第三話〜魔王から受け取ったペンダント〜
第三話〜魔王から受け取ったペンダント〜
俺の日常はいつ壊れた?
考えるまでもない。こいつらと出会ってからだ。
悪魔バンシー。
天使ソフィエル。
ほんと・・・・後悔。
『ま、そういうわけで・・・いいかな真?』
ルシファーが俺にそう聞くが、白々しい心が丸見えだ。
「だめって言っても無駄なんだろ?」
『もち』
「はあ・・」
「あんたも男なんだから腹くくりなさいよ」
バンシーがそういうが、納得できないのが普通だ。
「ここに来た時点でもう普通なんて存在しないわ。
むしろ、街のほうが異常なのよ。
天使の施しを受けない街なんて存在しないはずなんだから」
街は五大天使の力が効かない。
それは悪魔と天使たちにとって、ありえないことのようだ。
『ま、そう気を落とすな。
彼女たちは人間として君の家に居座る。食事とかも人間が食べるものを与えておけばいい』
「魔王さま、それじゃ私たちペットみたいなんですけど?」
『そうか?
まあ、気にするな。
あ、そうだ』
ルシファーの声が止まった途端、青かった空が闇に包まれた。
「な、何だ?」
『俺の姿を見せるわけにはいかないんでな。少し暗くさせてもらった』
何も見えない。
しかし、闇が闇を生み出しているのがなんとなくわかる。
『手を差し出してくれ』
俺はルシファーの言う通りゆっくりと両手をお椀のようにして目の前に差し出した。
『これをやる。
ただでやるってのもなんだしな』
ぽんっ、と、手に何かを置かれた。
闇が晴れていく。
手に置かれたものは、濃く、深く、蒼い小さな宝石がついた小さなペンダントだった。
海・・みたいだ。
ペンダントの輝きはまるで海だった。
1センチくらいの大きさの丸い宝石の中には海が広がっていた。
手を入れれば、その手は濡れてしまいそうな不思議な輝きだった。
俺は呆気と怒りが同時に消えてしまいそうな輝きにただ、見とれていた。
「これって・・・」
俺がルシファーが手渡したペンダントを空に掲げながら、その蒼い輝きを眺めているとバンシーが俺と目線が合うくらいまで宙に浮かびながらこっちに近づいてきた。
「な、なんだ?」
「ちょっと見せて」
「あ、ああ」
俺はバンシーにペンダントを手渡した。
バンシーは受け取ったペンダントを、俺と同じように空に掲げながらその輝きを確かめていた。
「・・・・はい。」
少ししてバンシーは俺にペンダントを返した。
「どうかしたのか?」
「・・・別に。なんでも」
バンシーは少し顔を伏せ、俺に表情を悟られないようにした。
これ以上バンシーの顔を見るのは有意のないことだと思いバンシーから顔を背けた。
バンシーの変わった様子に心配そうな顔をしながら近づくソフィエル。
バンシーは顔を伏せたまま。
「バンシー・・?」
「えいっ」
バンシーが指を鳴らすと同時にソフィエルの頭上から少し高い所にタライがとつぜん出現した。
タライは重力に逆らえずにソフィエルの頭に直撃した。
「痛っ!!」
からからと音を立てた後、タライは消滅した。
自分の頭を摩って今自分が何をされたのかをソフィエルは悟り、バンシーの服を掴み、
「何すんのよ!」
服を掴まれたままバンシーは、
「・・・・硬い頭ね。
羨ましいわ」
ソフィエルに対して皮肉を口にする。
ぎゃあぎゃあと騒ぐバンシーとソフィエル。
その脇で、俺はルシファーに聞いてみた。
「ルシファー。
何だコレは?」
空に掲げ見せる物はルシファーに手渡されたペンダント。
『ただの宝石だよ。
心配する必要はない』
「本当か?」
『もち』
本当に軽い言葉だ。
魔王というのはこんなものなのか?
もっとこう・・・・
残忍で残酷で、人間たちを恐怖のどん底に叩き落とすような存在じゃないのか?
それはそれで困るが。
『さ、真と共にバンシーとソフィエルは人間界に降りてくれ』
「「わかりました」」
俺はまだ納得していない。
そんなことはこの悪魔と天使はお構いなしなんだろうね。
バンシーとソフィエルが俺の横に立つと、バンシーは左腕、ソフィエルが右腕をそれぞれ掴み歩き始めた。
その力は見た目とは違い男に掴まれているほどの力があった。
俺はペンダントを首からかけ、バンシーとソフィエルと共に神界の入り口を出て行った。
(大変な探し物を頼んじまったけど、バンシーたちなら大丈夫だな。うん。
真、ふたりのこと頼んだぜ)
ルシファーは3人の姿を見ていた。
これから始まる大変な出来事に魔王として出来る最後の手助けをして。
『頑張れよ』
ふっと魔王の声が消えていった。