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第一話〜悪魔の名はバンシー〜

 悪魔(あくま)とは諸宗教に見られる、“煩悩”や“悪”、“邪心”などを象徴する超自然的な存在のことだ。

 空想の中では黒い姿で角があったり、体より大きな羽が生えていたりと、見るからに悪魔だと思っていた。

 そんなんだったら、どんなによかったか・・・。



第一話〜悪魔の名はバンシー〜



 ここは季節がない街。

 季節が変わらない街。

 季節は神様の気分しだい。昨日は夏だったのに、今朝には冬になっていたりとでたらめな季節。

 街の名前は“トロイメライ”。変わった名前の街だ。

 外装は何の変哲もないただの街だ。

 俺の名前は藤堂真(とうどうしん)。ごく普通の学生だ。

 いや・・・・だった・・・かな?今となっては。

 はあ・・・。俺がため息をつくのも無理はない。俺はちらっと俺の部屋をたった数分で自分の部屋のように居座っている少女を見た。

 少女の名はバンシー。バンシーは、美しく艶やかな長い黒髪に似合わないほどの小さな背丈。肌は触れれば溶けてしまいそうな雪のように白い。見た目だけなら可憐な少女。

 その肌に合うつり目がかった赤い宝石のように輝いた大きな瞳がこちらを見る。

「なに?」

「いや・・・なんでも・・」

「そう?」

 ぱっと見は、聞こえたら確実にやばいと思うけど・・・・小学生?

 カーン。

 頭の上から突然タライが落ちてきた。

 な、なんて・・・・べたな・・・

 しかし衝撃はテレビでみるよりも遥かに高い。

「な、なにすんだ!!!」

「私は小学生じゃないの! あんたよりも100倍は生きてんのよ!!

 少しは敬意を持ちなさいよ!!!」

 そう。こいつは小学生のような身なりだが、小学生じゃない。

 こいつは、“悪魔”だ。



 こいつと出会ったのは本当についさっき。

 俺はいつもの通り家に帰っていた。 

 今日の季節は秋。 

 秋と春は結構好きな季節だ。

 半袖でも長袖でも行動できるから楽でいい。

 帰り道は、いつもより少しだけ暗かった。

 でもそれは俺の気のせいだと思い、何の関心もなかった。ただ・・・・うっすらと闇が気になった。

 目の前には果てしない道。

 ここはいつも通る道。ここ、こんなに長かったっけ?

 今思えば止めておけばよかったとひたすら後悔。

 俺は闇の中をゆっくりと進んでいった。一歩一歩ゆっくりと。

 コツ、コツ、コツ。

 革靴の音が妙に響く。

 コツ、コツ、コツ。コツ、コツ、コツ。

 もうどれだけ歩いただろうか?

 30分は歩いたと思う。

「おかしいな・・・もう家に着いてもいい頃だと思うんだけどな」

 独り言も増えてきた。

 少しでも恐怖を誤魔化すために。

『くすくす・・・』 

 びくっ・・

 少女の笑い声が聞こえた。

 周りを見てみたが、周りには誰もいない。

 それどころか―――

「ここは・・・・どこだ・・?」

 俺は気づかなかった。周りの景色が見たこともない植物でいっぱいだったことに。

 街には植物は育たないはずだ。

 育つとしても、ビニールハウスの中などと空調を調整できるような施設がないと無理だ。

 ここは外。無理だ、絶対に無理。

 植物が育つわけがない。

『不思議?』

 また声が聞こえる。

「ああ・・」

 俺は声に答える。

『くすくす・・・』

 声はまた笑う。

 なんなんだ? この声は?

 俺の恐怖から生み出す空耳か?

『違うわよ。私の声よ、私の』

 声が急に近づいてきた。

「ど、どこだ!」

「ここよ」

 声はするのに姿が見えない。

 俺は周りを見渡してみる。

 上、右、左、後ろ。全部見てみたが、どこにも、誰もいない。

「あんた・・・・ワザとやってんでしょ・・・・・・ふん!!」

 ゴキ!!!

「ぐほっ!!!」

 下から伸びてきた小さな手が俺の首を、無理やり顔を下に向けさせた。

 俺が下を見てみると、小さな少女がいた。

 うん。気づいてたよ。

 でもね・・・・気づきたくなかった。・・・・うん。

「君・・・・誰?」

「バンシー」

 俺の問いに少女は高飛車な声で答えた。

 俺の首につかまりながら。

「バンシーちゃん?

 とりあえず首から手を離してくれるかな?」

「嫌」

 俺の首にぶら下がりながらバンシーは言う。

「なんで!!」

「なんとなく」

 なんとなくで人の首にぶら下がるのはどうだろうか?

「ああ・・・もういいや」

 バンシーは飽きたのか、俺の首から手を離してくれた。

 俺は首に手を当てて少し首を慣らす。

「くすくす・・」

 バンシーは笑う。

「さっきから何がおかしいんだ?」

「だって珍しいんだもん」

「何が?」

「“人間”」

 今こいつ、何言った。人間?

 おかしなことを言うもんだ。お前も人間だろうに、人間が珍しいとは。

「私人間じゃないわよ。」

「は?」

 決定だ。こいつは頭のおかしいやつなんだ。うん。

「だから違うって言ってんでしょ!!」

「はいはい。・・・・・ん?」

 俺・・・・今口にしたっけ?こいつが人間って?

「ああ、私、人の心が読めるから」

「ああ・・・・そう」

 ・・・・・・・・・あれ?

「あれーーーーーーー!!!」

「うるさーーーーーーーーーーーーーーーーい!!!

 えいっ!」

 カーン。

「痛っ」

 空から大きなタライが落ちてきた。

 ・・・・なんで?

「で・・・・あんた何者?」

「くすくす・・・・知りたい?」

「いや、そこまでじゃ」

「えー知りたいよね」

「だから・・」

「―――!!!

 後ろ!!!」

 バンシーがいきなり大声を出した。

 俺が後ろを振り向いて見ると、さっきの植物が巨大化していた。

 さっきは気づかなかったが、植物はオジギソウを巨大化したような形で、表面には胃液のように強力な酸の液がにじみ出ていた。

「何だ・・・コレ・・」

 ドスン・・

 腰が抜けた。腰から力が抜けた。

 情けなく、惨めに尻餅をついた。

「ちょっとしっかりしなさいよ!!」

 バンシーの声が聞こえる。

 俺がバンシーの方を見てみるとバンシーに大きなコウモリのように黒い羽が生えていた。

 悪魔・・・

 俺は理解した。人間が珍しいと言ったバンシーを。

 悪魔なんだ。

 会う前からその姿だったら、俺はすぐに逃げ出した。

 面倒ごとはごめんだから。

「逃げなくてよかったわね。

 もし、逃げてたらあんた死んでたわね」

 怖いことをさらっと言うな。

「や、やっぱり?」

「うん。

 まあいいわ・・・・這いずってでもいいから少し下がってなさい」

 俺は腕の力だけでバンシーたちから離れた。

 バンシーは巨大な植物と向き合っているというのに、眉ひとつ微動だにしない。

 怖くないのか?

「・・・・慣れてるからね」

「え・・・」

「きゃははははは!!!

 馬鹿バンシー!! 今日こそ決着をつけーーーるのよ」

 植物の上にバンシーと同じくらいの背丈で、青空のような色をした肩にかからないほどのショートカットの少女が立っていた。

 その少女の肌は、白い肌を仄かに彩っている茶色が夏を想像させる。

 その小麦色を映えさせる向日葵のように黄色い瞳がバンシーを睨みつける。

「またあんた?

 単細胞のソフィエルちゃん」

「誰だ単細胞じゃあ!!!」

「あんたしかいないでしょうが」

「くぬぬぬぬ・・・・・

 馬鹿って言う方が馬鹿なのよ!!」

「私は馬鹿だなんて言ってないわよ。

 っていうか先に言ったのはあんたよ、あんた」

「うぬぬぬぬぬ」

 あれ?

 恐怖は?

 あ、腰が動く。

 俺は立ち上がった。

「あ、大丈夫?」

「あ、一応」

「そ」

 俺は巨大植物の上にいる少女に指さし、

「あれ誰?」

「私にちょっかいをかけてくる単細胞」

「あ、そう」

「ちがーーう!!!」

 俺に指を指された少女は足をじたばたさせながら大きな声をだした。

「僕は超最強天使ソフィエルさま。

 以後よろしくしなさい。そこの人間」

「天使? あれが?」

「一応」

「一応って言うな!!」

 俺の知ってる天使ってのは・・・もっと神々しくて、白い大きな羽が生えてるようなイメージだったんだけどな。

「子供みたいだな」

「むきーーーーっ!!!

 あんたより100倍は生きているこの僕に向かって子供ですって・・・

 今日はあんたを溶かしてあげるわ。

 行きなさい!! ルリーー!!!」

 ソフィエルの声と共に、植物が大きくうねり始めた。

 うねりが止まると植物は一直線にこっちに向かって酸の液を飛ばした。

「うわっ!!」

「動かないで!

 無より有を・・・」

 俺は目をつむった。

 じゅうぅ・・・

 何かが溶ける嫌な音が耳を支配した。

 あ、死んだ。

 そう思った。

「大丈夫よ」

「え・・」

 バンシーの声が聞こえた。

 俺はゆっくりと目を開けた。

 目の前には黒い大きな壁があった。

「なんだ・・・これ?」

 俺が黒い壁を触ってみると。

 ぶよん、ぶよん。

 黒い壁はゼリーのようにぶよんぶよんと揺れた。

 しばらくしたら壁は溶けるように崩れ落ちた。

「なんだ・・・いったい?」

「どお? 驚いた?」

 崩れた壁の先にバンシーがこっちに手を振りながら立っていた。

「もう邪魔すんじゃないわよ!!」

「あんた・・・分かってる?」

 バンシーの口調が変わった。

「な、何をよ・・」

 ソフィエルもそのことに気づき少し戸惑っている。

「人間に手を出したってこと」

「あ、・・・

 ふ、ふん! それがなんだってんのよ!!!」

「人間に手を出してはならない。

 それが悪魔だろうと天使だろうと関係ない絶対のルール。

 あんたはそれを破ってしまった」

 ソフィエルの体が震え始めた。

 恐怖でがちがちに固まっている。

 ソフィエルの震えが止まり、刹那。

「し、知らない知らない知らない!!!

 僕は悪くないもんね!! 悪いのはそこの人間。

 勝手に神界に入ってきたのが悪いんだもん!!」

 駄々をこねる子供のように泣きながら叫び始めた。

 神界?

 なんだそりゃ?

「経緯はどうあれ、あんたは人間に手を出した。

 それは事実なの」

「どどどどど、どうしよう・・・・」

「さあ? 魔王さまと大天使さまに聞いてみないとね」

「ま、魔王さまと・・・大天使さま?」

『みーちゃった、みーちゃった』

 男の声が脳に直接聞こえる。

「「ま、魔王さま!!」」

 この声の主は魔王だそうだ。

 俺は見たことがないが。

「私も魔王さまを直接見たことなんてないわよ」

「え、バンシーも?」

「ええ。魔王さまはほとんど外にはいらっしゃらないのよ。

 ほとんどは神界の最深部の神魔界(しんまかい)におられるのよ。

 神魔界はあらゆる世界を見通せるの。

 だからいちいち外にでる必要もないわけ。わかった?」

『説明ごくろうさん。

 ま、そういう訳なんだよねん』

 すいぶんと砕けた喋り方をする人だ。

「ぼ、僕は・・・どうなるんでしょうか?」

『抹殺!!』

「ええ!!」

 ソフィエルは魔王の声に大きな声を出した。

『普通はな』

「へ?」

 今度は力が抜けるように唖然とした。

「どういうことなんですか?」

 バンシーが魔王に問いかける。

『俺の頼みを聞いてくれるなら、全てなかったことにしてやるよ』

「ほ、本当ですか!!」

 嬉々とした声を出すソフィエル。

『おうよ。

 大天使を探して欲しい』

「大天使さまを?

 どうかしたんですか?」

『最近大天使のヤローを見ない。

 で、久しぶりに神魔界の外に出るいいきっかけと思って外に行こうとしたんだが、神魔界の入り口に大天使がしたとしか思われない結界を見つけた』

「結界ですか?」

『『大天使 夜露死苦』ってな』

「ふ、古いですね・・」

『ああ』

 魔王は呆れたような声を出した。

『大天使はコレを新しいって思ってるからな』

「結界は破れないんですか?」

 バンシーが聞いてみると魔王は、

『無理』

 即答。少しは悩めよ。

『で、姿までは確認できなかったんだが、人間界にいることがわかった』

「そういうこと」

『おっ、察しがいいな』

「まあ、悪魔ですから」



ああ・・・・嫌な予感しかしない。

 どうなることやら。

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