第十五話〜少女の赤い瞳〜
氷上愛彩と名乗った少女はクラス中の男をその言葉通りに魅了した。
一目ぼれしているやつも中にはいるかもしれない。
「近所から引越してきました。
よ、よろしくお願いします」
ぺこりと氷上が頭を下げ、再び顔を上げるときっと氷上の目には無数のけだものに映っていたであろうクラスの男たちの顔があった。
「近所ってどこ?」
「えっと・・」
「今、どこに住んでるの?」
「学園寮に」
「彼氏とかは?」
「そういう人はあいにく・・」
彼女は律儀にも答えなくて絶対いいであろう質問にでさえ答えていた。
「おほん」
担任のわざとらしい咳でさえ、けだものと化した男たちには聞こえていない。
きっと和也もあの中にいるであろうと和也の席をちらっと見たが和也はあの氷上を見つめているだけで、けだものと化していない。
「やかましい!」
クラスに担任の大声が響いた。
さすがにその大声はクラスの男どもを黙らせることが出来た。
「じゃあ、氷上は藤堂の隣へ」
「はい」
えーとかふざけんなとかタンスに足の小指ぶつけて死ねとか色々聞こえてきたが俺はそれを無視した。
俺の隣まで氷上が来た。
俺は一応挨拶することにした。
普通でいいよな? な?
「よろしく」
「はい。よろしくおね・・」
おね?
おねって何だ?
俺が何のことか聞こうと思い氷上の方を見ると氷上はじっと俺の顔を見ていた。
「な、何だ?
顔に何か付いてるか?」
氷上は言っていいものかと悩み、それを言えずにいた。
俺はそのことに気づき、俺が質問することによって氷上が言いやすいようにした。
「どうした?」
すうっと息を吸い、呼吸を整える氷上。
そして俺にこう尋ねてきた。
「あの、間違ってたらごめんなさい。
もしかして・・昨日の人ですか?」
そう言われ俺はじっと氷上の顔を見る。
確かに見たことがあるような気がしないわけではないが、はっきりと誰というのは分からない。
昨日俺が会った子はあの低級悪魔に傷つけられていた女の子だけなわけだし。
ぼんやりと氷上の目を見ていてふと何かを思い出す。
この赤い目に見覚えがあると。
昨日の女の子の目は光の届かない影に満ちた目。
氷上の目はその影の目に光を差した瞳みたいだった。
「もしかして・・・あのときの・・?」
俺がそう聞くと氷上は軽く頷く。
「はい・・」
そのときの氷上の顔は本当に悲しそうだった。
俺はその顔に何も言えず本当に情けなかった。