6:世界リセット化計画
「共闘? ……あの最大手の『大和』が、うちみたいな零細と?」
「背に腹は代えられん」
大門が苦々しく吐き捨てる。
「あの『H&Lロジ』とかいうふざけた連中のせいだ。奴ら、昨日だけで数百件、我々の配送車両に対しての迷惑運転を行ってやがる。
さらには、返品された物と見られる商品の、不法投棄を行いおった。中身は『魔物誘引香』や『未処理の魔石』だった。
奇妙なのは、その数が異常なことだ。」
レンたちの顔色が変わる。大門は俺たちの顔を見回し話を続ける。
「その結果、地上の土壌汚染や、空気中の魔素が異常値を叩き出している。」
それは単なる不法投棄じゃない。バイオテロだ。
「奴らの拠点を叩き、根源を絶つ必要がある。だが、奴らはダミー会社を幾重にも噛ませていて尻尾が掴めん。
そこでだ。……貴殿が懇意にしている『氷姫』、カグヤ殿の情報網を借りたい」
「なるほど、そういうことか。……まあ、俺たちにとってもH&Lは目の上のたんこぶだ。協力するのはやぶさかではないが……」
その時。
オフィスの自動ドアが開き、カランカランとベルが鳴った。
「おはよぉ、レン……。会いたかったわぁ……」
入ってきたのはカグヤだった。
しかし、その様子は明らかに異様だった。
普段の凛とした気高さはなく、どこか足取りがふらついており、視線が定まっていない。
「カグヤ? 遅かったな。……顔色が悪いぞ?」
レンが声をかけると、カグヤはとろけるような笑顔でレンに抱きついた。
「ううん、元気よぉ。ただ……レンのことを考えてたら、頭が熱くて……。ねえレン、私の新しいネックレス、似合う?」
カグヤの首元には、怪しく光る宝石のついた首飾りが巻かれていた。
天井裏からアリスが音もなく降り立ち、真剣な顔で警告する。
「お館様! その首飾り……妙でござる! 拙者の『忍びの勘』が、とてつもなく禍々しいチャクラを感じているでござるよ!」
お前の勘を当てにしたくないと思ったが、あの首飾りからは、嫌な感じがする。
「ええ? やだアリスったら。これは『聖女の首飾り』よ? 穢れているはずないじゃない」
カグヤは笑い飛ばし、レンの腕に頬をすり寄せた。
その姿を見て、大門が咳払いをした。
「……お取り込み中のようだが、カグヤ殿。H&Lロジの件で協力を頼みたい。奴らの拠点を特定してほしいのだが」
大門の声を聞いた瞬間。
カグヤの動きがピタリと止まった。
彼女はゆっくりと首を回し、大門を見た。瞳から甘い熱が消え、底なしの暗闇が広がる。
「……誰? この男」
声は、絶対零度のような冷たさだった。
「大和運輸の大門だ。昨日、H&Lの件で……」
レンが説明しようとしたが、カグヤの首元の宝石が激しく脈打ち、紫色の光を放ち始めた。
――『排除せよ』
――『そいつは、レンを奪おうとしている』
「この男、さっきからレンに殺意を放っていたわ。……レンを連れ去ろうとする奴は、みんな私の敵よ」
「なっ……!?」
大門が後ずさる。
「消えなさい。……私のレンに近づく害虫」
ドゴォォォォン!!
放たれた氷の槍が、大門の横にあったスチールデスクを一撃で粉砕した。
事務所の空気が一気に凍りつき、窓ガラスに霜が走る。
「カグヤ! 何やってるんだ! 正気に戻れ!」
レンが叫ぶが、カグヤはうっとりとした表情でレンを見つめるだけだ。
「正気よ? ……だって、これが『愛』なんでしょう? レンを邪魔するものは排除する。レンの世界には私だけでいい」
その時、カグヤの首元にある『聖女アデレードの至純』から、不快なノイズ混じりの声が響いた。
『ケケケッ……! その通りだぜ、氷姫! 素晴らしい愛だ!』
スピーカーを通したような歪んだ声。
「だ、だれだ?!」
『 いやぁ、傑作だったぜダンジョンイーツ、そして大和運輸の大門!
まさか天下の大和さんが、弱小配送屋と手を組んでまで俺を嗅ぎ回るとはな。……邪魔なんだよ』
大門が凍りついた机を拳で叩き割る。
「貴様……! 姿を見せろ!何をやろうとしてるんだ!」
『くっくっ、俺はな、この腐った世界をリセットしたい。
ダンジョンと地上の境界なんて取っ払っちまえばいい。モンスターも人間もごちゃ混ぜの『カオス・ワールド』こそが、俺が望む理想郷だ!』
「……境界を取っ払う?ゴミを放置することが?」
『ああ、あれな。あれは、失敗した。おの程度の事じゃ小さなスタンピードしか起こせなかった。
だから、計画を変更したんだよ。……もっとデカい『穴』を、無理やりこじ開けることにな!』
その言葉に、大門の顔色が一気に青ざめた。
「おい、お前あれを使おうってのか?!」
「大門さん? 『あれ』ってなんだ?」
レンが問う。
「……『浮遊型ゲート』だ!
かつて海底ダンジョンから出現したゲート……あれは現在、政府が極秘に回収し、東京湾の沖合にある『第7封鎖プラント』で厳重に管理されているんただ!」
レンの背筋に悪寒が走る。
最も堅牢な要塞。だが、今のカグヤなら……。
『そのまさかだぜ、大門!!
カグヤ! 行け! 第7プラントへ飛び、邪魔な警備をすべて排除しろ!
ゲートの回収は、俺たちの『船』がやる!』
いかに厳重な警備をしていようとも、本気のカグヤを止めることは難しい。
カグヤは虚ろな瞳で、しかし幸福そうに微笑んだ。
「……ええ、わかったわ。邪魔者は消すわ。……大きな玄関が必要ね。レンと私が暮らす、新しい世界のために」
ドォォォォォン!!
カグヤの背中に氷の翼が形成され、彼女は窓を突き破って飛び去った。
衝撃波がオフィスの書類を舞い上げ、残されたレンたちは呆然と空を見上げた。
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