021 仲間モンスター
「さて。じゃあ、まずはどこを見て回りたい?」
爽やかな笑顔で私を振り返りそう言うクロア。
ふむ。
これはアレか。
言ってしまえばデートみたいなものか。
「……なんだい、マナ。またその物欲しそうな顔は……」
「抱っこ」
前と同じネタをウインクで披露する私。
そして前と同じく疲労顔になるクロア。
うん。
まあ、本当に抱っこされたら焦るんだけど。
というか、さっきから街行く人々がチラチラと私達に視線を向けている。
なんでだろう。
やっぱ変かな。この格好……。
「……君は、どこに行っても目立つだろうね……」
「うん? 何か言った? クロア」
「……いや、なんでもない」
「?」
小首を傾げると、少し向こうにいた男性のNPCの集団から『おお!』という歓声が上がった。
……?
あれ? もしかして……?
「・・・(にこっ)」
「「「うおおおおおおお!!!」」」
思いっきり小悪魔的笑顔で愛想を振りまいてみると、予想通りの反応が返って来る。
「……止めなさい、マナ……」
「え、あ、ちょ! どうして襟首を引っ張るのよクロア! いちゃい! 伸びる服が!」
「いいから。行くよ」
そのまま引っ張られる私。
妬いてるのかしら、クロアさん……。
まあ、そんな訳無いだろうけど。
私、男だし。
◇
いくつか適当に店を回り、ちょっと喫茶店で休憩する私達。
好みのイタリアンブレンドを片手に、ふぅ、と溜息を吐いてみたりする。
「やっぱ広いわ、この街……。『雑貨店』に『技能店』、『アイテム合成店』に『魔法店』……。『訓練場』もあるし大きな『ギルド』もあるし……」
雑貨店では主にアイテムを、技能店では主にスキルを販売していた。
アイテム合成店は様々なアイテムを合成して上位アイテムを作ってくれるお店。
魔法店はその名の如く魔法を売っている店だ。
訓練場では実際にモンスターと戦ってスキルや魔法の操作性を試せるらしい。
「あとは行って無いお店は……『武器防具店』と『鍛冶店』、それに『書店』くらいかな」
「書店? ……ああ、そういえば」
クロアの言葉でアイテムウインドウを開く私。
そして『闇の書⑤』というアイテムを取り出す。
「ああ、それは『魔法書』の欠片だね。主にモンスターがドロップするアイテムのうちの1つだ」
「うん。うぃっちっていうビッチモンスターを倒したらドロップしたんだけど……。これって使えば【闇魔法】を覚えられるってことなの?」
……まあ、私はどうあがいても魔法は覚えられない体質なんだろうけれど。
「いいや、魔法書の欠片はそれ単体では魔法を覚えられないんだよ。その本の後ろに番号が記されているだろう?」
「あ、うん。⑤って書いてあるけど……」
私はクロアの言うとおりに本を裏返す。
「魔法書にもよるんだけど、【闇魔法】の魔法書の欠片は①~⑳まであるんだ。①~⑤の欠片を集めて『書店』に持っていくと『初級闇魔法』が覚えられる」
「あー、じゃあ①~⑩なら『中級闇魔法』、①~⑳なら『上級闇魔法』とか、そんな感じ?」
「その通り。もちろん魔法店でも魔法は買うことは出来るんだけど、基本的には『初級魔法』しか売っていないかな。それに結構値段も張るし」
確かにさっきちらっとお店に売っていた魔法書の値段を見てきたけれど、一つ一つ買っていたらすぐにお金が無くなっちゃいそうな気がしたな……。
「モンスターのドロップする魔法書の欠片を効率良く集めた方が、まとめて魔法を覚えられるから便利なんだよ。初級の魔法書だったとしても、大体5~7個くらいの魔法が記載されているし」
「なるほど……。ちなみにその書店でも『魔法書』って売ってるの?」
「ああ。だが『初級魔法書』だけでも100,000Gはくだらないけどね」
「10万! やっぱ高いんだ……」
結局はダンジョンに潜ってモンスターを倒したりお宝を探索して集めた方が、全然効率が良いって事なんだな。
ていうか『ダンジョン』なんてあるのかしら……。
「さあ、そろそろ次を回ろうか」
「あ、うん」
クロアが席を立つのと同時に、私も残りの珈琲を飲み干して立ち上がる。
結構好みの味だったな、ここの珈琲。
お気に入りのお店に登録しておこう。
◇
「よお、クロアじゃねぇか。いらっしゃい」
喫茶店から少し歩いた先にある『ゼガル鍛冶店』。
店から出てきたのは――。
「ちっさいおっさん!」
「……おいおい嬢ちゃん。俺が一番気にしていることを開口一番で言うかね……」
「あ……。ごめんなさい……。つい……」
私の身長の半分くらいしかない小さいおじさん。
というか、明らかに人間族じゃない。
「ゼガルはドワーフ族なんだよ、マナ。ゼガル、紹介する。こちらは『マナ』。うちの借家に住んでもらう事になってね」
「ああ、あの空き家か。良かったじゃねぇか、借り手が見つかって。宜しくな、マナ嬢ちゃん」
にいっと屈託の無い笑顔で返してくれるゼガルおじさん。
というか嬢ちゃん……。
まあいいか。
女の子の格好をしちゃってるんだし。
『親方! こっちの納品分はもうできやし――――あああああああああああああ!!』
店の奥からいきなり叫び声が聞こえてびっくりする私達。
ていうかこの声……?
「なんでぇ、騒々しい。お客さんの前だぞ、ヅラっち」
「ヅラ――――っち?」
私の目の前でワナワナと震えているのは。
私が一番最初に出会ったあのモンスター。
『てめぇ! ここで会ったが100年目! よくも俺の大事な仲間達を! というか仲間達のヅラを! あ、ヅラって言っちゃった!』
興奮しているのだろう。
薄緑色の身体が徐々に赤く変化していくヅライム。
ていうか、どうして鍛冶店にモンスターが……?
「あ、そうだ。せっかくだし、モンスターがドロップしたアイテムとか買い取ってもらえますかね」
憤慨しているヅライムを無視し、お店のカウンターに次々とアイテムを並べていく私。
【ハゲヅラの冠】、【ハゲヅラのフルメット】、【ただならぬハゲヅラ】、【尋常じゃないハゲヅラ】、【永遠のハゲヅラ】・・・・・・。
『あああああああ!
ああああああああああああああああ!!』
ヅラりと並べられた、ヅライムのドロップアイテム。
完全に真っ赤に変化し、プルプルと震えているヅライム。
否、ヅラっち?
『俺の……俺の同志達のヅラが……! 命よりも大事なヅラが……! ああああ……!!』
「かっかっかっ! こりゃまた随分と集めたな嬢ちゃん! いいぜ! 全部買い取るぜ!」
【458G】
「安っ!」『安っ!』
ついヅラっちと私の叫び声がシンクロしてしまう。
ていうか安過ぎるだろ!
どんだけあると思ってんのよこれ!
「はは、息がぴったりじゃないか、君達」
爽やかに後ろから声を掛けるクロア。
「だな! 何だか因縁の仲みたいだしな! がっはっは!」
豪快に笑うゼガルおじさん。
『親方……。笑い事じゃ……』
「まあ良いじゃねぇかよ、ヅラっち。おめぇだって、仲間からハブられて俺んとこに逃げてきた口じゃねぇかよ。今更仲間の事を想ったって何にもなりゃぁしねぇんじゃねえか?」
『そ、そうかも知れねぇですけど……』
「あ、じゃあ、はぐれヅライムって事か。それともハブられヅライム?」
『ハブられヅライムやだ! 語呂がなんかやだ!』
そう言いイヤよイヤよをするヅラっち。
いつの間にか赤い身体が元の緑色に戻っている。
「……なあ、ヅラっちよ。おめぇも俺の所に来て数年。そろそろ他の主に仕えてもいい頃合なんじゃねぇか?」
「へ?」『へ?』
またもやシンクロしてしまう私とヅラっち。
凄く、凄く嫌な予感が――。
「そういえばマナは『仲間モンスター』がまだいなかったよね」
「へ?」『へ?』
何だ……? この流れ……。
やめてよ。
やだよ私……。
『ちょ、待ってくれよ親方! 俺はまだ親方から学びたいことが――』
「やめてよクロア! ゼガルおじさんもなんか面倒臭いヅライムを私に押し付けようとか――」
『誰が面倒臭いヅラだよ! あ! またヅラって言っちゃった!』
「ちょっと変な緑色の液体とか飛ばさないでよ! ああもう! 白のシャツにこびり付いちゃったじゃないのよ!」
『なんだと!』
「なによ!」
さっきからほぼ同時に喋っていて、お互いの声が聞き取りヅラい……。
「はは、良かったねマナ。息がぴったりじゃないか」
「よし! 今日からお前はマナの《契約魔獣》だ! がっはっは!」
「・・・」『・・・』
そして私は――。
――なんか変なヅラを押し付けられた訳で――。
USER NAME/佐塚真奈美
LOGIN NAME/マナ
SEX/男?
PARTNER/ヅラっち
LOGIN TIME/0037:00:24




