表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いいね、の向こう側  作者: 櫻木サヱ
知らないアカウント

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/2

フォローしていないはずの人

夜の大学は、昼間とはまるで別の顔をしている。

 昼間は人で溢れているキャンパスも、日付が変わる頃には、街灯の下に影だけが残る。


 私は図書館からの帰り、イヤホンを耳に突っ込んだまま、だらだらとスマホを眺めていた。

 講義資料を確認するつもりが、気づけばSNSを開いている。いつものことだ。


 意味もなく、親指で画面を上に弾く。

 更新。

 更新。


 その途中で、違和感が引っかかった。


 「……ん?」


 一瞬、スクロールを戻す。

 見慣れない投稿が、私のタイムラインに混ざっていた。


 「明日、階段で転ぶ」


 それだけ。

 短すぎる文章。

 写真も動画も、リンクもない。


 釣りアカウントかな、と思った。

 そういう不吉なことを書いて、反応を楽しむやつは珍しくない。


 でも、アカウント名を見て、眉が寄る。


 「@___」


 空白。

 文字が入っていない。


 アイコンは、初期設定のままの灰色の丸。

 プロフィール文も空欄。


 気持ち悪い。


 フォロワー数は「1」。

 フォロー数も「1」。


 その「1」が、私だった。


 足が止まる。


 画面を二度見して、三度見して、それでも表示は変わらない。

 私は、こんなアカウントをフォローした覚えがない。


 勝手にフォローされることはあっても、勝手にフォローすることはない。

 通知も来ていない。


 なのに、フォロー中。


 嫌な予感が、背中を這い上がる。


 私は、その場で立ち止まり、アカウントをタップした。


 プロフィール画面が開く。

 読み込みに、やけに時間がかかった。


 ぐるぐる回るアイコンを見つめながら、なぜか思った。

 この画面、前にも見た気がする。


 でも、いつかは思い出せない。

 夢の内容を、起きた瞬間に忘れるみたいな感覚。


 ようやく表示されたプロフィールには、何もなかった。

 投稿数「1」。

 さっき見た、あの一文だけ。


 投稿を開く。


 いいねが、一つ付いていた。


 押した覚えはない。

 それなのに、ハートは赤く染まっている。


 いいねしたユーザーを確認すると、表示された名前に喉が鳴った。


 私のアカウントだった。


 「……は?」


 声が、思ったより大きく出てしまう。

 夜のキャンパスに、やけに響いた。


 アプリのバグ。

 そう思い込もうとする。


 最近アップデートもあったし、表示がおかしくなることはある。

 たぶん、それだ。


 私はアプリを一度閉じて、再起動した。

 もう一度、タイムラインを開く。


 さっきの投稿は、まだそこにあった。

 いいねも、そのまま。


 心臓の奥が、じわっと冷える。


 その瞬間、スマホが震えた。


 通知。


 「@___が新しい投稿をしました」


 嫌な予感しかしない。

 でも、見ないという選択肢はなかった。


 指が勝手に、通知をタップする。


 画面に表示されたのは、さっきの投稿の続きだった。


 「転んだあと、誰も助けない」


 いいねは、二つに増えている。


 ひとつは、また私。

 もうひとつは――投稿主本人。


 自分で、自分の投稿にいいねをしている。


 その事実が、異様に気持ち悪かった。


 私は、無意識に階段の方を見た。

 目の前にある、図書館前の長い階段。


 「明日、階段で転ぶ」


 ただの文章のはずなのに、頭の中で何度も反芻される。

 まるで、予定表に書き込まれた未来みたいに。


 「……ばかばかしい」


 小さく呟いて、歩き出そうとした、その時。


 また、通知。


 「この投稿は、あなたの現実です」


 公式通知じゃない。

 システムメッセージでもない。


 投稿主からの、ダイレクトメッセージだった。


 息が止まる。


 私は、ゆっくりとスマホを下ろした。

 画面を見なくても、なぜか分かった。


 明日、私は階段で転ぶ。

 理由もなく、そう確信してしまった。


 それが、偶然なのか。

 それとも――。


 夜風が、やけに冷たかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ