煙
彼からタバコを奪う術はないものか
苦い煙をからだいっぱいに飲み込み
一部を吐き出す行為を止める術は
ないものか
やめるよ、と約束して一日も経たずに
タバコをくわえた
煙たいから、臭いから、汚いから
身体に悪いからやめてほしいのではない
苦い煙に身を任せて、そのうちに
消えしまうのではないか
滅に向かってゆっくりと堕ちていく
姿を見せつけられているようで
考えすぎだ、と彼は笑った
考えじゃなく、感じてしまった
彼と私の間に
煙が、細くたちのぼる
このけむりは生きているようで
私にあやしい笑みを見せて
彼を覆いつくしてしまう
彼は彼の時間を削る
私との時も削り落とす
痩せて小さくなっていく
私たちの時
彼は自ら命を絶とうと
しているの
私の前で堂々と
音もなくのぼってゆく
煙の行方を彼は
黙って追っていた