腹黒王太子に弱みを握られ、なぜか専属の料理係(?)にされる
「ゆ、ユリウス殿下……ッ!?」
しまった。完全に気が抜けていた。
私は慌てて咳払いをして姿勢を正し、スッといつもの『氷の公爵令嬢』の仮面を被り直す。
「……何のことか分かりかねますわ。それはただ、身の程を知らない平民に恵んでやった、残飯のようなものですもの」
「へえ。王宮の料理長も顔負けのしっとりしたチキンと、絶妙な酸味の特製オーロラソースが挟んである『残飯』ね。君、よっぽど贅沢な暮らしをしているんだな」
(くっ……! オーロラソースの隠し味に入れたハチミツに気づくなんて、舌が肥えすぎよこの腹黒王子!)
心の中でギリィッとハンカチを噛みちぎりながら、私は必死に表情筋を固定した。
そんな私の内心を見透かしたように、ユリウス殿下はくすりと笑う。
「それに、リリア嬢、感動して泣いていたよ。『セレスティア様は私が徹夜明けだと気づいて、こんなに美味しくて優しい味のお食事を……なんてお優しい、最高のツンデレお姉様なんでしょう!』って」
「つ、ツンデレ!?」
思わず素っ頓狂な声が出た。
違う! 私はただ、目の下にクマを作ってフラフラしている彼女を見て、どうしても放っておけなくて……い、いや、あれは嫌がらせよ! 最高級の食材で胃袋を驚かせるという、高度ないじめのはずなのに!
「……というわけで」
ユリウス殿下は、私の手から奪った(元々は私が作った)サンドイッチの残りをパクリと優雅に平らげると、ふわりと甘い、けれど絶対に逃げ場のない笑みを浮かべた。
「僕も最近、公務と学業で忙しくてね。学園の食堂の味にも飽きていたところなんだ。君のその見事な『嫌がらせ』、明日から僕にも毎日してくれないかな?」
「は……? い、嫌ですわ! なぜ私が殿下のお世話を……」
「おや、断るのかい? それなら仕方ない。学園の掲示板に貼り紙を出すしかないな。『氷の公爵令嬢は、中庭で「あむっ」と可愛い声を出しながら手作り弁当を食べている家庭的な女の子です』って」
「や、やめてくださいませ!!」
私の悲鳴が中庭に響き渡る。
悪役令嬢としての威厳など、もう風前の灯火だった。
「じゃあ、交渉成立だね。明日は少しお肉が食べたいな。期待しているよ、セレスティア」
機嫌良くウインクを残して去っていく殿下の背中を、私は絶望的な気分で見送った。
どうしてこうなったの!? 私はただ、立派な悪役令嬢としてヒロインを虐めて(※栄養管理して)いただけなのに!
明日のお肉料理、冷めても柔らかい豚の角煮にするか、それとも王道でハンバーグにするか……って、無意識に献立を考えてる場合じゃないわよ、私!!




