025 1年間のログアウト不能
〇前回のあらすじ
女子大生である佐塚真奈美と都内の中学校に通う片岡春臣は、話題のVRMMOである《Trans Sexual Online》にログインを開始する。
現実の世界と異なる性別になることが出来るこの世界で、真奈美は男性キャラクターである『マナ』として、春臣は女性キャラクターである『ハル』として順風満帆なゲームライフを過ごしていた。
しかし、およそ40時間ほどログインをしていた彼らに災厄が襲い掛かる。
運営から送られてきた通知――。
そこから読み取れる『1日だけログアウト不可』の状況。
彼らの運命は――?
「いやマジ美味しいこれ」
目の前にヅラっと並べられた料理の数々。
しかも作ってくれたのは目の前にいる金髪の美少女だというから私ホント幸せです。
「あ、いや……マナさん。そんなにリラックスして食事をされても……」
先程から不安な表情のハルくん。
可愛い。
凄く可愛い。
目覚めそう。
「だって本当に美味しいんだもん。このシチューとか絶品モノだよ。男の子なのに料理が出来るって凄いね」
彼は現実世界では片岡春臣という現役男子中学生らしい。
絶対モテる。
今の時代、料理が出来る男子は凄く貴重なのだ。
「あ、ありがとう……ございます……」
そしてこれだ。
モジモジしながら照れ笑い。
もしかしたら中学校でも女子より男子にモテていたのかも知れない。
・・・。
・・・・・・。
色々、ありがとう――。
「ま、マナさん!? 鼻血が出てますよ! 大丈夫ですか!」
「だいじょうぶじゃない」
色々妄想しすぎたせいか、そのまま倒れてしまいそうになるのをすんでの所で堪える。
危ない危ない。
もうちょっとで戻って来れなくなる所だった……。
私はテーブル脇に置かれたティッシュを丸め鼻の穴に突っ込む。
「……ぷっ!」
「あー、笑ったなー?」
「だ、だって……! マナさんの顔が……! ぷぷっ……!!」
お腹を抱えて笑い出すハルくん。
ホント可愛いな、この子は。
よし。
腹ごしらえも出来たし、美少女の笑いも取ったし、本題に入ろう。
「……で、ハル君。さっきの話なんだけど」
「あ、はい。『ログアウト不能』についてですよね」
そう。
私達は今、ログアウト不能状態に陥っているのだ。
数時間前に運営より通達された『一時的な不具合』というメッセージ。
復旧にはおよそ1日とされていたが、それは現実世界での『1日』という事――。
「先程から色々と調べてみたんですけれど、やはり何も応答は無いですね。完全に外部と遮断されちゃったみたいです」
「やっぱりね……。ていうことは、本当に私達は1年もの間『ログアウト不能状態』になっちゃうって訳ね。あ、おかわり貰うね」
空いた茶碗を持ち、自分でおかわりを頂く。
いやマジで美味しい。
ハル君嫁に貰いたい。
「マナさんは、なんというかその、堂々としていますよね。男らしいというか、ボク、憧れちゃいます」
ハル君がキラキラした目を私に向ける。
そうか。
ハル君は本当は男らしくなりたかったのか。
でもその美少女の姿とか似合ってるのに、なんか勿体無い気がするな……。
……。
…………。
あ、そうか。
ばらしちゃったら、それで良いんじゃね?
「あ、ごめんねハル君。言わなかったけど、私は女なの」
席に着き、それとなくハル君に事実を告げる。
「え? ……あ、それは知ってますよ。この世界では現実世界と性別が逆転しますから、今のマナさんは女性で――」
「あ、そうじゃ無くてね。ええと、ややこしいんだけど……。あ、これでいっか」
私は空いた手でハル君の腕を掴む。
そして自身の胸にその手を当てる。
「!!? な、何をしてるんですかマナさん!?」
顔を真っ赤にしながら叫ぶハル君。
でも私はその手を離さない。
「ほら、私、胸が無いでしょう?」
「へ? …………あっ」
ようやく何を言いたいのか気付いた様子のハル君。
これで彼は納得した筈。
「マナさん……貴女は……」
「うん、そういうこと」
「ひんぬーだったんですね」
「ごめん、そうじゃない」
まったく伝わって無くてテーブルに頭を打ち付けました。
「大丈夫です。ボクも男ですから、ひんぬーに対しての差別とかそういう感情は持っていませんし」
「うん、ごめん。全然話が違う。ある意味追い込まれてる私」
駄目だ。
一つ一つ説明しよう……。
◇
「ええええええ!? マナさん、女の方だったんですか!!」
小一時間掛けて、ようやく理解してくれたハル君。
確かにややこしい格好をしている私が全面的に悪いんだけど。
「うん。だからこっちの世界での性別は男。でもね、あんまり男用の可愛い服って売ってなくてさぁ。結局女物の服を着ちゃってるって訳。良くあるよねこういうの。VRMMOだと男性服よりも女性服のほうが種類も豊富で可愛いものがめっちゃあったりとか」
「確かに……。でも驚きましたよ……。それでボクに胸を触らせたんですね……」
「……」
「……」
急に無口になってしまった私達。
ええと……。
「……マナさんの胸……」
「……うん。わたし、触らせたね……」
「……」
「……」
2人して顔が赤くなり下を向いてしまう。
いやいやいや。
でも、今は私は男なんだし、確認の為に胸を触らせても大丈夫だよね。
これが現実世界だったらアカンけど。
男子中学生に胸を触らせる女子大生なんて、絶対捕まるやろ……。
「と、とりあえず、食べよ! うん! 食べて色々忘れよう!」
「は、はい!」
無理矢理残りの料理を頬張る私。
大丈夫。わたし大丈夫。
きっと神様は許してくれる――。
とまあ、これが私とハル君の出逢いだったわけで――。
USER NAME/佐塚真奈美
LOGIN NAME/マナ
SEX/男?
PARTNER/ヅラっち(バグ中)
LOGIN TIME/0043:25:54




