034 手料理
無事にハルくんと合流し、ほっと胸を撫で下ろす。
もう、迷子になっちゃうなんて可愛いんだから。
しかも可愛い猫型モンスターまで保護してるし。
ゴスロリ姿のハル君と羽の生えた猫型モンスターのツーショット。
うん……。
私とヅラっちとの格差があまりにも大き過ぎる……。
オカマと呼ばれる女装男子とハゲヅラを被ったスライム。
この世の終わりか。
私は一体何をしているのだろう。
『お、帰ってたのか。……なんだその沈んだ顔は』
家に戻りエプロンを着たヅラっちに出迎えられる。
食事の準備をしていたのだろうか。
家中に良い匂いが漂っている。
私はぽんっとヅラっちのなで肩を叩く。
何かを悟った顔で。
スライムに肩があるのかどうかなんて知らんけど。
「お互いに、一生懸命生きているんだね……」
『……意味分からん』
そう答えたヅラっちは台所へと向かって行く。
ハル君には既に盗賊退治の為に洞窟へと向かうと伝えてある。
食事を済ませ、装備を整えたらクロアに合流しよう。
ヅラっちには留守番を頼もうか。
炊事洗濯掃除、その他もろもろを全て丸投げしよう。
私がやるよりも遥かに早いだろう。
仕事が出来るヅラなのだ、このスライムは。
私は食卓に付く。
そして用意された料理に箸をつける。
「うわ……! めっちゃ美味しい……!」
テーブルに用意されたのは和食一式だ。
特にこの魚の煮付けとかマジヤバイ。
ビールとか飲みたくなっちゃう。
そういえばこの世界にビールは存在するのだろうか。
何でもありの世界だから、きっと探せば何処かにあるのだろう。
今度雑貨屋で聞いてみよう。
『だろう? お前は和食が好きだって言ってたからな。腕を揮って作ったんだぜ』
満面の笑みでそう答えるヅラっち。
まあスライムだから表情なんて分からないんだけど。
それにこのおひたし。
これも味が染みててマジ旨い。
これがイケメンの手料理だったら確実に落ちるな、私。
「はぁ……。あんたがクロアやスザン先生くらい格好良かったらなぁ……」
つい愚痴を零す。
もしくはハル君みたいに美少女でも良い。
私は美しいものだったら性別は問わない主義だ。
美しいものとは程遠いヅラっちは本当に勿体無い。
転生とかしてくれないだろうか。
イケメンかショタっ子か美少女に。
『失礼な奴だなお前……。まあ、最初の出会いからそんな事はとっくに分かっていたがな』
「出会いとか言わないでよ気持ち悪い」
『気持ち悪い!? お前、俺の唇を奪っておいて良くそんな事を…………あっ』
急に黙り込むヅラっち。
うん。
凄く気持ち悪い。
食事を堪能した私は席を立とうとする。
『おい。デザートもあるけど、食べないのか?』
「マジで! 食べます!」
光の速さで再び着席する私。
溜息を吐いたヅラっちは冷蔵庫からデザートを持ち出す。
目の前に出されたのは茶色い色をしたケーキだ。
ほんのり南瓜の香りがする。
『南瓜のケーキを作ってみた。そろそろハロウィンだろう? 趣向を凝らしてみたんだが』
私は凝ったデザインのケーキをフォークで刺し、口に運ぶ。
南瓜の香りが口いっぱいに広がる。
死ぬほど美味しい。
涙が出そうになるほどに。
「どうやって作ったのこれ……。こんなに美味しい南瓜のケーキとか食べたことないんだけど……」
正直に感想を言う私。
素材の味を生かした、最高に美味しいケーキ。
こいつどんだけ多芸なヅラなんだろう。
本当に勿体無い。
『レシピは秘密だ。俺は元々料理人を目指していたからな。仲間からは馬鹿にされていたけど、結構本気で修行してたんだぜ』
鼻の穴を広げながらそう言うヅラっち。
どこが鼻の穴なのかさっぱり分からないけれど。
でも、本当に美味しい。
何個でも行けちゃいそう。
もしかしたら、私太っちゃうかもしれない。
こんなに美味しい料理を毎日出されちゃうと。
丸々一個平らげた私は満足そうに背もたれに身体を預ける。
死ぬほど美味しかった。
もう動けない。
これから洞窟に向かう予定だったのにどうしよう。
「あ、そうだ。言ってなかったけど、街で盗難騒ぎがあってね。これからクロアと一緒に盗賊のアジトに向かおうと思って」
今更ながら今まで起きた説明をする私。
『盗難……? もしかして俺がフリーズしてたのと関係があるのか?』
「まあね」
食後の珈琲を用意してくれたヅラっち。
私はフーフーしながらその珈琲を頂く。
『気を付けろよ。まあ、あの戦狂乱の兄ちゃんが一緒なら心配は無いんだろうが』
「へぇ。一応心配してくれるんだ」
『ばっ……! 当たり前だろう! 俺とお前はパートナーなんだぜ! 心配するに決まっているだろう!』
真剣な表情でそう答えるヅラっち。
うん。
ごめん。
凄い気持ち悪い。
そのベトベトの顔を私に近づけないで。
ホントごめん。
「とりあえずちょっと休憩したらすぐに向かうから。あとの事は宜しくね」
椅子から立ち上がり自室へと向かう。
もの凄くお腹が重い。
マジで食べ過ぎた……。
『大丈夫かよホント……』
後ろでヅラっちの呟きが聞こえたが今の私には余裕が無い。
ちょっと横になって消化を早めよう。
このままでは胃がもたれてしまう。
自室に戻り横になる。
でも本当に美味しかった。
今度はハル君を家に招いて一緒に食べよう。
料理とか好きそうだし、案外ヅラっちと仲良くやってくれるかもしれない。
そんな事を考えながら私は夢の中に誘われた――。
USER NAME/佐塚真奈美
LOGIN NAME/マナ
SEX/男?
PARTNER/ヅラっち
LOGIN TIME/0049:24:55




