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Trans Sexual Online~のんびりほのぼのTS生活~  作者: an℟anju
第二章 出られないけどほのぼの生活
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036 集団昏睡事件

 目を覚ます。

 一体どれくらい眠ってしまったのだろう。


「ふわぁ……。う……お腹が重――くない?」


 あれだけヅラっちの作った料理を貪るように食べたのに、逆にお腹が鳴ってしまった。

 一体どういうことなんだろう。

 いや、お腹だけではない。

 喉もカラカラだ。


 辺りを見回す。

 そして私は絶句する。


「……なんで?」


 見慣れた部屋。

 右手には手のひらサイズのCPUを握り締めている。

 そして耳にはイヤホンをつけている。


 ふと目の前に置いてあるものに視線がいく。


『5月5日 13:47』


「5月……5日……?」


 震える手でイヤホンを外し、置き時計に視線が釘付けになる。

 ここは、現実の世界だ。

 なぜか私は元の世界にログアウトをしてしまったのだ。

 いや、そこまではなんとか理解出来る。

 しかし――。


「どうして……? どうして・・・・時間が・・・こんなに進んでるの・・・・・・・・・……?」


 記憶を呼び覚ます。

 私が《TSO》の世界にログインしたのは、5月3日の大学の講義の補習が終わったあとだ。

 午前中に終わった補習授業から急いで帰宅したのが正午すぎだったはず――。


 私はもう一度、時刻を確認する。

 5月5日。

 午後13時49分。


 私はあの世界にどれくらい居たのだろう。

 確か直前に確認したログインタイムは49時間を越えたくらいではなかったか。

 ログインを開始したのが5月3日の12時半くらいだったとして――。


「……時間が・・・ほぼ合ってる・・・・・・?」


 私は頭を抱えて蹲る。

 え? どういうこと?

 《TSO》の世界での1年が、現実世界では1日なんじゃなかったの?

 これではあっちの世界でも現実世界でも、時間の流れが同じということになってしまう。


 私ははっと顔を上げる。

 そうだ。運営元に電話をしてみよう。

 もしかしたらサーバーが復旧して強制ログアウトとかになったのかも知れないし。

 きっとそうだ。

 それだったら色々と納得出来る。


 私はテーブルに置いてあるパソコンを起動する。

 そして《TSO》の運営元の住所と連絡先を検索する。


「……あった! ええと――」


 携帯を取り出し電話を掛ける。

 しかし――。


「どうして……? なんで通じないの……?」


 これでは状況がどうなっているのか分からない。

 私はパソコンのホームボタンをクリックする。

 検索エンジンのトップページへと画面が移行する。


 そこにトピックスとして現れた記事――。


『謎の集団昏睡事件。原因はイヤホン型記憶誘導装置の誤作動か』


 その記事を見た途端、私の心臓がどくんと高鳴る。

 まさか――。


 震える手で記事をクリックする。

 そこには事件発生から現在に至るまでの内容が簡潔に記されていた。

 

 『謎の昏睡症状が出た患者は今現在判明しているだけで124人』

 『イヤホン型CPU装置の開発元であり、《Trans Sexual Online》の運営元は未だ会見を行ってはいない』

 『抗議の電話が集中したために、現在は回線を切っている模様』

 

 しかし私は《TSO》の世界で、運営からのメッセージを聞いた。

 そこで説明された不具合は『サーバー負荷が掛かった為、一部機能が停止している』とのことだったはず。


「あの説明は……嘘だったの?」


 ログインプレイヤー達の混乱を防ぐための処置だと考えるのが普通だろう。

 もしもこの事態をプレイヤー達が知ったら、あの世界は大変なことになる。


「でも、どうして私は戻って来れたの……?」


 どれだけ考えても理由が分からない。

 たまたま私のイヤホン型CPUは誤作動が少なかったのか。

 それとも別になにか理由があるのだろうか。


「……ハルくん……。ハルくんは……?」  


 彼の安否が気になる。

 確か彼は都内の中学校に通う学生だったはずだ。

 名前は片岡春臣かたおかはるおみ


「……探さなきゃ」


 私はフラフラと立ち上がる。

 軽く貧血症状を起こしているみたいだ。

 無理もない。

 丸二日、飲まず喰わずで昏睡していたのだから。


 台所に向かいコップに水を注ぐ。

 カラカラに乾いた喉を潤した私は、深く息を吐く。

 大丈夫。

 意識はしっかりとしている。


 もう一度パソコンの検索エンジンを使い、ハルくんの通う学校の住所と連絡先を割り出す。

 一応念のために電話を掛けてみたが繋がらない。

 まだゴールデンウィーク中だから、学校はお休みなのだろう。

 

 次に警察署へ連絡する。

 もしかしたらハルくんも昏睡症状を起こして保護をされているかもしれない。

 名前と学校名を告げ、知り合いだから安否を知りたいと伝えれば現状くらいは聞き出せるだろう。





「……そんな……」


 私は落胆し、携帯を置く。

 昏睡が発覚し保護された124名の中にハルくんの名前は無かった。

 ならば私のように無事に昏睡から目覚めたのかと思い、自宅の番号を教えてもらい電話をした。

 電話に出たのはまだ若い女性だった。

 すぐに彼女がハルくんの母親だと分かった。

 彼女は電話先で泣いていた。


 二日前からハルくんは行方不明だった。

 友達の家に泊まっているのかと思い、方々を連絡したが見付からなかったそうだ。

 警察のほうにも捜索願いを出したばかりらしい。

 先程電話で応対してくれた警察官はそのことを知らずに、私にハルくんの住所と連絡先を教えてくれたのだ。


 恐らく、ハルくんはまだ《TSO》からログアウトをしていない。

 そして昏睡状態のままなのだろう。

 保護された124名の患者は病院で点滴治療を受けているから、今のところ命に別状は無い。

 しかし――。


「……早く見つけてあげないと……」


 現実世界とTSOの世界は、同じ時間が流れている。

 あちらの世界で食事を摂ったとしても、現実世界の腹が満たされるわけではない。

 このままではハルくんや、他に昏睡状態から発見されていないプレイヤーが『餓死』してしまう――。


「ハルくん……。どこ……? どこにいるの……?」



 ――イヤホン型CPUを握り締め、私はその場に立ち尽くしてしまった。


















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