時間をムダにする断罪劇
「クラウディア、今日こそはおまえに引導を渡す!」
ここは王立学園の中庭にあるガゼボ。
いきなりツカツカと歩いてきて、そう宣言してきた彼は、この国の王太子であるアラン様。私の婚約者でもある。
私はため息をつきながら立ち上がっておじぎをした。そして
「お言葉ですがアラン様、あなたは昨日もそう言って話しかけてきて、結局、何の話をしにきたのかわからないまま終わったじゃないですか。何の引導を渡すつもりか知りませんが、今日こそはちゃんと、実のある会話にしてくださいね」
と言うと、
「おま! おまえがそれを言うか! 私はいつでもきちんと本題を話そうとしている! 話をさせないのはおまえじゃないか!」
と言ってきた。
「まああ、王族ってほんと嫌ですわ、自分の非は絶対に認めないのですもの。いつでも人のせいにして、それがまかり通っちゃうんですものね。いいご身分でうらやましいわ」
「おま…! ふ…! 不敬!」
なんか怒らせたみたいなのであわててフォローする。
「ああそうですわね不敬でしたわ、ほんとごめんなさい。だってアラン様ってほら、みんなが憧れる王子様じゃない? 美しくて賢くて優しくて。あまりに完璧だから羨ましくて、つい意地悪なことを言ってしまいましたの」
「そ、そんな、ご機嫌取ろうったってそうはいかないぞ…」
まんざらでもないのか、ちょっと顔が緩んでいる。
「まあ立ち話もなんですから座りませんか」
「う、うむ…」
私が椅子に腰掛けると、アラン様も対面に座り、侍女がすぐにお茶を運んできた。
「ご機嫌取りじゃないですわ、アラン様は本当に何もかも優秀です。ただ、欲を言えば、眉毛はもうちょっと濃い色にしてほしいのですよねえ。私ってほら、前世が日本人の転生者だもんだから、眉毛やまつげが金髪なのに慣れないんですよねえ。金髪のまつげがワッサーしてても、アメリカシロヒトリにしか見えないし」
「アメリカ…なんだって?」
「日本によくいた毛虫の名前です。ブラウンのアイブロウとマスカラがあればなあ。もう絶世のイケメンになることまちがいなしなのに、惜しい、惜しいです」
「いや、だから、そうやって話題をそらすのはやめろ! ニホンだのイケメンだの、いつもわけのわからない言葉を使ってけむに巻く! これだから話が進まないんだ!」
「えー、私は正直に思ったことを口にしてるだけなのに、まるで私が悪いような言い方をするんですね」
「おまえが悪いだろどう考えても! いいから私の話を聞け! そして口をはさむな!」
「そんな、横暴ですわー、裁判だって反論の機会は与えられるはずなのに、一方的に片方が話をするだけじゃ、冤罪が増えるだけですよ。一国の王太子としてどうなのかしらその言いぐさは」
「だから、一方的に話し続けてるのはおまえだろうが!」
「どこが一方的なんですか。アラン様のお言葉を聞いて真摯にお返事をしてるだけなのに。そういうところですよ」
「どういうところだよ! 私の話は全然進んでないだろ! おまえが邪魔してることの何よりの証明じゃないか!」
「もー、すぐに興奮するんだから。落ち着いて、どうどう。さあお紅茶ですよ、飲んでくださいな」
「……はあはあ、ごくん」
「いいですか、アラン様のお話が進まないのは、アラン様がとっとと本題を切り出さないせいですよ」
「……」
「ほらほら、黙ってないでちゃんとお話ししましょうよ。早く言わないと今日も何の成果もなく終わってしまいますよ。さあ本日のお題はなにかなー?」
「……そのバカにした言い方はなんとかならんのか」
「まあっ! アラン様ったら何をおっしゃいますの! そういうのを被害妄想と言うのですわ! バカになんてしてませんのに!そういえば東の地で瘴気がたまっているという噂を聞きました。アラン様も瘴気のせいで疑り深くなっているんですわきっとそうですわ」
「……何をどう言い返せばいいのかわからなくなってきた…」
「ほらやっぱり! 瘴気のせいで判断力が鈍っておられるのですわ!私が思うに、瘴気がたまるのって、おならを我慢するせいじゃないかと思いますの!」
「…お…なんだって?」
「おならですわ! この世界にある瘴気の正体は、腸内で異常発酵したアンモニアや硫化水素じゃないかと思っていますのよ。水洗トイレも浄化槽もないこの世界では、どうしてもトイレ事情的に不衛生になるはずだし、有毒ガスが発生してもおかしくないと思うんですの」
「ちょっと何いってるかわからない…」
「街が臭くなったり目が痛くなったりしないのは、聖女様が浄化してくださるからだと思うんですけど、ひとりひとりが自衛のために、便通をよくして、おならを我慢しないことが大事だと思うのですよ」
「瘴気の…自衛が…便通…?」
「まあこれはあくまでも私の想像なので、実際のところがどうかはわかりませんけども。とくにアラン様は魔力が多いので、おならのかわりに魔法を使えば外に出せるような気もしますし」
「いや、おならと魔法を一緒に考えるのはおかしくないか」
「だって魔力を使うとおなかが減るじゃないですか。体に蓄えた栄養を魔力に変換してるんだと思うんですけどねえ」
「でも、『たくさんおならをしたからお腹が減った』ってことはないよな?」
「あっ、たしかに」
「だろ! おならと魔力は別物なんだよたぶん」
「じゃあやっぱりおならは我慢しないほうがいいってことですね」
「そう…なるのか…?」
「そうですよ、おならを我慢すると体中に有毒ガスがいきわたって不調をきたすらしいですよ、それだけじゃなく、できれば腸内細菌を整えるためにヨーグルトを……あっ、昼休み終わりですわアラン様」
こうして、今日も断罪劇は不発に終わったのであった。
こんなムダな話なのに、最後まで読んでくれてありがとうございます。




