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第十三話〜悪魔の治療は禁忌〜

 虚ろとした意識の中で初めて聞いた音は蝉の鳴き声だった。

 ぼんやりと目を開けると天井が見え、ここが俺の部屋だということと今日の季節が夏だということが分かった。

 体を起こそうとすると昨日の喧嘩で受けた傷が鈍痛と俺の体を無邪気に走る。

 俺の体には絆創膏やら包帯が巻いてあった。

 バンシーがしてくれたのだろうか?

 俺は昨日の出来事をゆっくりと思い出す。

 そしてあの少女のことを思い出す。

 綺麗な白髪が血で真っ赤に染まり、俺に助けを請いたあの少女のことを。

 俺が考え事をしていると部屋の向こう側からどたどたと激しい足音が近づいてくるのがわかった。

 部屋の扉を俺の許可なく開いたのはソフィーだった。

「真くん!」

 傷に障るような大声を出しながら俺のベッドに飛び込んできた。

「ぐは!」

 ソフィーの体が俺の傷に圧し掛かり、その激痛に俺は堪らず声を漏らした。

「あ、ごめん」

 謝りながら俺の体から素直に降りてくれた。

 あはは、と苦笑いをして誤魔化すように話しかけてきた。

「でも心配したよ真くん。

 真くん大怪我してたんだもん」

 今も体が痛いわけだし大怪我に違いないのだが、

「だからって人の体にダイブすることはないだろうが」

 ソフィーは怪我人の体に非常に効果的なアタックをしてきたわけで、傷が開いてもおかしくなかった。

「ご、ごめん」

 そう言いソフィーは頭を下げる。

 俺は言いすぎたかなと思い、少し照れくさそうにしながらソフィーの頭を撫でた。

「心配してくれたんだろ?

 だったらありがとうだよ」

「真くん・・」

 俺は撫でている手に絆創膏がしているのを見て思い出した。

「そうだ。ソフィー」

 俺の言葉にソフィーは俺を見る。

「この絆創膏とかなんだけど、やっぱバンシーがか?」

 俺はてっきりバンシーが治療してくれたものだと思っていた。

 だからソフィーが首を横に振ったときは結構驚いた。

「あ・・それ?」

 ソフィーは何か言にくそうだ。

「どうした?」

 ソフィーはあははと笑いながらこう言った。

「あはは・・それ・・僕なんだ。治療したの。

 びっくりした? 痛いところとかない?」

「いや・・特にないけど・・」

 バンシーが治療したんじゃなくてソフィーがか。

 何で違和感を感じるんだろうか。

 バンシーが俺の体の治療をしなかったくらいで。そんなの気にする必要なんてないはずなのに。

「真くん!」

 俺が考えているとソフィーが急に大声を出したものだから俺は驚き少しびくっとしてしまった。

「バンシーのこと嫌わないで・・」

 少し秘めた言葉が俺の耳に届く。

 その声に俺は素っ頓狂な声を思わず出してしまう。

「へ?」

「バンシーは悪くないの。悪いのは・・多分ルールの方だから」

ルール?」

 ソフィーの悲しげな瞳を見て、俺はソフィーの言葉に手をひらひらと振りながらこう返した。

「当たり前だろ?

 俺がバンシーを嫌う? ないって。だから安心しろ」

 ソフィーは俺の言葉に頷く。

「ありがとう。

 真くんには教えておくわね」

「何を」

「悪魔と天使のルールのひとつ。

 治療について」

 この怪我とかに関することなのだろうか?

 何があるというのだろうか? 悪魔と天使のルールに―――

「僕は天使で、バンシーは悪魔だよね」

「ああ」

 俺はソフィーの問いに頷く。

「悪魔はだめなんだ・・」

「何が?」

「命あるものに対する治療」

「は?」

 また素っ頓狂な声を出してしまった。

「植物、生き物、そして人。

 これに対して治療を行っていいのは植物、生き物、人、そして天使だけなんだ」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」

 俺はつらつらと言葉を続けるソフィーの言葉を遮るように言葉を被せる。

 俺は今まで聞いた話をまとめるように顔に手を当て、考え始めた。

「じゃあ、天使は人間に治療を行ってもいいけど、悪魔はだめってことなのか?」

 俺はソフィーの言った言葉をオウム返しで返す。

 ソフィーは黙って頷く。肯定という意味だろう。

「わけわかんねえ。何だそのルール

「分かんないよ・・・そんなの・・」

 ソフィーは悲しそうに俯く。

「昔はバンシーもルールに縛られてなかったんだよ。

 でも少し前から急にルールに従うようになっていったんだ。

 いや・・もうあれは従うっていうより従順になってる。

 何かを恐れて」

 俺はどう声をかけていいものか悩んだ。

 俺はこんなにソフィーが悲しそうな顔をするとは思わなかったから。

 でもひとつ分かったことがある。

「ソフィーはバンシーのことが好きなんだな。

 そんなに悲しそうな顔してるんだし」

 俺の言葉にソフィーは頷いた。

「うん、好きだよ」

 俺の言葉に素直に頷いたソフィーは恋をするただの12歳くらいに見える少女だった。

 顔を少し赤らめるソフィーはつい愛でたくなるほど愛らしかった。

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