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貧乏女領主の私は愛するメイドのため繁栄に臨みます  作者: 砂山 海


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第十三話~襲撃者の正体を探る~

三度襲撃を受けたシェリアはグレッグとバーホンとで執務室で議論を交わす。

全てカリル=マドラックの仕業だと思っていたが、もしかした領内の反乱分子によるものじゃないかと思うようになった。

シェリアはただちに怪しい者を見かけたら報奨金を出すよう看板を設置しろとグレッグに指示する。

そしてそれはルミナの耳にも入っていた……。

 屋敷に戻ると私は近くにいたバーホンとグレッグに声をかけ、執務室に来るよう伝えた。サイルード先生を呼ぶ案件ではなかったし、ルミナも夕飯の支度に忙しそうだったから今回はこの三人で行う事に決めたのだった。


「南の森の近くで襲撃された。犯人は一人の男。私を殺すと言って襲い掛かってきたが、マスカルの一撃により絶命。その後の兵の報告から、特に身元がわかるものも無かったらしい。また、通行証も持っていなかったみたいだ」

 執務室での私の報告に二人が沈痛な面持ちで目を伏せた。

「多いですな」

「不徳の致すところです」

 グレッグが落ち込むのも無理はない。先代である父も賊の襲撃はあったが、一年で一度あるかないかという程度だった。それこそ何年も無い事だってあった。けれどこの一年で三度もあったのだから、かなり頻繁だろう。

「つきましては警備体制を強化し、見回りを強化したいと思います。行商人や移住者の抜き打ち検査も徹底して行います」

「グレッグ、きっとこれはそういう問題じゃない」

 不思議そうな顔をしたグレッグが私を見ると、私は重い溜息を吐き出して腕組みをする。

「私も最初は自分のものになかなかならないカリルが単独で襲撃を配下に命じたものだとも考えた。今はまだ、ジャイカ殿の指示でやるにしては稚拙すぎるからな」

「では一体?」

「もしかしたら領内に反体制派というか、反シェリア派の人物がいるのかもしれない。女の領主を快く思わない人物が手引きしているんじゃないかと、最近考えるようになってきたのだ」

「あり得る話ですな」

 バーホンが白いひげを撫で、重々しくうなずいた。

「領主に女はふさわしくない、そんな考えは根強くあるでしょう。いや、最初は誰しもそうだったかもしれません。ですがシェリア様はこの一年で成果を出された。領民の多くはその手腕に期待して掌を返したかもしれませんが、それを憎々しく思う輩だっているはずです」

「正にその通りだ、バーホン。もちろんあらゆる可能性を考慮しないとならない。だから単にマドラック家の息のかかった者達とばかりに思い込むのは危ないのかもしれない」

「ならばどうされます?」

 グレッグがそう訊いてくると、私はテーブルを人差し指でとんとんと叩く。

「証拠を固めよ。末端の兵士でもいいし、情報屋を使ってもいい。未だ不満を持っている領民をそれとなく探らせるのだ。そして実際に行動を起こしたとわかったら、ここへ連れてこい」

「シェリア様、それは危うい橋かと」

 バーホンが慌てて立ち上がったので、私とグレッグはそちらへと視線を向けた。

「不平や不満はどこの領民にもあるでしょう。ですが、不満が強いからと言うだけで罰してしまうと領民の心は窮屈になり、離れていくかもしれません」

 それは確かに正論だろう。だからこそ私は溜息をつき、また指で机を叩いた。

「……バーホン、私は行動を起こした者がわかったらと言ったのだ」

「その行動とはどこまでを指すのです?」

「襲撃に関与したかどうかだ」

「……それはきっと、出てこないでしょう」

 バーホンの落胆はわかる。襲撃したかどうかなんて例えここに連れてこられようとも、言わないだろうから。


 そんな事を言った時点で、死罪となる。


 だからきっと嘘を言って言い逃れする。そうなった時、誰がその嘘を見破れるのだろうか。どこまでを信じ、どこからを嘘だと示せるのか。そしてそれを行えば善良な領民達も明日は我が身と思うかもしれない。


 ただ、それでも一石は投じたかった。


「これはある種の警告だと思わせたい。それで収まればいいし、もし本当に襲撃に関与している者がいるとするなら追放したい。今回、領民の目の前で襲撃されたのだ。そんな治安の悪さを払拭し、安心できる領内をアピールしたい」

「ふむ……まぁ、そうですな。確かにシェリア様の身を守るのと同時に、そういうアピールは必要かもしれません」

 バーホンが席に着きうなずくのを見ると、私はグレッグに強い視線を向けた。

「グレッグ、看板を各所に立てるように兵に命じてくれ。私を襲撃した犯人に関わる人物、またはそれに類する人物を見つけた場合は報奨金を払うと」

「わかりました」

 グレッグが頭を下げると、それが解散の合図となった。



「シェリア、また襲撃されたって本当? なんですぐ教えてくれなかったの?」

 夕食を終えて書斎で次の治水事業に頭を悩ませていた所、ルミナが慌てたように入ってきた。そうしてドアを閉めると、開口一番心配そうに詰め寄ってきたので私は落ち着くよううながす。

「心配させたくなかったんだよ。それに、忙しそうにしてたからね」

「だとしても」

 ルミナが涙目になる。領主としての対応は間違っていなかったかもしれないけど、恋人としての対応は雑だったかもしれない。

「……ごめん、悪かった。でも、心配させて夕飯の支度に影響が出るのが嫌だったんだ。美味しいルミナの食事を食べて、少しでも忘れたかったから」

「そうじゃなくて」

 ルミナが歩を進め、私を抱き締める。温かく柔らかな感触に包まれ、張り詰めていた私の心がほだされていくのを感じた。

「怖かったでしょう。いつも辛い思いをするのはシェリアだもんね」

 私はそっとルミナを抱き締め返す。

「あぁ、怖かった。マスカルが間一髪で助けてくれなかったら、危なかったかもしれない」

 私はあの時の恐怖を思い出し、きゅっとルミナの衣服をつかんだ。

「どうしてこんなにがんばっているのに、こんなにも怖い思いしなきゃならないんだろうね。酷いよ、みんな」

「女だから、なのかな」

 自虐的に言ったその言葉が、やけに自分の胸をえぐった。

「女が領主をやっている、それだけで快く思わない者が一定数いるのだろう。女のくせに、女だから、そういう考えは根強い。そういう不満を強く抱いている者が過激な思想となり襲撃に走らせているのかもね」

「それって、マドラック家は関係してるの?」

 ゆっくりと私は首を横に振った。ルミナにぶつからないよう、気をつけながら。

「……わからない。正直、わからなくなってきた。ルミナと一緒にいた時に襲撃されたのはほぼ間違いなく、カリルの仕業によるものだろう。父のジャイカ殿が我が領地を欲しているのはカリルだって間違いなく知っている。カリルも私が手に入らない事に相当苛立ち、生意気だから殺そうと考えてもおかしくない」

 動機としては相当稚拙だけど、あの振る舞いを考えれば的外れだとも思えない。

「だからと言ってここにまで刺客をよこすとも考えにくい。去年の襲撃で兵を三人失った事件があったけど、あれもカリルの仕業だと私は思っていた。でももしかしたら、違うのかもしれない」

「違うというと?」

 ルミナが離れ、私の顔を見る。二人の間にあるまだ体温の余韻を感じながら、私はでも眉根をひそめた。

「領内の反乱分子によるものかもしれない。かなりうがった見方をすれば、彼らとマドラック家が繋がっている可能性も無くはない。私が死んだり引退すれば、ルクレスト領はじきにマドラック領に吸収されてもおかしくないからな」

「そんな事……」

「あぁ、王家が許さないだろう。領地の合併は領主の権限を強めるから、ありえない考えだ。だからマドラック家がそこまで関わっているのかと言えば、疑問だ。ただ、領内の反乱分子ならそこまで考えてはいないだろう」

 やるせなさを表情に強く出し、ルミナがうつむく。その気持ちは手に取るようにわかったけど、どう言えばいいのかがわからない。

「……まぁ、グレッグにそういう者を見つけたら報告しろという旨の看板を立てさせた。これで少し抑止力になればいいけど」

「そうだね……」

 その続きの言葉を飲み込んだのがわかった。だから私はルミナの目を見る。その青い瞳は少し揺れていた。

「ルミナ、何かあるのかい?」

「たくさんあるよ。でも、シェリアは領主。私がどんなにワガママを言った所で、その歩みを止める事は出来ない。どんなに心配しても、進むでしょう」

「そうだね」

 もう一度ルミナが私の胸元に顔をうずめた。


「だからお願い、約束して。死なずに成し遂げるって」


 背中に回されたルミナの腕が強く私を締め付ける。それは確かな我慢と決意。だから私もルミナの背と頭に手を回す。優しく撫で、力強く抱くように。


「ルミナがいてくれるなら、それは必ず守られるよ」


 夜鳴く鳥の声が遠くで響く。少し強い夜風が木々を揺らし、ざわめきを広げていく。窓の外は今も色んな音で溢れている。

 私達は小さな音の中、ただ寄り添っていた。



 襲撃された噂はかなり早く広まっていたらしい。だからこそ、看板の設置にはそれほどの動揺は見られなかった様子だったとの報告を受けた。

 兵達は見回りがてら、領民に尋ね回ってくれているみたいだった。時に家を訪問し、時に農地の片隅にある小屋を視察し、不審者が隠れていないかと。

 領民の大半は受け入れてくれたみたいだった。もちろん不満もあったらしいけど、それは当然の事。ただそれだけで反乱分子だと見るのはさすがに横暴だろうから、軽く流す。


 これで何かが好転すればいい。そうわかっているけど、視察に出られないのは苦痛だった。


「……バーホン、少し外の空気を吸いに行きたいのだが」

 執務室の自分の席に積まれた大量の書類、その隙間から私はバーホンにそう問いかけるが返ってくるのは厳しい視線ばかり。

「なりませぬ。昨日の今日じゃありませんか」

「警護にはマスカルをつけるから」

「マスカル殿も忙しい身、おわかりでしょう。それに遠方から矢で狙われたらどうするのです? さすがにマスカル殿もそこまでは対応できないかもしれません。そうなれば」

 意見をしてみるが、やはりバーホンの壁は高い。私は大仰に手を挙げて降参のポーズをしてみせる。

「わかった、もうわかった。今日は大人しく書類仕事をする」

 諦めて大きな溜息をつくと、バーホンが眉根を寄せた。

「今日は? 明日も明後日もしていただかねば困ります。事業の拡大によって決済の書類が増えているのですから。またシェリア様が領民の意見を聞くようにと言っているから、要望書や意見書もこんなにあるんですぞ」

 バーホンが書類の山を叩く。その一つ一つが座っている私の頭の高さほどまである。

「多すぎだろう……いや、取るに足らないものも多いな。なんだこの、飼い犬がいなくなったから探してくれとは」

 私は要望書の一番上をめくって目を通すと乾いた笑いが出た。

「それが市井の要望なのです。言葉は悪いのですが、シェリア様が望む意見なんぞこの中で一割にも満たないでしょう。大半が身勝手な要望なのです。ですがそうした意見を望んだのはシェリア様ご自身、是非ご査収くださいませ」

「……わかってる」

 そう言いながらも私はひたすら書類に判子を捺す。もうずっとやっているので右腕も痛くなってきたし、判子をつまむ指先だって重たい。

「ちなみにルミナは屋敷にはおりません。夕暮れまで買い出しを言いつけたので、悪しからず」

「な……バーホン、少しやり過ぎじゃないか?」

 私は目を丸くし、すぐに非難するようバーホンに視線を向けた。けれどバーホンは表情一つ変えない。

「いいえ、やり過ぎではありません。ルミナがいればシェリア様の作業効率が落ちますので。日暮れ以降ならば私も目をつぶりますが、日中はさすがに集中していただきたいものですから」

「バーホン、一体どこまで……」

 これはもう、わかってて言ってるのだろう。何もかもを。

「私はシェリア様の幸せが第一、二番が領内の事でございます。後は何も申し上げません。きちんとされるのでしたら、全ての事柄に微笑みをもって去るだけですので」

「悪趣味だぞ、バーホン」

「でしたら早く成すべき事をなさいますように」

 私は歯噛みしながら書類をひったくるよう手にすると、判子を叩くように捺した。

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