
「結構可愛いし、売っぱらうか?」
話し声が聞こえるけど、何を言ってるのか分かんない。
……駄目だ。意識が、朦朧としてきた。
ミヤ……。ミヤだけでも、守らなきゃ……。
ミヤ……逃げて――。
「みゅ……」
逃げて……!
「そっちのモンスターは倒しちまうか」
「そうだな。こっちはお嬢ちゃんみたく大人しくしてくれなさそうだし」
男が武器を構えてミヤに近付く。
もう、ボクは指一本も動かせない。
――ごめん、ミヤ。
ゴメンね――。
『……ハル』
意識を失う前に、その声が聞こえた。
……誰?
誰が、ボクのことを――。
駄目だ。もう、目を開けてられない。
――最後に、ボクの霞んだ視界に映ったのは淡い光と知らない男の人だった。
そして、逃げていく盗賊達――。
一体、何が、どうなったんだろう――。
USER NAME/片岡春臣
LOGIN NAME/ハル
SEX/女?
PARTNER/ミヤ
LOGIN TIME/0115:12:45




