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Trans Sexual Online~のんびりほのぼのTS生活~  作者: an℟anju
第三章 それぞれの旅立ちと冒険
41/79

039 新たな物語

 《Trans Sexual Online》――。

 自身の性別とは異なる性別となり、広大に広がるVR世界で自由奔放に遊び尽くすことができるオンラインゲーム。


 俺ことかつらいさむがこのゲームと出会ったのが4月の下旬だ。

 幼馴染の女子大生と痴話喧嘩をしてムシャクシャしていた俺は、発表当時から話題になっていたこのゲーム――《TSO》を購入した。


 手のひらサイズのCPUにゲームカードを装着し、イヤホンを付ける。

 記憶情報とデータバンクをリンクさせ、ログインスタート。


 眩暈とともに左指にわずかな痛みが走る。

 それが右指に渡り、全身へと広がっていく。


 そして次に目を開いたときは、広大な草原が広がる世界で、俺は女の姿に――。


 ――なっているはずだった。





 目を開ける。

 ……そもそも瞼がない。


 周囲を見回す。

 ……グニャリと変な音が周囲に響き渡った。


「……」


 何か喋ろうと口を開く。

 すると「ぬちゃぁ……!」という気味の悪い音が俺の口付近から聞こえてきた。


「…………なにこれ」


 口の状態を確認しようと手を伸ばすが、届かない。

 というか、手がない。

 『目も開かないのに手がないことが認識できる』という摩訶不思議な状態に見舞われ混乱する。


 さて困ったと思い背後を振り向いてみると、そこに小さな泉があった。

 そこでようやくここが泉のほとりだと気付く。


 俺は恐る恐る泉まで歩いていった。

 歩くたびに「びちゃぁ……! ぐちょぉ……!」という音がして、もう俺はどうしたらいいのか。


 泉に辿り着き、水面を覗き込んだ。

 そこには、緑の塊が映り込んでいた。


「…………なにこれ」


 声を出すと、緑の塊の中心に穴が開いた。

 どうやらここから声が出ているらしい。


「スライム……?」


 今までの記憶をたどり、これがどうやらスライムだと気付いたのはいいが。

 それよりも俺を困惑させたのは、スライムの頭に乗っている『あるもの』だった。


 よくテレビで漫才師が被っているようなアレ。

 一発芸とかでも使われそうな、鼻めがねに次ぐ人気商品のアレ。


 そう――。

 ハゲヅラだ。


「スライムがハゲヅラを被っている……」


 スライムが、ハゲヅラを、被っている。

 一体、何のために?

 しかし、何故か俺の心は幸福感に満ちている。

 これは、このハゲヅラから与えられている恩恵……?


 小一時間、俺はそこで幸福を噛み締めた。

 ヅラを外したり、付けたり。

 それを延々と繰り返し、十分に幸福を全身に感じ、満足する。


 そして次第に脳内がクリアになってきたことを確認し、まずは自身のステータスを確認してみることにした。

 まずは、というか、ようやく、かな。


 空間をダブルタップする。

 ……指が無いからタップできない。


 少し悩んだ俺はハゲヅラを外し、右手っぽい部分に構える。

 そしてヅラでダブルタップをしてみた。


 すると緑色の画面が空間に出現した。

 なんて使えるヅラなんだろう。

 やっぱりこれは万能にして至高ともいえるハゲヅラなのだろう。


 ヅラを元の位置に戻し、俺はステータスを確認した。


====================

NAME/ヅライム

WEAPON/--

ACCESSORIES/最初のハゲヅラ

SKILL/--

MAGIC/--

====================


 簡易的なステータス表記。

 画面を開くと、まずはこれが表記されることは説明書を読み、すでに把握している。


 問題なのは――。


「……名前が『ヅライム』。確かログイン前の初期設定画面で、俺のユーザーネームを『サム』にしておいたはずなんだが」


 それが、どうして『ヅライム』?

 しかも女にTSするのではなくて、スライム型モンスター?

 色々おかしなことになっている……。


「でもまあ、運営にメールすればすぐに解決してくれるだろ」


 再びヅラを外し、ステータス画面をめくる。

 ヅラでめくるって、なんか新しい世界感が広がりそう。

 運営への報告画面を発見し、そこでメッセージを入力した。

 が、なかなかうまく文字が入力できない。


 俺はハゲヅラに数本生えたなけなしの髪を束ね、それをタッチペン代わりにしてタップした。

 おお、いいぞ。

 スムーズにメッセージが入力できる。


「……これでよし、と。あとは送信ボタンを……」


ブー。


「……ん?」


ブー。


 何度『送信』を押してもメールが送れない。

 そして5、6回押したところで、今度はエラー画面が表示されてしまった。


「『ただいま調整中につき一部の操作が無効になっております』……?」


 運営への連絡を諦めた俺は、今度はログアウトボタンを探すことにした。

 しかしそこにも同じエラー画面が表示されている。


「……」


 ログアウト……できないの?

 え? まじで?

 ……いや、ちょっと待て。落ち着け、いさむ。

 確かこの世界の時間の流れは、現実よりもかなり早かったよな。

 100倍? 1000倍?

 つまり、何日もこの世界からログアウトできなかったとしても、現実世界では数分くらいしか経過していないということだ。


「じゃあ、別に焦ることねぇじゃん」


 自身の置かれた状況が大した事態に陥っていないと判断した俺は、再びヅラいじりに没頭した。


 そしてさらに小一時間が経過し、泉のほとりに『とある人物』が現れることとなる――。


















USER NAME/かつらいさむ

LOGIN NAME/ヅライム

SEX/???

PARTNER/――

LOGIN TIME/0002:12:15

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