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貧乏女領主の私は愛するメイドのため繁栄に臨みます  作者: 砂山 海


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第十七話~ロンデン領への同行者~

ロンデン領主とは手紙のやりとりが続いた。その間に街道の整備も進めていく。

ロンデン側からの技術提供もあり、途中の谷に橋がかかった。

シェリアは頃合いだと思い、執務室にみなを集めてロンデン領へ行く事を告げる……。

 ロンデン領の領主ゴルフィン=ロンデンとのやり取りは使者を使った手紙で行っていた。


 それはまだ道路が開通したとはいえほぼ未整備なので私自身が行くに行けない事、またルクレスト領が辺鄙な土地柄であるため財政状況も思わしくなく、土木技術もそこまでないから橋を作るのに時間がかかる旨を説明した。


 しかし開通すれば互いに大きな恩恵がある旨もしっかりと説明している。


 ロンデン領との交易が可能になれば豊かな作物に特産の麦酒、そして鉱山から採れる鉄を送れると説明しておいた。これはきっと、向こうからすれば喉から手が出るほど欲しいに違いない。

 外敵との争いがあるロンデン領は常々それらの不足に悩まされているはずだ。農作や鉱業に力を入れようにも手が回らないだろう。また、そこを狙った襲撃だってあるはずだ。

 襲撃は南西の海側から主にあるらしい。丁度ロンデン領への新街道の反対側。つまりロンデン側からすれば交易が成されれば、後方から安全に物資が入ってくるという事だ。

 そのため、こちら側の要求としてはこちらに向けて街道整備を行って欲しいと伝えた。そしてそのために街道の地図も添えて。


 これは賭けだった。


 私は正直、ロンデン領主の性格をよく知らない。もしも彼がマドラック家以上の野心に溢れ、これを機に我が領へ侵入してくるようならばもうお手上げだ。

 風の噂ではロンデン領の兵士はみな精強で、数もかなりいるらしい。そんなのを相手になんかとてもじゃないができない。切り拓いた細い街道だってものともせずに進軍されたら為す術も無いだろう。


 だからこそ、何としてでも友好を結びたかった。そのためには対面での会談が是が非でも必要なのだ。


 手紙でのやり取りを続けていくうちに、野心の思惑なのかそれとも利害の一致なのかロンデン領の方からも街道整備をしてくれる約束を取り付ける事が出来た。おまけに技術者も派遣し、橋もかけてくれるらしい。

 我が方もその技術の見習いのため、領内の技術者をなるべく集めて共に作業する事を約束したのだった。



 夏の暑さが過ぎ去り、冬の訪れを感じさせる晩秋の頃、ロンデン街道に橋がかかりある程度の整備がなされたとの報告が入った。

 それはでも、まだ橋の上を馬は通れない。人が歩けるだけの小さいけどしっかりした橋をかけただけだが、行商人が行き交うには何の問題も無かった。

 もちろん今後更にしっかりとした橋を作り、街道を整備する。周囲の森ももう少し切り拓き、安全を確保する予定だ。途中の宿場の管理も協議しないとならないだろう。

 でもそんなのは先の話。それよりも、そろそろ行く頃合いだろう。



「何ですと、ロンデン領に行くと仰いましたか?」

 執務室にいつものメンバーに加えてマスカルを呼んで開口一番ロンデン領に行くと告げたら、バーホンが目を丸くしながら唾を飛ばす勢いでそう訊き返してきた。

「あぁ、そろそろ行かないとならない。ロンデン領主と直に会って、私の考えを伝えなければならないからな。三日以内には出発しようと思っている」

「ですがまだあの街道は馬を使えません。何かあった時に逃げられない恐れがあります」

「それにはマスカルを含めた精鋭四名を連れて行く。行けるか、マスカル?」

 私がマスカルの方を見ると、彼は白い歯を見せながら笑った。

「もちろんです、シェリア様。馬が無くとも、絶対に守ってみせます」

「頼もしい。時にマスカル」

 私は言葉を区切ってマスカルをもう一度見る。その視線に特別な意味があると察したマスカルが表情を引き締めた。

「ルミナがいても守れるか?」

 それを聞いたルミナが驚いて私を見る表情が面白かった。対してマスカルは気付いているのか気付いていないのか、またも白い歯を見せながら笑う。

「問題ありません。シェリア様もルミナ様も守ってみせますから!」

 その太い腕で力こぶを作ってアピールしたが、グレッグからの鋭い視線に気付いたマスカルが申し訳無さそうにしながら頭を下げる。

「シェリア様、確かにマスカルがいればある程度は安全かもしれません。精鋭もつけましょう。けれど、何故ルミナ殿も?」

 グレッグの質問は全体を代弁していた。だからこそ、私には想定済みのものでしかない。

「一つはロンデン領主に会う前に身だしなみや正装の着付けを任せたいからだ。途中野宿とまではいかないが、数日の旅程となるからな。私がやるよりもルミナにやってもらった方が間違い無いだろう」

 初めての領主に会う以上、旅のローブ姿というわけにはいくまい。こちらとしてもそれなりの準備はしておきたい。

「もう一つは知見を広げさせたいからな。ルミナの意見の鋭さはみなも知っている所だと思う。だからこそ、色んなものに触れさせたい。それがきっと、未来の役に立つだろうからな」

 みなが同意を示す中、ルミナだけが少し難しい顔をしていた。不安の現れと言ってもいいだろう。だから私が優しい視線を向けると、おずおずと口を開いてきた。

「あの、シェリア様。私の役割はわかったのですが、みなさんの足を引っ張るだけだと思うのですが……。私、そんなに旅慣れていませんし」

 するとマスカルが豪快に笑いだした。

「大丈夫ですよ。いざとなれば担いでもいいですし、背負ってもいいですから」

 驚くルミナにみなが大笑いする。もちろん私もだ。そんな流れにもう抗う術が無くなったルミナは渋々うなずいた。

「わかりました。では私も同行させていただきます」

 少し強い視線が刺さったような気がした。私は再度ルミナを見たが、もうそれは消えていた。そしてこの後、二人きりの時に怒られるんだろうなという予感だけが強く残った。



「シェリア、困るよ」

 案の定、夜に書斎で二人きりになった時に予感は的中してしまった。ルミナはドアを閉めるなり、強い眼差しを向けながら唇をとがらせている。

「そう怒らないでくれ、必要な人員だからこその選出なのだから」

「……本心は?」

 そう言いながら強い視線をぶつけてくるが、私も負けてはいられない。

「会議の時にも言ったけど、ロンデン領まで旅をするとなれば着崩れもする。宿で身なりを整える必要があるからだよ」

「本当に? 本当にそれだけ?」

 なおも続く強い圧。私は耐えきれず、視線を外してしまった。

「……ルミナと一緒に初めてのロンデン領に行きたかったんだ」

 恋人関係とは意地を張らず、素直な言葉で負けを認める事なのかもしれない。もちろん私はルミナとしか付き合った事が無いけれど、きっと真理だと思う。

「もぉー、やっぱりそうだったんだ」

「だってルミナと一緒に旅がしたかったんだ。二人で色んな所に行って、色んな景色見て、そんなの領内でもなかなかできないじゃないか」

 ルミナの盛大な溜息に私はもう恥ずかしげもなく本音をぶちまける。そこに領主の姿はきっと無いだろう、ただ若い女が駄々をこねているのに近かった。

「それはそうだけどさ」

「公務でも無ければ一緒に旅なんかできないから。それも、遠出じゃないと。もちろんこの書斎で二人笑い合う時間も好きだけど、たまにはそう言う事もしたかったんだよ……」

 みっともない事この上ないだろう。女領主シェリア=ルクレストは領民から善き領主だと評判のはずなのに、こうしてルミナと二人きりだとつい素の私が出てしまう。情けない。

 うつむく私の頭上で、何故かルミナが面白そうに笑ったのが聞こえた。何事かと顔を上げれば、そっと優しく頭を撫でられた。

「なんか久々に幼いシェリアを見れたかな。昔はこんな風にもうちょっとワガママだったのに、今はなんか言葉もしっかりして領主ってのが板についちゃったもんね」

「ルミナの前だからだよ」

 いじけた視線を向ければ、また頭を撫でてくれた。

「いいよ、そのままで。カルザック様がいた頃はもっと私の前で落ち込んだり拗ねたりしてたもんね。なんかこうするの、久々」

「中身なんかそう変わらないよ。みなの前ではちゃんとしないとって気を張って頑張っているだけで、いつだって不安でいっぱいだよ。ずっと色々怖いよ」

「そうだよね、シェリアは大変だもんね」

 そっとルミナが抱き締めてくれる。ふわりと鼻をくすぐる良い香り。これは私が以前あげた香油だろうか。そんな事でまた嬉しくなり、私も抱き締め返した。

「でも、一番怖いのはルミナに嫌われる事だよ」

「嫌いになんてなるわけないじゃない」

 少し頭をすり寄せるルミナの頭を私は左手で抱えるようにつつんだ。

「私もごめんね。やっぱり不安だったんだ」

「不安?」

「うん。ほら、前みたいに襲撃があったら足手まといにしかならないし、偉い人の前に行って失礼が無いようにしないととか。私の言動でシェリアの評価にも関わってくるからさ。おまけに今回は絶対失敗できない相手でしょ」

 小さく私はうなずいた。それは同意と感謝。ルミナがその辺もちゃんと考えてくれる事はもちろん知っているけど、それでもこうして口にされると嬉しい。

「でもね、私もシェリアと一緒に色んな所に行きたいって思ってるよ。ここで囁く秘密の愛もいいけど、お日様の下で明るく笑いながらってのも憧れるからさ」

「ルミナ……」

 私はそっと身体を離すと、じっとルミナの青い瞳を見る。その瞳にはいつだって吸い込まれそうな魅力があり、私だけを映していて欲しいという願望が湧き出る。

「シェリア、好きだよ」

 目を閉じ、ゆっくりとルミナの顔が近付いてきた。


 窓の外は木枯らしが吹いている。いかにも寒そうな音を立て、これから訪れるであろう冬将軍の到来を予感させるのには十分だった。

 ただ、いかなる季節であれ私達の熱は奪う事はできないだろう。

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