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貧乏女領主の私は愛するメイドのため繁栄に臨みます  作者: 砂山 海


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第二話~執務室の五人~

執務室に部下を集めたシェリアはこの手紙の内容についてどう思うのか訊いた。

ひとまず理由をつけて延期する事になったが、きっと三年が限界だろうというのがみなの考え。

そこでその間に領内を繁栄させるにはどうすればいいのか案を出す事になった。

 執務室は飾り気の無い部屋だ。八脚の椅子と中央に大きなテーブルがあり、そこには近隣の地図と王国全体の地図の二種類が置いてある。簡素な絨毯が敷かれている以外、他にほとんど何も無い。

 招集をかけてほどなく数名の部下が集った。兵士長のグレッグ、執事のバーホン、家庭教師だったサイルード先生、そしてルミナ。ルミナもまたサイルード先生から色々な事を学んでおり、内政の知識もある。またそれはみんなも知っているためメイドでありながらもここにいる事に誰も異論を挟まない。

 基本的にこの人員でルクレスト領内の方針を決めている。

「とまぁ、こういう内容の手紙がマドラック家から寄こされた。私としては到底飲めるものではないが、安易に断っては角が立つ。一番の懸念は唯一の交易ルートを閉ざされかねない事だ。そこでみなに知恵を出してもらいたい」

 私が先程寄こされた書簡を広げ説明をすると、全員の顔を見回した。

「先延ばしが賢明でしょうな。ただそれも五年、いや三年が限度でしょう」

 六十を過ぎ白髪頭でしわだらけのサイルード先生がそう言うと、みな一様にうなずいた。

「そうだな、その理由は何でもいいだろう。父が亡くなって間もないからそう言う気分にまだなれないとか、不安定な領内を落ち着かせたいとか。とにかく今一つになっても旨味が無い事を伝えれば、時期になるまで待つかもしれない」

「けれどその三年の間に領内を発展させようとするなら、どこをまず重点的に行うのか決めるべきでしょう。あれこれ手を広げるには財政状況が思わしくないのですから」

 グレッグの言う通りだ。領民がそう多くなく、資源も産業も乏しいから税収による収益は決して多くは無い。以前行ったマドラック家はこことは比べ物にならないほど豪勢だった。それは富を集中させているからではなく、しっかりとした収入があるためだ。

「サイルード先生はこの領内の問題をあげるとするならどう思われます?」

「……忌憚ない意見を言うのでしたら、まぁ全部でしょう。ただそれではあまりにも身も蓋もない。そうですな、大きく分けてまぁ四つでしょうな」

 サイルード先生はみんなの顔を見回してから。ゆっくりと口を開く。

「やるべき事は農業の発展のために新たな水路を作ったり、川が氾濫しないようにする治水。夜盗や野生動物などから守るための防衛。行商人を呼んだり産業を発展させ商売を繁盛させるための経済。そして領民の知的水準を上げて将来への投資となる教育。主にこの四つだと私は思うのです」

 確かにその通りだ。それらは一応できてはいるが、低い水準でしかない。これら全体を押し上げるため、まずはどこに投資をして効率良く収入を確保するか。それが問題だ。

「ではこの四つに絞ろう。各自忌憚の無い意見を聞かせて欲しい。わかってはいるだろうが、私の意見が全てではない。だが決定は絶対だ」

 各自腕組みをしたり、視線を上向かせたりして考えをまとめようとしている中で一番最初に手を上げたのはサイルード先生だった。

「景気と言うものは何かをして安易に上向きになる事はありません。地道な努力の先に実を結ぶものです。私としては教育を進めたく思います。子供のみならず、領民全体の教育水準が上がれば新たなひらめき、商売の上手さを得る事でしょう」

「サイルード先生、期限は三年だと仰ったじゃないですか。実を結ぶにはあまりに先の話」

 そう割って入ってきたのはグレッグだった。

「私としましてはやはり防衛を進めたく思います。他国からの侵略の心配がほとんど無いとはいえ、時折現れる夜盗や野生動物の被害は無視できません。その安全が無ければ行商人を呼ぼうが産業を発展させようとしようとしようが、きっと上手くいきません」

「お待ちください、グレッグ様。それはもっともなのですが、防衛は収益にはなりませぬ」

 執事のバーホンが小さく手を上げ、グレッグの方を見遣る。バーホンも長年ルクレスト家に仕えているので、色んな状況を知っている。

「私としましてはやはり産業の育成に力を入れる方がよろしいかと。ここは細々とながらも鉱山があり、地酒だってあります。そこの開発を進めれば行商人の往来も活発になるはずです」

 確かにその通りだ。けれどそれには懸念点がある。だから私が手を上げた。

「バーホンの言う事はよくわかる。ただ、その設備投資には財政状況が追いついていない。今、可能な限りそこに投資したとしても満足の行く設備は作れないだろう」

「ではシェリア様は何を一番に行いますか?」

「私は治水だな。今日は農地を見て回ってきたが、領内で最も栄えている産業は農業だろう。そこをもっと大きくするため、東側に用水路を引けば更に大きな農作物に恵まれるだろう。飢える心配が無ければ領民も活性化するだろうし、余れば売る事だってできる」

「けれどそれは長期的には良いが、短期的には収益改善としては難しいでしょう。今から用水路を引いたとして、来年か再来年での収益になるならばマドラック家を大人しくさせる事にはなりますまい」

 サイルード先生に言われ、確かにと納得してしまった自分がいた。納得すると言う事はそこに穴があったからに違いない。

 それから交互にあれやこれやと意見を交わすが、どうにも決定打が出ない。そこでふと、私はルミナの声が聞こえない事に気付いたので目を向けた。

「ルミナはどう思う?」

 水を向けられたルミナは驚いた様子だった。私が声をかけたから、みんな一斉にルミナを見る。それはこの閉塞した議論をどうにかして欲しいと言う希望のようなものもあったのかもしれない。

「私はそうですね、道路を作った方が良いかと思います」

「道路?」

 私がその意を問うように訊き返すと、ルミナは中央のテーブルに広げられている地図を指した。

「はい。マドラック領とルクレスト領を繋ぐ道路の整備です。地図上ではこのように一本道ですが、実際にはそんな簡単な道のりではありません」

 そう言いながらルミナはルクレスト領からうねるようなマドラック領への一本道をなぞる。

「実家の父も行商に行く際、大雨が降ったりすればぬかるみ、行くのが大変だと言ってました。おまけにこの辺りはほぼ獣道で細く、馬も通りにくい。なので交通の便が良くなれば交流も増え、ひいてはこの領地も活性化すると思うのですが」

「だけど、それはかなりの事業になる。おまけに道路は金を生まない。それよりは」

 グレッグが手を上げ遮ろうとしたが、私はルミナの言いたい事が見えてきたので高々と手を上げた。

「あぁ、なるほど。どの道マドラック家とは話し合い、友好関係を築かないとならない。その共同事業としてやればいいってわけだな」

 私が目を向ければ、ルミナは嬉しそうに笑った。

「そうです。そうすれば費用も日数も半分で済みます。マドラック家としても断りにくいと思うのですが」

「なるほど、それは確かに明暗かもしれませんな」

 バーホンがうなずけば、サイルード先生も深くうなずいた。

「まずは人を呼び込まないと話になりませんからな。そうなれば少しは財政も良くなるかもしれません。なるほど、道路ですか。盲点でした」

「すまぬルミナ殿、私が浅はかだった」

 拍手と賞賛を集めたルミナは恥ずかしそうに顔を赤らめ、うつむく。けれど私は誇らしかった。ルミナはこうした新鮮な切り口でもって見識を与えてくれる。本人は謙遜するけど、実際こうして助かっている部分は大きい。

「ルミナの言う通り、道路事業を進める事にしよう。人の流れは金の流れ、物流を整備すれば自ずと人が入ってくるに違いない」

 私がそう宣言すると、全員納得してうなずいてくれた。

 その後もどんな道路にしようか、どのくらいの規模でどのくらいの予算をかけ、また人数もどのくらい集めようかなど、議論の尽きる事は無かった。



 マドラック領へは私とグレッグ、そして数名の兵士で向かう事になった。私とグレッグが馬に乗り、兵士は徒歩。なのでゆっくりと周囲を視察するようにして向かっている。

「確かにこの街道は整備した方がいいかもしれない」

「そうですね。場所によっては道も荒れておりますし、木々の梢も邪魔ですね。周囲の見晴らしも少し良くなれば、驚異の察知にも役立つでしょう」

 ここはルクレスト領の境界付近で、幾らか踏み固められただけの道が続いているばかり。周辺の草木も伸び放題となっており、この先の藪などから急に何かに襲われたとしたら避けきれないかもしれない。

「そうね。それが防衛の役にも立つに違いない」

「仰る通りです」

 マドラック領へはおよそ三日かかる。その間は何も無い。ただ自然が広がっているばかりで、落ち着いて寝泊まりするような場所は無いから野宿するしかない。だから時折誰かが野宿をした跡が残っている。

「何か宿場のようなものがあればいいけれど、実際には難しいだろうね」

「そうですね。民営でやるにしても官営でやるにしても、安全を確保しないとなりません。このような所にポツンと一軒あったとしたら、夜盗などに襲われるだけでしょうな」

「けれどもしあったら、繁盛するかな」

「どうでしょうね。それこそもっと人の往来が活発になれば繁盛もするでしょうが」

 色んなアイデアは幾つも浮かぶ。けれど全ては財政難という現実的な壁の前に跳ね返されてしまう。

「それでも、雨風がしのげる小屋でもあれば行商人達は好印象を抱くだろうか」

「それはそうでしょうな。上手くいけばそこで交流が行われ、小さな市場が誕生するかもしれませんね」

「街道の見回りを定期的に行えばいけるだろうか」

「そのくらいは出来るとは思います」

 グレッグと話しているうちに色んなアイデアが具体的な形になってくる。打てば響く相手なので、私も話していて楽しい。寝泊まりできる平屋でもあれば少しは快適だろう。野宿よりはずっとマシだろうから。

「さぁ、そろそろ水場があります。今日はそこで一泊しましょうか」

 私はうなずくと先を見詰めた。もう少しすれば川がある。その頃には夕暮れだ。野宿は慣れているものの、あまり好ましくは無い。せめて領内だけでも幾つかの休憩所のようなものを作るべきなのかもしれない。

 風が吹き抜け、草原を波立たせる。その光景が昔から好きで、私はついうっとりと眺めた。



 屋敷を発って三日目の昼前、やっとマドラック領の中心部へとやってきた。さすがにルクレスト領とは違って色んな街道と繋がっているからか、活気がある。ここまで無事に来れた事もあり少し気が抜けてしまいそうになるが、まだ精悍なグレッグを見ていると気を取り直し自分を叱咤する。


 これからの会談が未来を左右するのだ、しっかりしないか。


 ゆっくりと周囲を見回しながら馬を進める。大通りに沿って色んな施設が立ち並び、空いてる場所では行商人が露店を開いているのが特に注目しなくても目に入る。街の人達も買物を楽しんでおり、服装も我が領民より華やかだ。


 この行商人達をうちにも引きこめれば……。


 何人か見覚えのある行商人もいるけど、ほとんどが知らない。つまり彼らはここで交易を終えているのだ。確かに今のままではルクレスト領に来る意味はそれほどない。魅力的な要素を増やさねば。

「見えてきましたね」

 中心部から少し北側に向かった所に大きな屋敷がある。それは小さな城のようでもあった。右手側には尖塔もあり、周囲をぐるっと石壁で覆っている。ここも外敵はほとんど来ない場所なのだが、見るからに威容があった。

「あぁ。みんな、ここまでありがとう。会談が終わったら何か食べよう」

 私が笑いかければ、兵士達はみなにこやかにうなずいた。

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