026 これから
親に無理を言って買ってもらったゲーム、《Trans Sexual Online》。
そこで女の子としてゲームをプレイしていたボクなんだけど、ある日突然ログアウト不能と言う事態になってしまった。
現実での一日、つまりゲーム内での一年間はずっとこのまま。
なんか不具合があったとからしいんだけど、急にミラさんやルーイさんが動かなくなっちゃって、物凄く不安だった。泣いちゃったくらいだし。
でも、そのあと街でマナさんってプレイヤーと出逢って、ボクの家に招いて食事をごちそうした。
マナさんはこういうゲームに詳しいから凄く頼もしい。
最初は男の人。えっと、現実で男の人なのかって勘違いしちゃったんだけど、マナさんは女の人。
だからTSOでは男なんだけど、なんか女の格好の方が好きみたいで女装をしてるんだって。
あれ、リアルでは女の人だから女装って言うのかな?
「これからどうしましょうか……」
「そうだね……NPCが動かない訳だし、結構行動が制限されちゃいそうだよね」
「一年もみんな動かないんですよね……」
ミラさんたちのことを思いだし、ボクはまた泣きそうになった。
ミラさんたちにもボクの作ったご飯、食べてほしかったな。
「ハルくん?」
「え、あ! ごめんなさい。これからどうなっちゃうのかなって考えてて……」
「やっぱり不安だよね」
顔に出ていたのか、マナさんがボクの頭をよしよししてくれる。
マナさん、大学生って言ってたっけ。やっぱ大人の人は余裕があるな。
ボクもマナさんを見習わないと。
じゃなきゃいつまで経っても男らしくなれないよね。
「大丈夫です! ボク、頑張りますから!」
「う、うん。頑張ろうね」
「ところでマナさんは普段は何をされてるんです?」
「あ、ゲームでってこと? 私はお店とかはしてないよ。そういうのは苦手で……」
マナさんは戦闘の方が得意らしく、モンスターを倒したりしてアイテムとか集めているみたい。
そっか。スゴイな、女性なのに。
ボクは自分が戦うとかそういうのイメージできないや。そういうゲームもやったことないし。
ていうかゲーム自体をそんなやんないし。
「ねぇ、ハルくん」
「はい?」
「ハルくんはここで一人暮らしなの?」
「あ、はい。自宅兼作業部屋、みたいな。畑付きの家って少なくて、こんな場所になっちゃいましたけど」
ここだと街までちょっと歩くから少し不便なんだよね。
まぁ困ることはないから良いけど。
「……ねぇ、ハルくん」
「なんですか?」
「こんな場所に一人じゃ危険じゃない?」
「え?」
なんで危険なんだろう。
モンスターに襲われるような心配なんてないし、ていうか今ってモンスターとかも動くのかな?
ボクはまだ遭遇したことないから分からないけど。
「だって、今は外部との連絡が取れないんだよ? つまり運営側はこっちを管理できてないんだよ? そんな状況でハルくんみたいな美少女が一人でいたら誰に襲われるか……!!」
「え? え?」
お、襲われる? 誰に? プレイヤーに?
だってボク、男ですよ?
現実では男なんですよ?
誰に襲われるって言うんですか。女性ですか? 男性ですか?
あれかな、マナさんは女の人だからそういうの怖いのかな。
そうだよね、いくらゲーム内で男の姿だからっては心は女の人なんだ。
それなのにボクのことなんか心配してくれて、優しいな。
でも、マナさんに甘えてばかりじゃダメだ。
ここはボクが……男のボクが守ってあげなきゃ!
「マナさん、大丈夫ですよ!」
「うん?」
「マナさんはボクが守ってあげますから!」
「うん……うん?」
「ぼ、暴漢なんか怖くないです! ボク、男ですから! 絶対に絶対に、マナさんを守ってみせます!!」
マナさんは口を開けたままポカーンとしてるけど、もう大丈夫ですよ。なんの心配もいらないです。
ボクに戦うすべはないけど、全力でマナさんを守るんだ。
そのための魔法とか覚えたいな。ボク、簡単な水魔法しか覚えてないし。
あ、魔法とかって買えるのかな。
このゲーム、まだ配信されたばかりだからプレイヤーが開いてるお店って少ないと思うんだよね。
「そういえば、マナさんはどこにお住まいなんですか?」
「私はガイアの方にある借家に住んでるよ。知り合いに借りたんだけど」
「そうなんですか。どんな方なんですか?」
「ん? えっとね」
マナさんからTSOにログインしてからのことを聞いた。
なんかヅライムっていうモンスターと戦ったり、クロアさんって人と知り合って試合をしたり、何故かヅライムがパートナーになっちゃったり。
色々あったんだなって思うのと、やっぱりマナさんはゲーム慣れしてるなって改めて思わされた。
「スゴイですね、マナさん」
「え?」
「新しいゲームにもすぐに対応出来ちゃって、戦闘とかも出来ちゃうし……。ボクは一人じゃ何も出来なくて、ミラさんたちの助けがなかったら……」
言ってて落ち込んできちゃった。
将来の為にって始めたゲームなのに、気付けばこんな事態。
最初は色々と上手くいくんじゃないかって思っていたのに、全然ダメダメ。
マナさんとボクを比べるのが間違いなのかもしれないけど。
「そんなことないよ!!」
「ほえ?!」
マナさんが急に大きな声を出した。
な、なに!? ボク、何か変なこと言いましたか!?
「ハルくんは何も出来なくないよ! これだけ美味しいご飯も作れちゃうし、お店だって開こうと頑張ってるんでしょ!?」
「マナさん……」
「それにこんなに可愛いのに!」
「……え」
マナさんの目がちょっと怖いです。
でも、嬉しいな。ボクに出来ること、ちゃんとあるよね。
この一年間で頑張って立派なお店にして、ミラさんたちをビックリさせるんだ。
「ありがとうございます、マナさん!」
「え、いや……私は本当のこと言ったまでで……」
マナさんにもちゃんと恩返ししなきゃな。
こんな状況で一人じゃないのって、本当にありがたいことだもん。
よし、ボクも頑張らなきゃ!
USER NAME/片岡春臣
LOGIN NAME/ハル
SEX/女?
LOGIN TIME/0044:12:09




