第二話〜悪魔と天使と人間と〜
主人公藤堂真。彼は迷い込んだ神界で小学生のような悪魔と天使に出会った。
天使ソフィエルが真の言葉に切れて、真を攻撃した。
しかし、それは悪魔と天使の掟を破る行為だった。
それを見ていた魔王が悪魔バンシーと天使ソフィエルに頼みごとをする。
それは真にとって嫌なことの前触れでしかなかった。
第二話〜悪魔と天使と人間と〜
俺は恐る恐る手を上げた。
「あの魔王さん?
嫌な予感するんだけど・・・
その大天使って人が人間界にいるとするならさ、バンシーとソフィエルは人間界に行くってことになりますよね・・・」
『おう』
「今ここにいる人間は俺だけですよね」
『当ったり前だ』
「このふたりが人間界に行くとして、滞在する場所はあるんですか?」
ごくりと息を呑む俺。
息遣いさえうるさく聞こえるこの場。
バンシーとソフィエルさえもじっと魔王の言葉を待っている。
そして魔王が口を開いた。
『・・・・・えへっ♪』
・・・・・・・・
「えへっ♪ ってなんだ!!!
ま、まさか・・・」
『察しがいいな人間くん。
そう、君の考え通りだよ。
バンシーとソフィエルは君の家に居候させてもらおうかと』
「そ、そんな・・・・」
「そんなに落ち込むことないんじゃない?」
バンシーが俺の肩に手を置く。
その手を俺は振り払う。
むかついたから。
「ふざけるなよ! 何で俺まで巻き込まれなきゃいけないんだよ!!」
ぴき―――
バンシーの額に漫画だったら確実に怒りマークが10個は描かれたであろうほどの筋が浮かび上がった。
「あんたとっくに巻き込まれてんの!! 諦めなさいよ!!!!」
「だからってな!!」
『あーストップ、ストップ。
バンシーも人間くんも』
「「うるさいっ!!!!!」」
ふたりは頭に血が昇っているのか、話しているのが魔王というのも忘れ怒鳴った。
『一応・・・・俺、魔王・・・な?』
「「知るか!!!!!」」
『おいおい・・・』
「あの喧嘩はやめた方がいいんじゃない?
一応魔王さまの前だし。」
『一応って・・・』
「分かったよ・・・・」
「仕方ないわね・・・」
ふたりは話しているのが一応“魔王”ということで落ち着いた。
「それよりさ、人間くんってのやめてくんないかな?
俺にはれっきとした藤堂真って名前があるからさ」
「えっ・・」
バンシーが誰にも聞こえないような声を発した。
『それもそうだな・・・・
名乗られたし・・・・・よし。
俺も名乗らせてもらおうかな?
俺の名はルシファー、魔王ルシファー様だ』
「ル、ルシファー!! マジでいたのかよ!?」
「何驚いてんの?」
バンシーは大して驚いていない。
が、俺はこれが夢であってほしいほど驚いている。
「当たり前だ!!
ルシファーだなんてほとんど伝説なんだぜ?
まあ・・・・悪魔とか天使とかも伝説なんだけどな」
「その悪魔とか天使とかの伝説ってなに?」
「え?」
バンシーは俺の伝説という言葉に驚いている。
ソフィエルも同じく。
「・・・・・」
「そりゃ・・・・大昔の人間が書いた聖書とかに書いてあるって話をどっかで聞いたことがあるだけだけど」
「なんだ・・・つまんないの」
俺の口から聖書という言葉が出たとたんに、バンシーの好奇心はどこかに飛んでいってしまった。
「あれ?」
『真。それは人間たちが勝手に書いた空想だ。
ま、アニメとか漫画みたいなものだ。
勝手に想像するのは自由だから。
俺たち悪魔や天使たちは名前とかを考えるのがすごい苦手で、
だからほとんどの悪魔と天使は人間が考えた名前を勝手に借りているわけ。
だから、名前が一致するだけ。
伝説とかそういうのはまったく関係ないんだ』
「マジで?」
『マジでだ』
伝説はただの作り話ってのは分かってたけどこんな形で夢を壊されるなんてな。
『話を戻そうか?
大天使がいなくなったのはかれこれ数百年前からだ・・・あ。
ちょうど真が住んでいる街、トロイメライの季節がでたらめになってからだ』
「どういうことだ?
この季節はトロイメライの中だけなのか?
全世界の季節がおかしいんじゃなくて、トロイメライの季節がおかしいのか?」
俺は街の外に出たことがない。
出る必要も無かったから。
海もある。山もある。人もいる。ビルもある。何でもある。
だから街の外に出る必要がなかった。
『ああ。その通りだ。
季節を管理すべき大天使がいなくなって、世界の季節がおかしくなっていった。
でも、そんなことは大天使ひとりいなくなってもすぐに修正できるはずだった。
だが、たったひとつ特殊な街があった』
「それが・・・」
『トロイメライだ』
「どういうことなんだルシファー!!」
『まあ落ち着け。
なぜかこの街は天候を操れないんだ。
天候を操る天使、五大天使の力を持ってしても天候を操ることが出来なかった。
ザキエルの嵐も、マルティエルの雨も、、シャルギエルの雪も、ラミエルの雷も。
さらに、サハクィエルの晴天の空でさえ無効だった。
こんな街は見たことがない。
天候を操れない以上、大天使に戻ってもらって季節全体を元に戻すしかない』
「季節が戻らないとどうなる?」
この疑問がふっと浮かんだ。
服装がめんどくさくなるだけで、大して困ったことはない。
だから、季節が元に戻ることに対して危機感を持っていない。
「あんた馬鹿?」
「何!」
バンシーが俺の方を向きながらこう言った。
『まあ・・・・人間は目の前にある物事しか見ない生き物だからな。
説明してやろう。
真は暑い所から急に寒い所に行くとどうなる?』
「そりゃ・・・急な温度差で風邪でも引くんじゃないか?」
「正解。なのに何で分かんないの?
ホント馬鹿ね」
「んだと?」
また真とバンシーはにらみ合う。
『まあ落ちつけ。
その通りだな。風邪を引く、病気になるが正解だ。
それは生き物だけではない。“世界”も同じだ』
「世界が病気?んな馬鹿な」
「馬鹿はあんた。」
また真とバンシーはにらみ合う。
『もうほっとくぞ?
病気とは世界の崩壊のことだ』
「崩壊?」
『ああ。
今まで世界は春、夏、秋、冬。
この季節の平行だった。
しかし今トロイメライの季節はめちゃくちゃだ』
「トロイメライだけなんだろ?
世界じゃない。この街トロイメライだけだ。
なんてことはない」
『・・・・すまん。俺たちは奇策を打ってしまった』
「奇策? なんだよ・・・」
ルシファーは黙った。
いらいらする。
世界を知らない俺でさえ。
多数に裏切られた感だ。
俺は多数でいたかった。
安心するから。
その安心が失われたから、いらいらする。
「だまってないで答えろルシファー!!!」
俺はこんな声を出せるのか。
怒気の篭った声。
ルシファーはやっと口を開きこう言った。
『世界はひとつになった。
世界の名も決まった。“世界”という名に。
もはやこの街は街ではない。
世界という世界になってしまった』
「やったって何を」
『元にあった世界と世界を切り離した。
世界を孤立させた。
そうすることで他の世界は平穏な世界になる。
世界という犠牲の元に』
「俺たちは犠牲だってのかよ!!」
『お前の憎しみも分かる。
だがこれはあくまでも、世界のためなんだ』
「そんなこと知るか!!
俺は目の前の世界に裏切られた。捨てられた。
魔王だかなんだか知らないやつらに・・・・勝手に!
俺たちは犠牲にさせられた」
俺は空に向かい指を指した。
「お前たちに!!! 世界に!!!」
「落ち着きなさいよ」
「うるさい!!」
「魔王さまの話を最後まで聞きなさい」
バンシーが俺の方へと歩いてくる。
パン―――
バンシーの右手が俺の頬を叩いた。
俺は一瞬何が起こったのかを頭の中で考えた。
でもそれは意味のないことだった。
考えるより先に体が動いていた。
「何しやがるっ!!」
俺はバンシーの両腕を掴み、バンシーを怒鳴っていた。
「落ち着きなさいって言ってるのよ。
怒鳴ることしか出来ないの?
最後まで聞いて、それでも納得できないのなら、
今度は私を殴りなさい」
俺は押された。
言葉にじゃない。
目だ。
バンシーの赤い瞳。
バンシーの瞳は何一つゆるがない。
気持ちも覚悟も。
安っぽい意地も何もない。
本当にそうしろと言っている。
ごくり・・・
俺は何を恐れてるんだ?
俺のデメリットは何もないって言うのに。
何も知らない人形じゃあるまいし。
俺は世界と世界を知る必要もある。
犠牲になる理由も、犠牲させられた理由も知る必要がある。
権利がある。
「わかった・・・」
「そう」
『じゃ・・・話すぞ。
俺は世界を見捨てたわけじゃない。
世界全体を救いたい、それだけだ』
「そのことと街を犠牲にすることと何の関係がある?」
「戻すためよ」
「何を」
「『世界を戻すため。
平穏の世界を、偽りなき平穏な世界を』」
バンシーとルシファーは声をそろえてこう言った。
偽りなき平穏な世界を戻すためと。
それは今までの世界が偽りの平穏に包まれた世界というようなものだ。
俺は街にずっといた。
世界を知らない。
友人はいる。家族はいない。
それでも平穏だった。
それが偽りだとでもいうのか。
信じろというのか。
悪魔と魔王の言葉を、
世界の真実を。
ここに来たのは本当に後悔の念だ。
が、聞きたい。知りたい。
世界を。
「今までの世界は偽りなのか?」
『ああ。
“箱庭”だ』
“箱庭”・・・・。
世界にいる人間は、言わば箱庭の“人形”というわけか。
ルシファーの言葉はあまりにも残酷だった。
心に突き刺さる。
ぐさりと。
『が』
俺はルシファーの言葉に顔を上げた。
絶望から希望を見出したように。
『これから話すことはよく聞いておけ。
多分、お前にとっても、世界にとっても大切なことだから』
「俺と世界に?」
『ああ』
『大天使だ。
人間界に堕ちた大天使サタンを探せ。
季節さえ元に戻れば、世界を元に戻せる』
「違う・・・・」
「真?」
「それじゃ・・・駄目なんだよ。
俺は箱庭の人形なんか嫌なんだ」
そう、嫌だ。
世界を知って、箱庭を知っている俺だから。
「俺は嫌だ。
人形のまま死んでいくなんて。
俺は普通の世界で普通に人間として死にたい」
これが俺のただの願い。
こんな当たり前のことも出来ずに死ぬなんてのは嫌だ。
(真の気持ちも分かる。
が、こうしている間にも世界は崩壊している。
・・・・どうするか・・。)
ルシファーは考える。
真の協力なくしてはサタンを見つけるのは無理だから。
ルシファーが考えているとソフィエルが、
「だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
奇声を出しながら急に立ち上がった。
ソフィエルの大声に真、バンシー、ルシファーは全員驚いた。
「ど、どうしたのよソフィー」
バンシーがソフィエルに声をかけた。
「どうもこうもないわ。
真くん。
あなたねえ、死ぬのは悪魔も天使も人間も全員一緒なの。
天使に魂の善と悪を決められ、善の魂は天使と共に神界へと行き、悪の魂は悪魔と共に魔界へと行く。
これのループ。
箱庭の世界も同等。
でもね、世界が崩壊したら意味ないの。
僕が言いたいこと分かる?」
「・・・・」
真は急なことに言葉が出なくなっていた。
すると、ソフィエルが真の方へと空中に浮遊しながら近づいてきた。
真とソフィエルとの顔の距離はほとんど零距離だった。
「分かる?」
「・・・・はい」
にまりとソフィエルが笑った。
してやったりの顔だ。
真から顔を離すとソフィエルは声高々にこう言った。
「はい!決定!真くんの自宅が、私とバンシーの滞在所!」
「・・・・・はあ。
この単細胞」
バンシーは大きくため息をつく。
『力技だなあ・・・ま、いいけど』
ルシファーは笑っている。
「・・・・・」
真は言葉が出てこない。
こうなることを予想していたとはいえ、呆気にとられている。
悪魔と天使と人間の共同生活がここに決定した。
読んでいただきありがとうございます。
感想をいただけるとありがたいです。