太陽が昇るのと同じように
公爵令嬢であるロザは、卒業パーティで、王子ルミナスから婚約破棄を言い渡されていた。
「ロザ・オルド公爵令嬢。今日をもって、貴様とは婚約破棄をさせてもらう。」
「そうよ、彼に貴方は相応しくないわ。」
ルミナスが宣言すると、ルミナスの腕にその豊満な胸を押し付けた男爵令嬢——アウロラが、それに続いて野次を飛ばした。
ロザは、呆れてため息をついた。本当に馬鹿な人だ。だけど、少しぐらい付き合ってやってもいいだろう。
「まぁ、殿下。私は何もしておりませんわ。どうして婚約破棄などなさるのです?」
「お前は、アウロラをいじめただろう。」
そんなことは全くしていない。大体、いじめるような理由がない。
「そんな覚えはございませんわ。」
「嘘だ!アウロラだけでなく、こちらのご令嬢方も、お前がいじめをしているところを見たと言っている!」
ルミナスが示す方向を見れば、以前から彼と親しくしていた令嬢がいる。ロザは、ますます呆れてしまった。彼女たちまで共犯なのか。令嬢たちが口々にありもしない証拠を並び立てる。
「ロザ様が、アウロラ様の教科書を破くところを見ましたわ。」
「私は、ロザ様がアウロラ様の陰口をおっしゃっていたのを聞きましたわね。」
「まぁ、酷い。お二人は幼馴染でいらっしゃるのに。私は、ロザ様がアウロラ様を階段から突き落とそうとしているのを見ましたのよ。」
ルミナスが満足気に頷き、ロザに向かって再び宣言した。
「これで分かっただろう?貴様には弁明の余地などない。よって、ロザ・オルド令嬢とは婚約破棄をし、幼馴染で親しいアウロラを虐めるという非常に非人道的な行いをした罪で、国外追放とする。」
「国外追放とは酷いですわ。私何もしておりませんのに。」
「まだ惚けるか。まぁいい。太陽がもう昇らないのと同じように、お前と僕の道が交わることももうないのだ。」
"太陽"。今となっては、ほとんどの人間がそれを見たことがない。
一昔前に、悪名高き大魔法使いアテルが「太陽が昇るのと同じように、お前が滅びるのは自明だ!」と言われたのに怒り、太陽を隠してしまったのだ。
だが、今の言い方だとつまり……
「太陽がまた昇ったら、私との婚約破棄はないということでよろしくて?」
「……屁理屈を言わず、さっさと出ていけ!」
すぐに立て直したが、一瞬ルミナスの顔が歪んだのを、ロザは見逃さなかった。本当に馬鹿な人だ。ルミナスも、アウロラも、他の令嬢たちも。
ルミナスが、アテルにこの国を奪われそうになっているのに必死に抵抗していること。
そして、国を渡さなければ婚約者を殺すと言われ、民の安全や王族としての責務と、ロザへの愛の間で揺れ動いていること。
一人この国に残って戦おうとしていたが、友人にバレて共に戦うことになったこと。
そして、せめてロザだけでも逃そうと、この茶番を計画していたこと。
ロザが、本当に気づいていないと思っていたのだろうか。
ロザは、涙が出そうになるのをグッと堪えて、前を向いた。そして、ルミナスの前まで歩き、目の前の彼をじっと見つめる。
「な、、なんだ?」
ルミナスが困惑する声が聞こえるが、ロザは、深呼吸をして、思いっきりビンタした。
「な、何をするんだ!」
「『何をするんだ!』じゃありませんわ。私が何にも気づいてないと本気で思ってらしたの?どうせ、また自分だけが犠牲になればいいとか思ってらしたんでしょうけどね。」
「な、なんでそれを。」
「何年一緒にいると思っていますの?貴方は演技が下手くそですわ。いい加減自覚なさって。それより、私は怒ってますの。」
そう、ロザは怒っているのだ。伝えてくれなかったこと、自分だけ犠牲になろうと思っていたこと。そして何より、
「私と、幸せも苦しみも分かち合おうと約束したではありませんか。そんなに私を信頼しておりませんの?」
ルミナスも、覚悟を決めたようだ。こちらをまっすぐに見つめている。
「ロザ、お前を信頼してないわけないじゃないか。」
「ではなぜ!」
「聞いてくれ、ロザ。愛しているんだ。もし、お前を失ったとしたら、僕はもう耐えられない。」
ロザは、もう涙を堪えきれなかった。怒りとか、悲しみとかで、心はもうぐしゃぐしゃだ。
「そんなの、そんなの!私だって同じですわ。貴方のいない世界に意味なんてない。私に、そんな世界で生きろとおっしゃるの?」
ルミナスは、ハッとしたような顔をして、ロザを抱きしめた。
「そうか、お前も同じか。……すまない。僕は、なんてことを。」
ロザは、必死に彼の胸にしがみついて泣いた。
「許さない、許さないわ。絶対もう二度とこんなことをしないと誓って。」
「ああ、ああ。違うよ。もう二度と君を置いて行ったりしないさ。」
しばらく彼の胸で泣き腫らし、パンパンになった目で顔を上げると、呆れたような顔をしたアウロラと目があった。彼女は従姉妹で、昔からロザを妹のように可愛がってくれた、大好きな人だった。
「やっぱりね。言ったでしょ、ルミナス。ロザはそんなことじゃ諦めないって。」
「ああ、すまない。」
「もう、ロザ。目元が真っ赤だし、せっかくのメイクも崩れてしまっているわ。」
アウロラは、ロザの目元を優しく拭ってくれた。その手つきに愛を感じて、ロザはまた目尻が熱くなった。
「アウロラ!私、貴方にも怒ってますのよ。どうして、こんなことに協力しましたの?」
アウロラの方が、ビクッと跳ねた。
「べ、別に面白そうとか思った訳じゃないわよ。」
「思ってますわね。それは絶対。」
「う、うるさい!大体貴方だって、最初はノリノリだったじゃない。」
「そ、そんなことないですわ!」
アウロラとしばらく言い合っていると、一人の令嬢がそっと声をかけて来た。
「あの、周りにも人がいらっしゃいますわ。」
ロザは、ハッとして辺りを見渡した。卒業パーティーなので、生徒やその保護者も多く参加している。皆、困惑した表情をしていたり、微笑ましそうにしていたりと、間違いなく注目されていた。
ロザは顔を赤らめる。それから、お化粧を直して、服を整え、それからのパーティーはつつがなく終了した。
そして、ルミナスとロザ、そしてアウロラの尽力により、対抗し得るメンバーを集め、知識を集め、やっとアテルに勝利した。
時に死にそうになってお互いに抱き合ったり、喧嘩して仲直りしたり、仲間を失ったりしたけれど、それでも、ロザ達は美しき太陽を取り戻したのだ。
勝利を掴み取った時、ロザとルミナスはお互い泥だらけなのも厭わず、思いっきり抱き合ってキスをした。
「太陽が昇るのと同じように、お前を愛し続けよう。」
「私も。」
そして二人は結婚して、賢王と賢后として讃えられた。何故なら、二人は、喧嘩しても、困難が訪れても、必ず二人で乗り越えたからだ——太陽が昇るのと同じように。
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