030 迷子
ルーイさんのおかげであっという間にお店の内装はいつでも営業できる状態になった。
でもさすがに今日から開店、っていうのは無理がある。
だってアイテム揃ってないから。
「うーん……。素材も少ないし、調達しなきゃ」
とはいえ、ミラさんの話ではシグさんは他の街に行っちゃったみたいなんだよね。
もっと色んな食材買っておきたかったんだけどな。
ミラさんのお店にあるもので使えそうな素材は大体買っちゃったし。
「ボクじゃモンスターと戦ってアイテムを集めたりとかはできないしな……」
そういえば、マナさんってパートナーがいるんだよね。
ヅラっちさんだっけ。
ボクもそういうパートナー欲しいなぁ。
お店のマスコットになるような可愛いパートナー。
でも、そういうのってどこで出会うものなんだ?
やっぱ森?
でも危ないよね?
「……うーん」
まぁいいや。
とにかく明日から開店できるように色々と商品を揃えておかないと。
とりあえず、畑を見に行こう。
水やりしないと。
◇
数十分して、畑の水やりを済ませてお菓子を沢山作った。
焼き菓子はまだ時間掛かるけど、ある程度のものは作れたと思う。
マナさんから連絡はまだないな。
アイテムの回復量とか、色々と聞いておきたかったんだけど。
「……確か、クロアさんって方に借りた家にいるんだっけ」
行ってみようかな。
マナさんのお友達なら、ボクもこれから会う機会があるかもしれないし。
それに、マナさんに綺麗になったお店を早く見てもらいたいもんね。
「どこだったかな。ミラさんに聞けば分かるかな」
ボクは出来上がったお菓子をアイテムボックスに仕舞う。
これで良し、っと。
もっと街のこと色々と知りたいし、お店を巡ってみるのも良いかも。
◇
街に出ると、まだちょっとみんな騒いでるっぽい。
まぁ、仕方ないよね。
ログアウト出来なくなっちゃった訳だし、止まってたNPCも急に動き出したんだから。
ボクだってマナさんと出逢えなかったら一人で泣き喚いていたはず。
「うーん……。借家ってどこだろう」
ちゃんとどこにあるのか聞いておけばよかった。
ていうか、ボクの格好って変なのかな。
さっきからチラチラと見られている気がするんだけど、気のせいかな。
いや、自意識過剰なのかもしれない。
こんな恰好、普段はしないから落ち着かないだけだ。うん、そうだ。
ていうか、女子ってよくこんなヒラヒラしたの着れるよな。
股の辺りがスカスカして変な感じ。
機能性も悪くないかな。
まぁ、可愛いとは思うけど。
「……」
どうしよう。
ちょっと、困ったかも。
迷っちゃった、かな。
「こういうときはどうしたらいいんだ!? ま、マップとかあるのかな?」
わからない。
どこ見ていいか分かんない。
リアルでも方向音痴だけど、まさかゲームでも迷うなんて。
「あ」
そうだ。
さっき教えてもらったアドレス。
マナさんに相談しよう。
道に迷った場合はどうしたらいいのか。
「えーっと……お忙しいところ申し訳ありません。大変情けないのですが、道に迷ってしまいまして……」
ボクは画面をタッチしながらマナさんにメールを打つ。
送信を押して、あとは返事が来るのを待つだけ。
「あれ?」
路地裏の方から声が聞こえた。
なんだろう。
物凄く小さい声だから聞き逃すところだったけど。
こっちかな。
ちょっと暗い路地を行き、キョロキョロと周りを見渡す。
この辺、ちょっと怖いかも。
街外れの方まで来ちゃったっぽいから、モンスターとか出てきちゃいそうなんだけど……。
「キュウ……」
「あ!!」
小さな小動物みたいなのが傷を負って倒れてた。
なんだろう。猫っぽい?
――ボクはその動物を抱き上げて、マナさんからの返信を待った。
USER NAME/片岡春臣
LOGIN NAME/ハル
SEX/女?
LOGIN TIME/0047:42:12




