017 特異体質
私の目の前で不敵な笑みを浮かべるクロア。
私が当事者でなかったら「きゃーのきゃーの!///」と叫ぶであろう、この状況。
紫色の霧のようなものに覆われた長刀を鞘から抜くクロア。
鈍く輝く刀身はまさしく妖刀そのものといった感じだ。
「……君は【魔法】の事を知っているのかな?」
不意に私に質問をするクロア。
【魔法】……。
この街に来るまでにモンスターのうぃっちが【闇魔法】という魔法を唱えていたのを思い出す。
「少しなら……」
正直にそう答える私。
そしてクロアの言うとおりにシルバーナイフを抜く。
「僕の得意魔法は【雷魔法】。この《和光侍雷阿》に最も適した魔法さ……!」
クロアの表情が一変する。
何度も言うが、この状況下で無かったら『きゃー/// クロアさまー!///』と叫んでしまうのだが、今はマズイ。
死んでまう。
私は唾をごくりと飲み込み、ナイフを構える。
「《雷光》!」
「うわっ!!」
下から長刀を振り上げたクロア。
切っ先からは眩い光を放った電撃が私目掛けて飛んで来る。
私はそれをすんでの所で避ける。
いや、これは斬撃……?
雷を帯びた飛ぶ斬撃なんて……!
・・・。
格好良いーーーー!
「さすがだね……! その余裕の表情……! ふふ、楽しめそうだ……!」
そう言ったクロアは地面を蹴る。
嗚呼、イケメン……。
イケメンが眼前に迫ってくる……。
「《無頼迅雷》!」
今度は雷を帯びた刀で連続攻撃を繰り出すクロア。
私はシルバーナイフでそれらを受け流す事に精一杯。
というか早い。
一撃一撃が重い。
目で追うのがやっとの状態。
「しびれる! ナイフを伝って感電する!」
「君はいつまで余裕をかますつもりなんだい……!」
「余裕ちがう! 本当にしびれてるんだって!」
バチ、バチ、と電撃が2人の間を縫っていく。
その間も手を休めないクロア。
どうしよう。
静電気で髪が逆立って来ちゃった……。
「ここまで馬鹿にされると、僕だって黙ってはいられないよ……!」
一旦その場をバックジャンプして離れたクロアは長刀を上空に構える。
彼の周囲に集まる膨大な雷。
これは……超必殺技の予感……!
『おいお前』
「ん?」
気付くとクロアの手下モンスターの九尾が足元で私を見上げている。
前から思っていたけれど、ふわっふわもふもふしてて凄く可愛い。
その九つある尻尾に顔を埋めてみたい……。
『あれはダンナの最終奥義だぞ。逃げたほうが良いぞ』
「……あ、いや、逃げろって言われても……」
そう言った九尾はスッとその場から消えてしまう。
なんだろう。
時空を自由に移動できるモンスターとかなのかな。
いいなぁ。
どっかのヅラのモンスターとは大違いだな……。
「余所見をしている場合かい……?」
「あ――」
クロアの言葉で我に返るが、時、既に遅し――。
私は走馬灯のように、いままでの人生を振り返る時間も無く――。
「――――《稲妻》――――」
――イケメンの放つ稲妻に全身を貫かれたのでした。
◇
「ちょっと若! 今の音は……!」
「あちゃぁ……。またやっちまったんですかい? 若……」
「あーあー……。また道場の天井に大きな穴が……」
落雷の音により次々と道場に集まる門下生達。
「……そんな……馬鹿……な……」
彼らの目の前では長刀を地面に置き、落胆するクロアの姿が。
「お、ちょ、マジか! あの兄ちゃん、若の《稲妻》を受けて平気な顔してやがるぞ!」
門下生の一人が私を指差しそう叫ぶ。
そう――。
何故か私はクロアの放つ稲妻を受けても、全身に傷1つ付く事無く、呆然と立っている。
でもちょっとおしっこちびっちゃったけど……。
うん。
『ダンナ。恐らくあの剣士は【無魔法】を身につけてますぜ』
「【無魔法】……。まさか……」
ん?
【無魔法】……?
なにそれ?
「……マナ。ちょっといいかい?」
驚愕の表情のまま、クロアは私に近づいて来る。
そしていきなり胸倉を掴んで――。
ビリリッ!
「きゃあああ! なにすんのよ!」
「いいから」
いきなり私の上着を破り捨て、上半身裸の状態にされる。
てか『いいから』じゃねえええええ!
なにしてんの!
「手をどけて」
「嫌に決まってるでしょうが! なにすんのよ!」
「いいから。確かめたい事があるんだ」
「確かめたいことって――――あっ」
無理やり胸を隠していた腕をどかしたクロア。
そして私の胸に指を当て、何かを呟いている。
「ちょっとクロアやめてよ!」
「出ない……」
「なにが!? 何も出ないよ! そんなところからっ!!」
何を出そうというのか。
わたし男なんだし何も出ないよ!
いや女の子だったとしても何も――。
『紋章が浮き出て来ませんね。やはりこいつは【無魔法】……。当たりですな。ダンナ』
いつの間にやら足元にいた九尾がそう言う。
もう! なんなのよさっきから!
ていうかもう手を離してよ!
恥ずかしいんだよ!
「……1つ聞いても良いか? マナ」
ようやく手を離してくれたクロアは真剣な表情でそう訊ねる。
私は光の速さで破かれた服を拾い、上半身に巻きつける。
ああ、もうドキドキした……。
「君は、以前にも【魔法】をその身に受けたことはあるかい?」
「え? あー、うん。まあ……」
あの森でうぃっちに【闇魔法】とやらを受けたことはあったけど……。
「その時は、どうだった?」
「なんか凹んでた」
「?」
「あ、ごめん。こっちの話」
うぃっちが私に魔法が効かなくて凹んでいた事は、今は関係ない。
……あれ?
魔法が効かなくて……?
まさか――。
「……その顔は気付いたみたいだね。そう。君は魔法が効かない体質――【無魔法】をその身に宿しているみたいだ。さっき僕が君に試したのは胸に『紋章』を浮き出させる魔法、とでも言えば良いのかな」
「紋章……」
わたしの胸が触りたかった訳じゃないんだ……。
てか当たり前か。
「君の身体は魔法を一切受け付けない。この《商業都市ガイア》には君以外に【無魔法】をその身に宿している住人はいないんだよ。これは君にとって、最大のアドヴァンテージでもあり……同時に最大のハンディキャップでもある」
「え――」
「君は、魔法を一切受け付けない代わりに――魔法を一切使うことが出来ない体質なんだよ、マナ」
USER NAME/佐塚真奈美
LOGIN NAME/マナ
SEX/男?
LOGIN TIME/0017:15:35