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第十二話〜人間と男の対決III〜

 バンシーから受け取った“それ”は黒く怪しい光を帯びていた。

 小切先から伸びた横手、物打、刃先、峯、しのぎ、刃区、柄、そして刃渡り―――

 俺はこれを知っている。同じだ。

 この柄の握り具合・・・間違いない。

 これは俺の木刀だ。

 俺が逃げ続けたあの木刀と同じだった。

 俺の掴んでいた柄の部分にぼんやりと文字が浮かんできた。

 “畢竟無ひっきょうむ”と―――

 過去にも未来にも何もないという意味だ。

 俺には何もないとお前は言うのか? そうなのか? 畢竟無。

「ないなら作るだけだ。だろ?

 今は、力を貸せ。あいつを倒す力をよ」

 俺は右頭部に畢竟無を構えた。とんぼの構え。

 その構えから畢竟無を男のいる方へと90度傾ける。これは俺が昔やっていた剣術を俺なりにアレンジした自己流だ。

 右手で畢竟無を持ち、左手は格闘が出来るように構えた。

 石を蹴り、俺は男の方へと飛び掛った。

 自分でさえ驚いた。

 羽のように体が軽かった。

 これが悪魔の作り出した刀の力なのか?

 左手の掌で男の視界を覆い、男の動きをある程度封じた。

 男の目はないと思っていたがその空虚に開いた穴が男にとっての目だったらしい。

 男は俺の左手を振り払う。

 作戦通り。

 男に十分な隙が出来きた。

 俺はそこを逃さなかった。

 畢竟無を握り、流れに任せ、風の通り道をなぞるように畢竟無を振り下ろした。

 風と肉を斬る音が俺の耳元で聞こえた。

「―――!」

 男は奇声を上げた。

 先ほどまでの打撃はまったく効かなかったが、この畢竟無の一撃はかなり効いたらしい。

 俺は怯むことなく、何度も畢竟無を振るった。

 一閃、二閃、三閃―――

 一閃振るうたびに、肉と風を斬る音が聞こえる。

 男も反撃をしてきたが、軽くなった体は男の豪腕を完全に見切っている。

 大振りの攻撃はもう簡単に避けられるようになった。

「勝ったわね」

 バンシーの勝敗を予測する声が聞こえた。

 俺はこいつに負ける気がしなかった。

 畢竟無の黒く怪しい光が強まった。

 俺は止めと、畢竟無を上段に構え、男に対し振り下ろした。

 黒く光る刃が男を貫き、地面に焦げ後を残す。

 男がふたつに分かれ、黒い刃と共に消滅した。

「終わった・・」

 畢竟無が俺の手から滑り落ちる。

 滑り落ちた畢竟無は物を切るような音を出し、地面に刺さった。

 俺は少女のいたところに駆け出した。

 少女のいたところに駆け寄ったはずなのだが少女の姿は見えなかった。

「ぐっ・・」

 危機を脱し、安心したのか急に体が痛みだした。

 俺はもう立つ気が起きなかった。

 このまま眠ってもいいと思った。深く、暗い闇に身を置いてもいいと思った。

 俺は顔から倒れていった。

 その体をバンシーが支えてくれた。

「もう休んでいいよ」

「悪いな・・じゃ・・すこ・・し・・だ・・け・・」

 俺はそこで意識を失った。

 バンシーが何かを呟いたのだが聞く気力もなかった。

「真。よくやったね。

 変わってない・・・ね。

 真は・・真だったよ。

 ―――よかった」

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