第九話〜人間と少女の出会い〜
俺はふと目を開けると目の前には天井が見えた。
どうやら俺はあのまま気を失い倒れて眠ってしまったらしい。
ということはさっきのは夢か?
俺はむくっと体制を起こした。
俺の体には長年使い続けて毛がぼろぼろになった毛布がかけてあった。
きっと誰かがかけてくれたんだろう。
俺の部屋には俺以外誰もいなかった。バンシーとさくらの姿は見えなかった。
「・・つつ」
頭の痛みはそれほど感じなくなっていたが、まだ左頬がじんじんと痛む。
相変わらずの上手なビンタだった。
俺が左頬を摩っていると部屋の扉が半分開き、扉の間からソフィーの顔が見えた。
「あ、真くん。起きたの?」
「ソフィーか?」
ソフィーは半分開いた扉を足で蹴り、扉を開けた。
「行儀悪いぞ」
「別にいいじゃない。これ持ってきたんだから」
と、ソフィーの手にはお盆に乗せられた食事だった。
「さっき飯食ったぞ」
「もうお昼だよ」
「嘘」
俺が時計を見ると針は頂点を指し示していた。
どうやら本格的に寝ていたらしい。
「じゃ、これどこ置くの?」
「いやいい。下で食うから」
そう言い俺はソフィーからお盆を受け取り階段を下りていこうとするとソフィーが俺の肩を掴み、俺を引き止めた。
俺はソフィーの方を振り向きソフィーに訊いた。
「何だよ?」
ソフィーは右手で自分の右頬をぽりぽりと掻きながら言いにくそうにこう答えた。
「あの・・さ、真くん。
学校は?」
ん、学校? 学校・・。
俺は寝起きの頭を必死に回転させ、何かを思い出そうとした。そして・・思い出した。
俺は急いで一階に降りてみた。
そこにさくらの姿はなく、バンシーひとりで床に座ってテレビを見ているだけだった。
「さ、さくらは?」
バンシーは俺の声に顔だけこちらに向け、またテレビに視線を戻しながらこう言った。
「どっか行ったけど?」
俺は人間が上げられるであろう限界の奇声を上げながら階段を昇っていった。
部屋の扉を力いっぱい開けて急いで服を着替え始めた。
「や、やばい・・」
「何がやばいの真くん?」
俺は窓の近くにかけてあった白いYシャツ上に冬の日に学校に行くための蒼いブレザーを羽織り、蒼いズボンを手に取った。
まあ、物事そんなに上手くいくわけもなく。
ズボンに足を取られ、壁に頭を思い切り打ち付けた。
轟音が部屋中に響いた。かなり痛い音だった。
「あ、ごめん。話かけないよ・・」
「そう・・して・・くれるか?」
俺は急いで体制を立て直しズボンを穿いた。
そして机に置いてあった黒い鞄を取り、どたどたという音を出しながら階段を降りていった。
「じゃ、俺学校に行ってくるからな!」
バンシーはテレビを見ながら左手を上げ、
「いってらっしゃい」
そう返した。
俺は急いで家を飛び出した。
もう時間は昼なので学生の姿などほとんど見えない。
「完全に遅刻だな、こりゃ」
俺はそう言いながらも、学校の方へと懸命に走り続けている。
息は切れ切れで荒くなってきた。
走っていると金属に何かを打ち付けるような轟音が聞こえてきた。
一体なんだと俺は辺りを探し始めた。
そして少し道を外れ、暗い路地の脇にその音の原因はあった。
何度も何度も鉄格子に頭を打ち付けられる少女がいた。
少女を鉄格子に打ち付けていたの頬に大きな傷のあるガラの悪そうな30代くらいの男だった。
「何してんだ!」
俺の声に男はこちらを黒いサングランスをかけた瞳でぎろっと睨んできた。
しかし俺の姿を確認するとまた、少女を鉄格子に打ちつけ始めた。
少女はその白い髪を血で赤く染め、白い肌も赤くなって見るからにぼろぼろだった。
「止めろ!」
俺がそう言っても男は少女を傷つけるのをやめようとしない。
「止めろって言ってんだろ!」
俺は鞄を投げ捨て男の手から少女の頭から離させた。
男の手から逃れることの出来た少女は光のない赤い瞳で俺の方を向いた。
俺は少女の元に駆け寄り、少女の頭を優しく摩った。
「大丈夫か?」
少女は聞こえるか聞こえないか分からないほどの弱弱しい声でこう言った。
「・・・た、助けて・・ください・・」
「ああ、大丈夫だから・・な」
少女はそれだけを言うと気を失い崩れ落ちた。