043 九つの尾をもつキツネ
森を抜け、延々と荒野を突き進むこと約5時間。
ようやく街に到着し安堵のため息を吐く。
さて、だいぶ日も暮れたし今夜はこの街の宿に泊まろう。
――とか、随分陽気なことを考えていたわけで。
「もももモンスターだ!」
「……へ?」
「きゃああ! 野生のモンスターが街に侵入したわ!」
「え……? いや、ちょっと、あの……」
門をくぐったところでいきなり騒ぎになりました。
あっという間に俺の周囲には5~6人の衛兵が。
「ヅラを被っていないところを見るに、こいつは《はがれヅライム》だ! 油断するな! 中には狂暴化しているものもいると聞く! 皆、一斉に――――構え!」
衛兵の中のリーダーらしき人物の掛け声で、残りの兵士が一斉に槍を構えた。
「ちょっとおおぉぉぉ! どうして5時間も延々と歩いてきた矢先にこんなことになるのおぉぉ!」
「あ、逃げたぞ! 追え!」
全力でその場から逃走する。
だって同然だろ!
こんなところでいきなり討伐されてたまるかっての!
「は、速いぞ……! あのはがれ野郎!」
「逃がすな! 《はがれヅライム》ならば討伐報酬も飛躍的に上がるぞ!」
次第に追手の数が2倍、3倍に増えていきます。
ていうか《はがれヅライム》ってなんだよ!
あれか!
ヅラがはがれちゃってるからか!
なんでヅラを被っていないと討伐報酬が上がるんだよ!
そんなん聞いてないわ!
「うおおおおおお! 死んで……死んでたまるかああああぁぁぁぁ!」
◇
……なんとか……逃げ……だせた……!
呼吸困難で死にそう……!
「ぜえっ……! ぜえっ……! こ、ここは……どこだ?」
闇雲に逃げてきたから、ここがどこだか分からない。
もう辺りは真っ暗だし。
でも何とか逃げ切れたみたい。
『おい』
「ひいぃぃ!」
急に暗闇から声が聞こえてきて、声が裏返っちゃいました。
まさか、追手に見つかった……?
『お前か。街を騒がせている野生モンスターっていうのは』
「ど、どこだ! 姿を見せろ!」
闇に目を凝らしてもまったく姿が見えない。
しかし声はすぐ近くから聞こえてくる。
しばらく押し黙った様子の相手だったが、すぐにため息のようなものが聞こえてきた。
そして――。
『……これでいいか』
「ギャー! いきなり目の前に出て――むぐっ!?」
『騒ぐな野生モンスター。他の奴に見つかったらお前が危ないのだろう』
急に口付近をフサフサしたもので締め付けられました。
これは……尻尾?
「もがー! もがもがー! もんがー!(ギャー! めっちゃ尻尾がいっぱいあるモンスター! 死ぬー!)」
俺の口を尻尾で押さえていたのは、キツネのようなモンスターだった。
何本もある尻尾の一つを器用に使い、俺の身体ごと口を封じている。
『はぁ……。言っても無駄か。場所を変えるぞ』
「もがっ!?」
いきなり軽々と全身を持ち上げられた俺。
そしてそのまま大きくジャンプしたキツネさん。
死ぬ。
もう俺、ここで死ぬ。
――そして俺はそのまま気絶してしまったのでした。
◇
「ん……」
目を開ける。
どうやらどこかの部屋の一室に連れて来られたようだ。
こんな年端もいかないヅライムを拉致するなんて……。
とんでもないキツネだな、あいつ!
『起きたか』
「ひいぃぃ!」
再び間近に声が聞こえて縮み上がる俺。
ていうか何なのマジで!
怖いんだけど!
『……いい加減学べ。俺は【時空移動】の能力者だぞ。そんなことも知らぬモンスターがこの世にいようとは……』
「むーぶ?」
俺がそう聞き返すと、何もない空間からすっと姿を現したキツネ。
『……仕方ない。お前、何も知らなそうだから教えてやろう。俺は《九尾》。この街――商業都市ガイアで道場を経営しているクロアのダンナのパートナーだ』
「くび? がいあ? くろあ?」
一気に情報が入ってきて混乱してます。
もうちょっと分かりやすく、丁寧に、ひとつひとつゆっくりと説明してください。
『目覚めたばかりで悪いが、ひとつ質問がある。……お前の目的はなんだ?』
「ちょ、ちょっと待って……! もう何がなんだか……!」
『駄目だ。答えろ。俺は今すぐ、答えを知らなければならない。お前がこの街に、クロアのダンナに害を成す存在なのか、それとも――』
「ち、違う! 別に俺は街を襲いにきたわけじゃねぇ! 街に来たらヅラが手に入ると思って、それで……!」
『……ヅラ?』
「うん!」
思わず満々の笑みで返事をした俺。
ヅラの話をしているときが一番幸せだから仕方がない。
『……なるほど。経緯は知らんが、大事なものを無くしてしまったようだな。さっきも言ったがこの街は商業都市だ。特に流通に関しては世界でも5本の指に入るくらい大きな街だ』
「マジで! じゃあ売ってるかな! ヅラ!」
急に目の前が明るくなってきました。
やっぱりこの街に来たのは間違いじゃなかった……!
『……お前、本当に何も知らないのだな』
「……え?」
『この世界の【法律】さ。お前の言うとおり、この街では何でも手に入る。……が、お前はモンスターだ』
「うん」
『……モンスターということは、Gを所持することができない。店で買い物をすることもできない』
「…………はい?」
今、なんつった……?
『そして人間族とまともに交流することもできない。例外なのは【仲間モンスター】だけだ。つまり、人間族の主人を選び、パートナーとなること』
「…………」
さっきまでの高揚が嘘のように引いていきました。
俺ひとりでは、ヅラひとつ満足に買うこともできない……。
そんな馬鹿な……!
「じゃあどうすればいいの! ヅラが無いと生きていけない!」
『うっ……。唾を飛ばすんじゃない。慌てるな。まだ方法がないわけじゃない』
「教えて! なんでもするから教えて!」
『わ、分かったから、そのベトベトした身体を寄せてくるな。さっきお前を運んだ時についた汚れを綺麗に落としてきたばかりだと言うのに……』
すごく嫌そうな顔をして距離をとられました。
地味にショック!
『……こほん。いいか、一回しか言わないからよく聞け。さっき伝えた《パートナー》を利用すればいい。お前の仕える主人を鍛冶職人に決めるんだ。そうすれば【武具生産】の能力を引き継ぐことができる。その能力を使い、欲しいものを自分で作成すればいい』
身体に付着した俺の液を尻尾で拭いながらそう言ったキツネ。
鍛冶職人……?
そういえばあの女勇者もそんなことを言ってたっけ。
すっかり忘れてたけど。
「……作る? 俺が……ヅラを?」
……もしかして、最強のヅラとかもいつか作れるようになる?
最強の剣とか作るのやめて、そっちを作るのを目標にしたほうがよくね?
「嗚呼……! なんか……ワクワクしてきた!」
『あ、おい! …………行っちまった。大丈夫か、あのヅライム……』
後ろで何か聞こえた気がしたが、俺はもう止まれません。
はやる気持ちを押さえ、俺は鍛冶職人を探すため、夜の街をひた走るのでした。
……もちろん、街の衛兵に見つからないように、こっそりと。
USER NAME/桂いさむ
LOGIN NAME/ヅライム
SEX/???
PARTNER/――
LOGIN TIME/0009:45:51




