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Trans Sexual Online~のんびりほのぼのTS生活~  作者: an℟anju
第一章 ログイン開始
12/79

010 診察

「ふむ……」


 街を南に向かった先にある診療所。

 私はそこに連れて行かれて診察を受けている最中。


 スザン先生と呼ばれたメガネを掛けた若い医師の頭上には【லநள௱க】という表記がある。

 という事は彼もNPCという訳なのだが――。


「どうですか、スザン先生」


 クロアが心配そうに後ろから声を掛ける。


「ああ。特に頭に異常は見られないな」


 そして徐に聴診器のような物を取り出すスザン先生。

 ……ん?


「じゃあ上着を脱いで」


「……はい?」


 聴診器。

 上着を脱ぐ。

 うん。

 別に何でもない、普通の診察の光景。


「聴診器を当てるから、上半身裸になってくれと言っているんだよ」


「・・・」


 うん。

 微動だにしない私にヤレヤレといった表情のスザン先生。

 そして勝手に上着を脱がされていく私。


「? 大丈夫? 何だか顔が真っ赤だよ、君」


 後ろにいたはずのクロアが心配そうに私の顔を覗いている。

 ちょっと待って。

 いや、確かに今は私、男の身体なんだけど――。


「おいおい、腕をどかしてくれないか。聴診器が当てられないじゃないか」


 上半身裸にされた私は顔を真っ赤にしながら精一杯胸を隠す。

 なにこれ。

 なんで男の身体でお医者さんプレイが始まってるの……?


 いやいやいや。

 これはただの診察。

 聴診器を心臓に当てて音を聞くだけ。

 そう。

 大丈夫。

 落ち着こう、私――。


 そして言われたとおりに徐々に腕を下ろす。


ぴとっ。


「ひいぃ!」


 あまりにも聴診器が冷たくて悲鳴を上げる私。

 その姿に苦笑するスザン先生とクロア。

 落ち着け。落ち着くのよマナ。

 私は、男。

 別にイケメン青年2人に裸を見られても、それは女の私の裸では無くて男の状態での裸。

 そう。別になにもドキドキしなくたっていいんだから――。


ぴとっ。


「ひいぃぃぃ!」


 もうやだ。

 ドキドキするし冷たいし、叫び声が止まらない。

 早く終わって……!


「……ちょっと鼓動が早すぎるかな。熱もあるようだし……」


 ようやく聴診器を離してくれたスザン先生はカルテに何かを書き込んでいる。

 私は光の速さで上着を装着。

 そして何回も深呼吸。


 横では何故かクロアが声を押し殺して笑っている。

 くそ……! なんか凄く悔しくなってきた……!


「薬を出しておくよ。ええと、名前は――」


「……マナ、です」


「そうか。マナ君。今日はゆっくり休んで、明日また来なさい」





 スザン先生の診療所を後にした私は、クロアにお礼を言いその場を立ち去ろうとする。

 とりあえず宿を探さなくちゃ。

 この街は結構大きいみたいだし、ここを拠点にして色々とこの世界の事を知ろう。


「マナはこの街は初めてなんだろう? 泊まる宿は決まっているのかい?」


 私の心を読んだのか、そう質問してくるクロア。

 一瞬目が合ってしまい、即座に逸らす私。

 やっぱまだ恥ずかしい……。


「……決まっていません」


 凄く小さな声でそう答える。

 こんなにずっとドキドキしてたらいつか心臓が破裂してしまう。


「ならどうだろう。僕の屋敷に来ないかい?」


「・・・」


 今、なんと?

 僕の、屋敷――?


「ちょっと古い屋敷なんだけどね。ちょうど今、借り手を捜している所だったんだよ。君、冒険者なんだろう? かなりの腕が立つとお見受けしたけど、どうだろう?」


「……」


 確かに、この《TSO》の世界では初心者ではあるけれど、今までこういったVRMMOものは散々遊んではきた。

 何だかんだでこれまでもモンスターを倒せているし、少しずつ身体の動かし方のコツも掴んできているし。


「この街の1日の家賃は……そうだな。平均して250Gくらいなのかな。僕の所はもう古いから、今は100Gくらいで貸し出しているんだよ」


 ニコっと爽やかな笑みでさりげなく営業を始めているクロア。

 でも私的にはこっちの方が都合が良い。

 逆に無償で貸してくれるなんて言われたら、思いっきり疑ってしまう。

 ……『身体で払って貰おう』とか急に言ってきたりとか……。


「・・・」


「? どうしてそこで涎が出るんだい? 君って面白いよね。スザン先生の所でも笑いを堪えるのに苦労したよ」


 私の妄想を知ってか知らずか。

 相も変わらず爽やか青年のクロア。

 どうしよう。

 お言葉に甘えてしまおうか。

 宿を探す手間も省けるし、何より恩もある。

 明日またスザン先生の所に行くことにもなっちゃったし、一人じゃちょっと緊張しちゃうから、またクロアに付き添って貰えるかも知れないし。


「……うん。よし、決めた。クロアのお屋敷でお世話になる」


「そうか。助かったよ。これも何かの縁なのかな」


 はは、と笑いながらそう言うクロア。

 その笑顔は反則だ。

 現実の世界に戻りたく無くなっちゃう。

 この世界で永遠に暮らしていきたいとか、そんな野暮なことを考えてしまう――。


 

 そう――。


 

 この時の私はまだ、そんな悠長なことを考えていた訳で――。


















USER NAME/佐塚真奈美さづかまなみ

LOGIN NAME/マナ

SEX/男?

LOGIN TIME/0013:12:58

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