019 女装男子
次の日。
私はスザン先生の所に向かう為、一旦クロアの家を訪ねることにした。
だってやっぱり一人で行くのは何だか恥ずかしいし。
また聴診器とか当てられるのかな……。
「あ、来たね。じゃあ早速スザン先生――」
そこまで言って硬直してしまうクロア。
ん?
なんか変な所とかあるのだろうか?
「……九尾」
『はいダンナ』
クロアの呼びかけですぐに足元に現れる九尾。
何故に九尾を呼んだんだろう……?
「……あれは……マナか……?」
『……恐らくは』
「……マナは……女性だったのか……?」
『……いや、匂いはオスですな』
「……そうか」
「??」
何故だか知らないが頭を抱えて蹲ってしまったクロア。
何なのよ一体……。
いいじゃん、別に。私が女性の格好をしたって。
というかメリルが選んだコーディネートなんだし、この服……。
「……マナ」
「はい」
「どうして……君はスカートを穿いているいるんだ?」
「可愛い……から?」
「・・・」
「?」
大きく溜息を吐き、再度蹲るクロア。
その傍らではヤレヤレといった表情の九尾。
そして徐に口を開くクロア。
「……確かに、君は、その、可愛い……とは思う」
「あ、いや、『可愛い』っていうのはこのスカートの事で――」
「いいから聞いてくれ」
「あ、はい」
ちょっと強めに黙らされました……。
「その、なんだ。上着の白いシャツも凄く似合っているし、結んだ髪も可愛いとは思う」
「うん。意外に髪が長かったから一本に結べて良か「いいから聞いてくれ」あ、はい……すいません」
強制的に割り込まれました……。
「単刀直入に聞こう。君は……あっち系なのか?」
「ちがいます」
単刀直入に聞いてないし……。
「なら、何故、女性の格好をしている?」
「えと……可愛かったから?」
私の返答と同時にもう一度頭を抱えて蹲るクロア。
というか会話がループしている?
「あ、いた。若! 大工のガルムさんとこの若い衆が道場の修理に……。あ、こらまたべっぴんさんですな。若のコレですかい?」
良いタイミングで玄関に入ってきた門下生の一人。
確か昨日会ったはずだが、私の事には気付いていないみたいだ。
というか小指……。
表現が古い……。
「こんなべっぴんさんがこのガイアに居たんですな! 若も隅におけませんな! がっはっはっは!」
「……行こう、マナ。ここにいたら色々と皆に勘違いされてしまいそうだ……」
「あ、うん」
「九尾。スザン先生の所へ」
『はいダンナ』
クロアが九尾の背に乗ったのを確認し、私もその後ろにチョコンと乗らせてもらう。
そういえば初めて乗った時はお姫様抱っこ状態だったんだよな……。
あ、じゃあ今ならお姫様抱っこされても違和感が無いのかも……。
「……な、なんだ、マナ……。その物欲しそうな目は……」
「抱っこ」
私が手を広げウインクをすると、またクロアは頭を抱えてしまった。
なによ。良いじゃないか。それくらい言ったって……。
『……はぁ。行きやすぜ』
溜息を吐いた九尾は猛スピードで家を出る。
なによ。溜息なんて吐かなくたっていいじゃん。
◇
『あっしはこれで』
スザン先生の診療所に到着すると九尾はまたスッと消えてしまう。
普段はどこに潜んでいるのだろう。
クロアの掛け声ですぐに現れる所をみると、案外近くに隠れているのかも知れない。
「やあ、いらっしゃ――――誰?」
爽やかイケメンで出迎えてくれたスザン先生。
しかし頭にクエスチョンマークが浮き出ている。
「マナです」
「……うん?」
顎に手を乗せ、頭のてっぺんから足の先までガン見するスザン先生。
その姿にまた頭を抱えるクロア。
「ええと……昨日来た……マナ君で良いんだよね?」
「はい」
「……どこか頭でも打ったのかい?」
「失敬な!」
スザン先生までもが私を馬鹿にする。
どういうことなの。
「今朝、家に来たらこうなっていたんですよ、スザン先生……」
堪らず後ろから声を掛けてくるクロア。
そして空き家を提供したくだりから道場での一件を簡潔に説明する。
もちろん『メリル洋裁店』の事も。
「なるほど、ね……。これはメリルちゃんの仕業だったか」
合点のいった様子のスザン先生。
そして徐に私のシャツに手を伸ばしてくる。
「もう聴診器はだいじょうぶです!」
イヤよイヤよをする私。
でもスザン先生は許してくれない。
「別に良いだろう。身体まで女性になった訳じゃないんだし」
「なんか言い方がエロい!」
そして徐々に脱がされていく私。
どうしてこうなる。
「あ……いや、ごめん。なんか変な気分になってきた。止めておこう、これ以上は……」
何か急に顔を赤くしてそっぽを向いてしまったスザン先生。
良かった……。
あの聴診器、めっちゃ冷たいし、裸はやっぱり恥ずかしいし……。
私、九死に一生。
その後、結局は雑談で診察は終了。
クロアとスザン先生とメリルは、学生時代からの友人らしい。
という事は、設定上はみんな私よりも年上という事になるのだろうか。
この《TSO》の世界でも現実世界と同じ様に年齢の設定などもあるんだね。
そして帰り際に私はあることを質問し忘れたことに気付き、スザン先生を振り返り言う。
「先生、そういえば私、【無魔法】っていう特異体質らしいんですけど、これって回復魔法とかも効き目が無くなっちゃったりとかします?」
「【無魔法】……? それは本当かい?」
私に向けた言葉かとも思ったが、そうでは無いらしい。
スザン先生はクロアに向かい質問している。
「……いいのかい、マナ。あまり他者に話す内容では無いから、僕は黙っていたのだけれど……」
「え……? あ、そっか」
確かにクロアの言っていることは理解できる。
『魔法が利かない』という点を隠しておいたほうが、戦闘の際に1つも2つも先手を取ることが出来るという事なのだし。
逆に『魔法が使えない』と知られてしまうと、色々と戦略を練られてしまうことにもなりかねない。
うーん。
奥が深いね。
「ふむ……。僕は【無魔法】を宿した人間を見るのは初めてだからね……。でも医学書にも『魔法は一切効果が無い』と書いてあるから、回復魔法なども一切効果が無いんじゃないかな」
やはりそうだ。
ならば私の次の質問は決まっている。
「でも『回復アイテム』ならば効果はある筈ですよね? ということは私、結構アイテム系を満遍なく揃えておかないと色々危ないって事ですかね」
昨日、お布団でゴロゴロしながら考えていた内容。
魔法が使えないのならば、魔法に代わる戦法を。
魔法が効かないのならば、魔法に代わるアイテムを。
「そうだね。その通り。君は魔法を使うことも、その身に受けることも出来ない。だが、間接的には受けることは出来る。基本的にアイテム系も【魔法】を行使して作られるものなのだけれど、その効果まで弾かれることは無いだろう」
「ほっ……。それならある程度は安心出来ます……」
ならば私のやるべき事は、自身を守る『回復系のアイテム集め』という事か。
アイテム上限いっぱいまで所持しておいて、あとはスキル系の完備かな。
所持しているアイテムを緊急時には自動で使ってくれるようなサポートスキルがあれば安心なんだけど……。
「クロア。後でこの街の雑貨屋さんとかスキル屋さん? みたいなのがあったら案内して欲しいんだけど」
「ああ。お安い御用さ。君には迷惑を掛けたからね。案内くらいどうって事はない」
気前良く了承してくれたクロア。
良かった。
この街は広すぎるから、案内が無いとどこに何のお店があるのかさっぱり分からんちんだし。
「まあ、この件は僕等の間だけの秘密にしておいた方がいいかもな。【無魔法】を宿している人間なんて奴隷商人などに知られたら大変な事になるだろうし」
「奴隷商人……? そんなのまでいるんだ……。この《商業都市ガイア》って……」
スザン先生の言葉にちょっと鳥肌が立つ私。
人身売買か……。
確かに自由度の高いVRMMOっていうキャッチコピーだから、そういうシステムも完備しているのかもな……。
売られる方としたら堪ったもんじゃないだろうけど……。
「そういう意味でも、その女装はカモフラージュになるのかも知れないね。君が【無魔法】を宿しているかどうかは、じかに胸に指を当てて【追求】という魔法を使わないと分からないからね」
【追求】……。
あれか。
クロアが私に使った魔法か。
あれ、凄く恥ずかしかったぞ。
「【追求】を使用すると、その身に宿す魔法属性の『紋章』が浮き出てくるんだよ。僕ならば【雷魔法】の紋章が浮き出てくるし、スザン先生ならば【氷魔法】の紋章が浮き出てくるのさ」
スザン先生に続き、クロアも説明してくれる。
いいなぁ……【氷魔法】。
わたし炎魔法とか氷魔法とかが一番好きなんだよなぁ……。
「はぁ……」
大きく溜息を吐いた私はスザン先生にお礼を言い、その場を後にする。
でも、落ち込んでばかりもいられない。
魔法が使えなくたって、やれることはいっぱいある。
まずはクロアに街の案内をしてもらって、それから最後にギルドに向かおう。
これだけ大きな街なんだから、様々な種類の依頼が寄せられているのだろう。
依頼をこなし、お金を溜めて、装備を整える。
流石にこのシルバーナイフ1本じゃやっていけないでしょう。
魔法が使えない分、装備はケチらずにお金をつぎ込んで行こう。
あとアイテム系も充実させなくちゃ。
お金掛かるなぁ、私。
というか私の『特異体質』。
でもまあ、楽しみますか。
時間はまだまだたっぷりとあるのだし、ね。
USER NAME/佐塚真奈美
LOGIN NAME/マナ
SEX/男?
LOGIN TIME/0033:14:46




