029 一目惚れ
ハルくんと別れ中央通りを練り歩く。
確かにNPC達が動き出している。
これならクロアもスザン先生もメリルさんも、きっと無事のはず。
『いやぁ、それにしても美少女だったぜ……』
未だに夢見心地状態のヅラっち。
こいつ……。
本当にハルくんに一目惚れしちゃったんだ……。
「うーん……」
私は腕を組み思案する。
このヅライムは見た目とは違い結構仕事が出来るヅラだ。
掃除、洗濯、料理。
その他身の回りのこととかも出来そうだし。
先程、NPCが動き出す前にハルくんと『一緒に暮らそう』的な雰囲気になっちゃったんだけど。
私もいつまでもクロアの所でお世話になるわけにはいかないし、いずれはちゃんとした家にも住みたいし。
それまでは何かと心配なハルくんと共同生活をしてみるのも楽しいのかなって。
だがしかし。
問題はこのヅラをどうするか、だ。
ハルくんのお店経営のサポートを手伝わせようかとも思ったが――。
『いやぁ、マジ美少女。俺好み。付き合いたい。告白しちゃおっかなぁ』
「・・・」
不安だ。
凄く、不安だ。
この色めいたヅラは何をしでかすか分からない。
どうしよう。
このまま殲滅してドロップアイテムだけ徴収するか。
『……? おい、オカマ。お前、どうしてナイフを抜こうとしている……?』
私の行動に気付いたヅラっちは一歩だけ後ずさる。
「あ、大丈夫大丈夫。痛いのは最初だけだから」
私はニヤリと笑いながら一歩だけ近付く。
『……あの。意味が分からないんですが』
身の危険を感じたのか。
ヅラっちは自らのヅラを外しまるで盾のように構える。
「あ、大丈夫大丈夫。分からなくても、万事丸く収まるから」
ナイフを腰に構え、力を集中する。
せめてもの情けだ。
一撃で葬ってあげよう。
短い時間だったけど、本当にありがとう。
さらば、マイ・フェイバリット・パートナー……。
『おま……! マジかよ……! まさか……嫉妬か! 俺が美少女に一目惚れしたから!』
「ちょ……! 違うわよ! ハルくんの為よ! 貴方なにしでかすか分かんないじゃないの!」
『オカマの嫉妬か……! 世にも恐ろしいことすんじゃねぇ! えい!』
「あっ! 眩しい!」
盾として構えていたヅラを太陽の光に反射させ、目眩まし攻撃をしてきたヅラっち。
もろに太陽光が目に突き刺さった私はその場に蹲る。
『目を覚ませ……! 確かに俺ぁ、あの子に一目惚れしたけどな……! 俺はお前の『パートナー』なんだぜ……! 俺とお前は一心同体! 身も心も一つなんだ! なぜそれが分からない!』
「ちょ、やめて! 反射させないで眩しいから!」
『やめないッ! 俺はお前が分かるまで、反射させるのをやめないッ!』
反射された太陽光から顔を逸らそうと避けるが、執拗に顔を狙い続けるヅラっち。
こいつ……!
反射に慣れてやがる……!
「分かった! 分かったから! 降参するから! ……あとでこっそり後ろから刺すから」
『よし。分かったならそれで……え? いま最後になんつった!』
一旦下げたヅラを再び私に向けるヅラっち。
駄目だ。
収集が付かない。
今回は降参しよう。
そしてもしもハルくんの身に何かが起こりそうだったら、躊躇なく後ろから刺そう。
道行く人々が私達の周りを取り囲んでいる。
そして聞こえて来る野次馬の声。
『こいつらは一体なにをしているんだ』と。
確かに傍目には異様な光景に映っているのかもしれない。
ナイフを構える女(見た目は)と、ハゲヅラを太陽に反射させているヅライム――。
うん。
今になって、凄く恥ずかしい――。
◇
一時休戦し、借家に到着した私達。
玄関の扉を開けて、とりあえず中に入ろうとする。
「ただい――うおっ!?」
誰も居ないけど、とりあえず『ただいま』と言おうとした私の声が裏返る。
玄関には綺麗に正座をして目を瞑っているクロアの姿が。
そして床には長い刀が綺麗に置かれている。
「おかえり、マナ。待っていたよ」
スッと薄目を開けたクロア。
いや、確かに格好良いんだけど、なにしてんの人ん家で。
『だああああ! まだ居やがった! おいマナ! なんとかしろよこの戦狂乱をよ!』
「お前はさっきの……。そうか、そこの変わった格好のモンスターは君の『パートナー』だったのか」
私の後ろに隠れるヅラっちに納得した表情を向けるクロア。
なんだったら斬ってくれて構わなかったのに。
私があとで後ろから刺す面倒が無くなるし。
「どうしたのクロア? ていうか無事で良かったわ」
「……やはり君は知っているんだね。説明してもらおうか。僕の……僕達の身に何が起こったのかを」
――それから小一時間かけて、私はクロアに事情を説明しました。
USER NAME/佐塚真奈美
LOGIN NAME/マナ
SEX/男?
PARTNER/ヅラっち
LOGIN TIME/0043:24:15




