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貧乏女領主の私は愛するメイドのため繁栄に臨みます  作者: 砂山 海


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第二十三話~百戦錬磨からの指南~

執務室にてゴルフィンによる防衛改善の話が繰り広げられる。

マリノ川の関所に見張り台を設置し、狼煙台をつけて異変を早く察知するよう。

また川沿いに馬返しをつけて侵入者に馬で入らせないようにと。

それは全て「害獣対策」として行うようにとアドバイスを受ける。

その後、ゴルフィンを歓迎する宴が開かれるが、その最中に一人の兵士が書簡を持ってきた……。

 執務室にて全員揃うと、ゴルフィン殿は私の隣に座った。本来そこに席は無いのだが、応接室から一番上等のやつを持ってきてもらったのだ。けれど大柄なゴルフィン殿が座ると少し小さく、本人も可笑しかったのか笑い声をあげていた。

「さて、本日はロンデン領主のゴルフィン=ロンデン殿に来ていただいている。一同、礼」

 そう号令をかけると、みな一斉に頭を下げた。そうして私がゴルフィン殿を見遣ると、嬉しそうに口角を上げたのが見えた、

「ご紹介に預かった、ゴルフィン=ロンデンだ。まぁ、わしにはそう硬くならなくても良い。気を楽にしてもらえると嬉しい。あぁそうそう、先日送ってもらった麦酒は本当に美味かったが、ここで飲むものはもっと美味かったとまずは礼を言っておきたい」

 その一言でみなの表情が緩まり、自然と拍手が起こった。ゴルフィン殿はこういうのが本当に上手い。だからこそ、彼の側近も兵もどこか親し気に話せるのだろう。

「ゴルフィン殿は我が領地を見て回ってくれたらしい。そしてそれに対する改善点などを指摘してくれるから、みな心に刻むように」

 その言葉にみなの目が変わる。中でもやはりグレッグは一言一句聞き漏らすまいという迫力があった。

「まぁそんな大仰なものではない。ただ、度々シェリア殿が襲撃されたという話を聞いているし、マドラック領から不穏な動きがあるとの噂も聞いているからな。こうした方が安心するだろうという提案だ」

 そう言いながらゴルフィン殿は口ひげを撫で、テーブルの上にある地図を指さした。

「まずはここ、マリノ川の所にある関所に高い見張り台が欲しいな。これがあれば異変をいち早く察知できるし、何より相手の牽制にもなるだろう。そしてこの屋敷までの間に少なくとも二つ、見張り台を兼ねた狼煙台が欲しい。異変があれば煙を上げるのだ。そうすれば遠くの異変もすぐに伝わる」

「なるほど、それは便利ですね。ですが雨などの時は?」

 グレッグが質問すると、ゴルフィン殿が嬉しそうにうなずいた。

「それはもちろん、馬だ。各所に馬を用意し、雨風の強い時は馬を走らせる。そして馬を乗り継ぎしたり、次の拠点の者に託したりして一騎で最後まで行かせないようにすればいいだけだ」

 実際にゴルフィン殿が地図上を指で示す。なるほど確かにこうすれば馬が疲れる前に次の馬を走らせる事ができ、より早く報告が届くだろう。

「この狼煙台は当面、マリノ川から屋敷までの間だけにしておく方がいい。あっちもこっちもと作ると、どこで異変が起きているのかわからなくなるからな」

「わかりました。ちなみにロンデン領は実際に外敵の侵入がある土地ですが、色んな所に作っているんでしょうか?」

 私がそう訊けば、待ってましたとばかりにゴルフィン殿が大きくうなずいた。

「おう、計ニ十ヶ所はあるな。もちろん、区別をつけるようにしてある。ここを襲撃されたら黒い煙、ここを襲撃されたら赤い煙が出るようにとな」

「それはくべる植物や鉱石などを使ってですかな?」

 サイルード先生の指摘にゴルフィン殿が笑う。

「そうだ、その通り。ただこれは難しいし、ルクレスト領ではそこまで必要じゃないだろう。代わりに見張り台を各所に設置する方が良い。そうすれば獣が出た時も対処できるからな」

「確かに領民への説明にはそちらの方が良いかもしれませんな」

 バーホンがそう言いながらうなずくと、私を含めたみなもそうした。

 実際、マドラック領とそこまで関係が良くない事は領民も薄々気付いているかもしれない。だがそれでも、それ目的で設置すれば不安をあおってしまう。またマドラック側の人間も出入りしているだろうから、表立って言ってしまえば角が立つ。

「害獣への言い訳を兼ねた侵略者を防ぐ策はまだある。マリノ川に関所を作ったのはなかなか良いアイデアだが、結局はそこだけだ。だから、壁を作る」

「壁、ですか。ですがロンデン領の中心部のような壁を作るのは技術的にも資金的にも難しいかと思います」

 ルミナが発言すれば、ゴルフィン殿が少ししてから目を丸くした。

「おぉ、誰かと思えばシェリア殿の御付きじゃないか。可愛らしい顔をしていた上、うちの料理長が褒めていたから憶えているぞ。そうか、単なる御付きではなくルクレストの主要メンバーでもあったか」

「私はその、数合わせと言うか」

「ルミナは私と共に学び、かつ庶民の視点を持った私の良き助言者です」

 ルミナの言葉を遮るように強く進言すれば、ゴルフィン殿が大きく笑いながらうなずいた。突き刺さるルミナの視線が痛い。きっとまた後で二人きりの時に怒られるかもしれないな……。

「そうか、良き御付きをもったのだな。話を戻すが、壁と言ったが別にそこまで堅牢で高い壁とは言わない。ただ川沿いには盛り土をし、できれば馬返しと呼ばれるような槍状の尖ったものをそこに配備した方が良い。そうすれば賊は馬で来れないからな。徒歩での侵入なぞ、たかが知れている。これだけで大幅に変わるはずだ」

「なるほど。ではさっそくそうしてみます」

 槍状のものは当面伐採時に出た廃材を使ってやってみる事にしよう。

「まぁ他にも色々あるが、とりあえずはこんな感じで進めていくといいんじゃないかな」

「ありがとうございます、ゴルフィン殿」

 私が頭を下げれば、みなもそれにならう。

「いい、いい、そんな頭を下げなくても。それより」

 ゴルフィン殿がちらと私を見る。その視線の意味を察した私はすぐに微笑み返した。

「もちろん、この後は酒席を設けましょう。麦酒だけでなく、葡萄酒もいかがですか?」

「おぉ、それはいい。いやぁ、楽しみだ」

 豪快に笑うゴルフィン殿にみなつられて笑う。それは彼の人柄はもちろん、今後の展望が見えたからこそなのだろう。だから私もつい大声で笑ってしまった。



 屋敷の一階部分の広間ではゴルフィン殿を歓迎する宴が開かれていた。来てくれたロンデン兵達も招き入れ、大所帯での宴会だ。ルミナはもちろんバーホン、そして宿屋の女将も料理の手伝いにきてもらい厨房は大忙し。

 それでも手際良く前菜の野菜料理やパン、スープ、肉料理などが並べられていく。もちろん麦酒や葡萄酒もつけて。それをゴルフィン殿はもとよりロンデン兵のみなも勢いよく食べていく。

「いやぁ、これは美味い。うちの料理も美味いとは思っていたが、これは兵もまたすぐに来たがるのがわかる」

「ありがとうございます、厨房に代わってお礼申し上げます。実は私の御付きのルミナがロンデン領でご馳走になった時に色々勉強したそうで、今日はその成果が十分に出ているかもしれません」

「あぁ、なるほど。初めて食べる料理なのに、どこか懐かしさを覚えるのはそれか。シェリア殿の御付きの……いや、ルミナ殿は素晴らしいな」

 満足気にゴルフィン殿が肉を頬張り麦酒を飲む姿に、まるで私が褒められているかのように嬉しくなる。

「おうお前ら、どうだルクレストの料理は?」

 ゴルフィン殿が自分達の兵に向かってそう訊ねるが、兵達は食べる手を止めず手にした肉をかかげる仕草を見せる。

「嫁も子供もいないので、帰りたくありません」

「嫁と子供もいますが、しばらく留まりたいです」

 笑い声が響き渡る。それはもうどちらのものでもなく、屋敷の中が一体となって。私も頬をほころばせ、葡萄酒を口に運ぶ。芳純な味わいの葡萄酒は領主就任直後のそれよりも美味しい。きっとこれからもっともっと美味しくなっていくだろう。


 すると突然一人の兵そっと、でも足早に入ってきた。


 真っ先にそれに気付いたのは私とグレッグ、そしてゴルフィン殿だった。すっと私が視線を向ければ、バーホンも彼に気付いたのか素早く近付く。そうして彼と二言三言話したかと思うと私の所へ近付いてきた。

「シェリア様、マドラック家からの書簡が届きました」

 バーホンが小声でそう囁く。私はこの場を壊したくないから笑顔でうなずき「後で」と囁き返すと私の肩をポンと岩のような手が叩いてきた。

「新しい肴かな。どれ、これは執務室で飲み直すしかないな。わしも邪魔じゃなければ誘って欲しいんだが」

 にまりと笑うゴルフィン殿に私は少し驚きはしたものの、笑みを返す。

「えぇ、もちろん。このためにロンデン領との交流を始めたようなものですから」

「はははっ、違いない」

 私はグラスを持って立ち上がる。すると大盛り上がりの場は少し静まった。

「みな楽しんでくれているみたいで何よりだ。領主として嬉しく思う。さて、これからの時間は上の者達で少し語らいたい。ロンデン兵のみなは引き続き、この場で楽しんでいって欲しい」

 わっと再び場が盛り上がった。そして私の言葉を汲んでくれたグレッグとサイルード先生は静かに階段へと向かう。私はバーホンにルミナも呼ぶように伝えてから、ゴルフィン殿と一緒に二階の執務室へと歩を進めた。


「宴の最中すまない、マドラック家から書簡が届いたものでな」

 当然異を唱える者はいない。私はバーホンから受け取った書簡を手にすると、傍にあったナイフで封を開ける。



『親愛なるシェリア=ルクレスト殿へ


 お体の調子はいかがでしょう? 長らく体調不良との事ですが、それは領主の任に就いているからだと推察いたします。重責の中であれば、治るものも治らないでしょう。


 さて、貴方がルクレストの領主に就任し幾年か経ちました。喪に服す時期も領民が動揺する時期も過ぎ去ったでしょう。そこで本格的に我が息子との結婚を考えてもらいたい。


 そろそろシェリア殿としても子を成し、親になる歳。それが自然の流れであり、王国繁栄の一助となるでしょう。それを我が方と共に歩んでいただけたら幸いだ。


 我々は貴方を心配しております。それは一刻も早く重責から解放され、心身共に健康になられるよう願うばかり。その責務がいかに重いかを理解しているからこそ、我が方に任せていただきたい。


 我々は待った、長らく待った。誠意ある回答を待っております。


                  ジャイカ=マドラック』

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