第七話〜悪魔と魂〜
俺は消えていった闇が完全に消え去ってやっと動くことができた。
その自分の情けなさに改めて痛感させられる。
俺はむくっと立ち上がり、バンシーに向かいさっきの蜘蛛について尋ねてみた。
「さっきの蜘蛛は・・・一体?」
バンシーは自分の胸―――いや、心臓あたりを自分の右手で押さえながら少し顔が強張っていた。
「ど、どうした?」
「な、何でも。
それより・・・あの蜘蛛だったわね。あれは低級悪魔よ」
俺は何でもないように話をするバンシーを見て、何だか少し複雑な気分になった。
そりゃ、俺とバンシーが会ったのは昨日のことだから親しくも何ともない。
でも何だか複雑だった。
でも今は好奇心のほうが強かった。俺はバンシーの話を聞くことにした。
「低級悪魔?」
「そ。
悪魔は2種類存在する。普通の悪魔と低級悪魔の2種類が」
「その違いって何だ?」
「魂は100年をかけて人の姿を模する。そこから悪魔か天使になる
でも低級悪魔は・・」
「低級悪魔は・・なんだよ」
「魂のまま悪魔になる」
「魂のまま悪魔になるのと人の姿を模した魂が悪魔になるのとどう関係あんだよ?」
気になった。その違いに、その理由も。
こんなことを知っても俺には殆ど関係ないかもしれない。
でも、何だろう。知らなくちゃいけない、知っていることに意味がある気がした。
「簡単よ。魂は脆く儚いの。
魂は人間の赤ん坊よりもデリケートなの。触れれば壊れてしまうから。
100年をかけ、人の姿にして、初めて魂は完全な魂となり悪魔や天使になるの。
そうしないと、悪魔も天使も自我を失い、ただ、何かを壊すことしか出来なくなる。それを魂が望もうと望むまいと。
でも魂は純粋なの。魂だから。悪や善は人の時の行いにより決まる。でも魂は違う。
すべてが同じで、純粋なの」
この話を聞き、俺は何を思った。
黙々と話すバンシーを見て、過去を思い出そうとしてしまった。
さっきの蜘蛛だって異様に恐怖を感じてしまっていたのだから。
あれは初めて見る恐怖じゃない。どこか、俺の生きている内のいつかで感じたことのある恐怖―――死。
それに似た恐怖だった。ここまで死の恐怖に似た感じのする恐怖なんてそうそう感じるものじゃない。
「考えても仕方ないわよ。今は大天使さまをさっさと探すことだけを考えればいーの。
それからごちゃごちゃ考えなさいよ」
「・・・ああ」
俺はもう考えるのをやめた。なぜやめたかは、理由はひとつしかない。
これ以上足を踏み込めば俺は戻れないと思った。
足を踏み入れた瞬間、足を取られ、歩けなくなると思った。
この悪魔と天使のいる非日常に。俺は日常に身を置いていたかったから。
そう願うことが俺の精一杯だったから。