表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~  作者: たくみ
最終章 東京ラビリンス/最後のデリバリー?編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/72

4:いつでも貴方のそばに……ダンジョン・イーツ

 チェーンが、小気味よい音を立てて回る。

 ユウキの手によって極限までチューニングされたママチャリ『デリバリー・ランサー』は、一切のロスなくレンの踏力を推進力へと変えていた。


 シュパァァァッ!!


 レンが漕ぐママチャリの前輪が、東京タワーの剥き出しになった鉄骨に吸い付くようにグリップする。

 角度はほぼ90度。自転車で走る道ではない。仮に走れたとしても、重力に負けてしまうだろう。

 しかし、レンの足取りは驚くほど軽い。


「……相変わらず、レンのスキルは常識外れね」

 思わず口にするカグヤ。

 スキル【絶対配送デリバリー・ロード】。この黄金のラインの上では、重力すらも装甲の妨げにはならない。

 レンがペダルを踏めば、車体はふわりと加速し、垂直な鉄骨を滑るように駆け上がっていく。


『警告。警告。物理法則の逸脱を検知』

 併走するプライムのドローンが、困惑したように明滅しながらついてくる。


『理解不能。

 その自転車には推進装置がありません。重力制御装置もありません。

 なぜ登れるのですか? なぜ落ちないのですか?』


 レンは鼻歌交じりにペダルを回し、涼しい顔で答えた。

「理屈? そんなの知らないよ。ただ、俺の届けたいという気持ちに、答えてくれただけだ。」

 ママチャリは鉄骨の側面を走り、螺旋を描きながら天を目指して加速していく。


「……レン。風が強くなってきたわ」

 背中のカグヤが、レンの腰に回した腕に力を込める。

 高度が上がるにつれ、吹き荒れるビル風が暴風へと変わっていた。


 タワーに絡みついた植物が、風に煽られて鞭のように襲いかかってくる。


「問題ない! 風くらい俺の根性で……」

「いいえ、レンは前だけを見ていて。

 ……露払いは私の役目よ」

 カグヤが片手を離し、優雅に指を振るった。


 『氷壁・展開』


 自転車の周囲に、流線型の氷の結界が展開される。

 それはエアロパーツのように空気抵抗を消し去り、襲いかかる蔦を凍結させて砕き散らした。


 だが、その時だった。


 ギギギギギ……バキンッ!!

 頭上で、鉄骨が悲鳴を上げる音が響いた。

 魔界植物の浸食と、強すぎる魔素の質量に耐えきれず、上部の展望台エリアの一部が崩落したのだ。


 降ってくるのは、バスほどのサイズがある巨大なコンクリート塊と、千切れた鉄骨の雨。


「――ッ! レン、危ない!」

 カグヤが叫ぶ。だが、彼女の『氷壁』は風と蔦の対処で対処が遅れる。

 再展開が間に合わない。


 回避できるか? いや、壁面走行中の今、急な横移動は落下の危険がある。


(くそっ、間に合え……ッ!)


 レンが覚悟を決めてペダルを踏み込んだ、その瞬間。


 ヒュンヒュンヒュンッ!


 青い残像が、レンたちの頭上に割り込んだ。

 それは、今まで警告を発し続けていたプライムのドローンたちだった。


 ドゴォォォォォンッ!!


 数機のドローンが、自らの機体を盾にして瓦礫に突っ込んだ。

 爆発音と共にドローンは粉砕されたが、その衝撃でコンクリート塊の軌道がわずかに逸れる。

 巨大な鉄塊は、レンたちの数メートル横を通り過ぎ、風切り音と共に遥か下界へと落ちていった。


「……は?」

 レンが呆気に取られて空を見る。

 黒煙を上げて墜落していくドローンの残骸。

 そして、生き残った一機のドローンが、レンの横でふらふらと飛んでいた。


『……エラー。エラー。ロジック・エラーを検知』

 その機械音声は、どこか混乱しているように聞こえた。


『対象の生存確率は0.00%。本ミッションの遂行価値は皆無。

 なのに、なぜ……私は貴方を守った?

 なぜ、損耗率100%の防御行動を選択した?

 ……理解不能。私の回路は破損しました』

 AIは、計算上「無駄」なはずのレンたちを守るために、自らを犠牲にしたのだ。

 その行動の理由が自分でも分からず、ドローンは戸惑っていた。


 レンは一瞬驚いた顔をしたが、すぐにニカッと笑った。

「おかしくなんかないさ!」

 レンはペダルを漕ぎながら、ドローンに向けて親指を立てた。


「人間の心は、計算じゃないんだよ。考える前に、体が動いてしまうものなんだ。

 お前らにも、少し人間の『心』が移っちまったみたいだな!」

『……心? これが……バグではなく?』

 ドローンは沈黙した。


 そして、再び明滅すると、今度は先導するようにレンの前へ出た。

『……前方の障害物を排除します。

 行きましょう、ダンジョン・イーツ。

 ……この謎のミッションを、完遂させてください』


「ああ、任せておけ!」

 ママチャリが更に加速する。


 グングンと高度が上がるにつれ、周囲の空気が重く、ねっとりと肌にまとわりつくような感覚に変わっていく。

 魔素が濃すぎるのだ。


「……変わってるな」

 タワーの頂上を見上げる。


「普通は、ダンジョンに潜り、地下に行くほど魔素は濃くなる。

 でも、この東京迷宮は逆だ。空へ登れば登るほど、濃くなる。

 それに迷宮と言う割に、道は一本道、ただ上に上るだけ。」

 当初俺は、東京迷宮の最深部は、地下深くにあるのだと考えていたが、実際には逆だったのだ。


「ええ。もともとは国が観光名所にしようとして、このご立派名前を付けたらしいわね。でも危険すぎたらしいわ」


「依頼主はこの上で何をしているのかな?」

「私たちが美味しそうに食事をしているのを眺めていて、お腹空いちゃったのかもね」

 カグヤは、笑いながら冗談のように言ったが、案外間違っていないかもしれない、俺たちダンジョンイーツの依頼者の大半は腹ぺこなのだから。


「飯ってのはな……ただの栄養補給じゃないんだ。

 『美味しい』って思った瞬間に……明日も生きていこうって思える……希望なんだッ!!」

 レンが咆哮し、限界を超えたペダリングが、更なる加速を生む。


「行っけえええええええッ!!」


 レンは黄金のラインに導かれ、垂直にそびえ立つタワーの先端――避雷針のさらに上へと飛び出した。


 バシュッ!!


 世界が反転する感覚。

 雲を突き抜けた先は、無限に広がるかのように見える平面、本来あるはずのない空間だった。


 空のようにも見え、水底のような静寂。

 瓦礫も魔物もいない、ぽっかりと開けた空間。

 

 そこには、古びたちゃぶ台が一つ、宙に浮いているように置かれている。

 あたかも、昭和の茶の間が空に切り取られたような光景。

 そのちゃぶ台の前で、白いワンピースを着た小さな少女が、下界を見下ろすように膝を抱えて座っていた。


 彼女は、突然飛び出してきた自転車を見て、ぽかんと口を開けた。

 俺はチャリを地面に着地させ、少女の目の前に歩み寄る。

 息一つ切らさず、ジャケットの埃を払う。


「お待たせしました……!」

 レンは背中のデリバリーバッグから、まだ湯気の立つ弁当箱を取り出し、ちゃぶ台に置いた。


「ダンジョンイーツです!

 ご注文の品お持ちしました!俺たちがいつも食べている『特製コロッケ弁当お届けに上がりました!」

 少女の瞳が、宝石のようにキラキラと輝いた。

 彼女のお腹が、可愛らしく「ぐぅぅ~」と鳴る音が、静寂の深淵に響き渡った。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆

 読んでいただきありがとうございます。


 残り2話です。明日のお昼と夕方に一話ずつ投稿します。最後まで宜しくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ