001 仮想空間へ
「暑い……」
まだ5月だというのにこの暑さ。
ゴールデンウイーク真っ只中の東京はまるで灼熱の砂漠のようだ。
「暑い……死ぬ……」
燦々と降り注ぐ太陽のなか、アイスを頬張る。
5月でこんなに暑ければ、今年の夏はどうなってしまうのか。
考えただけでも恐ろしい。
時刻は正午。
大学の講義も今日は午前中で終わりだ。
というかゴールデンウイークに補習授業とは……。
「さて、と……」
残りのアイスを一気に食べ終え、私はベンチから立ち上がる。
こんな暑い所にはいられない。
さっさと帰ってあそこに行かなくちゃ。
ようやく手に入れた人気VRMMO。
正式サービスは今日の午後から開始される。
なんといっても醍醐味はTS(=性転換)だろう。
いや、別に性転換の手術を受けるとか、そういう生々しい話ではない。
これはゲーム内での話。
私こと佐塚真奈美は人生で一度で良いから『男』になってみたかったのだ。
それがこのゲームでは叶う。
男の身体を手に入れて、仮想空間で縦横無尽にモンスター共をバッタバッタ――。
「嗚呼……。なんて快感……」
一人そう呟きながらも足早に帰路につく。
明日から講義も休みだし、恐らくこのゴールデンウイークは家に篭ってゲーム三昧になるのだろう。
彼氏もいないし、友人も少ない私にはお似合いの休日の過ごし方だ。
ホクホク顔でそんな事を考えながらも帰宅する。
◇
家に着くなりゲームを起動。
手のひらサイズのCPUにゲームカードを装着。
イヤホンを付け、記憶情報とデータバンクをリンクさせる。
軽い眩暈に襲われながらも、意識が徐々に落ちていく。
仮想空間に入るときはいつもこの感覚だ。
小さい頃からずっとVRMMOをやって来たのに、未だに慣れない。
七色の光が瞼の裏に映し出される。
脳内の情報がCPUにインプットされる。
左手の指先にチクリと軽い痛みが走る。
それが頭を通過して右手の指先に。
そして全身へと広がって行く。
一瞬強い光が瞼の裏を照らし出し――。
――私は《Trans Sexual Online》の世界へと誘われる。
USER NAME/佐塚真奈美
LOGIN NAME/マナ
SEX/女
LOGIN TIME/0000:00:15