6:バナナボートの最後尾にのる怪異…の巻
伊豆半島の切り立った海岸線。俺たちは、ロストアーカイブから直接向かい、人目を避けた小さな漁港に展開していた。
目的地は、伊豆半島沖の相模トラフ。その水深3000メートルの海底に眠る、未知のゲートだ。
「さあ、お館様! 準備は万端でござる。忍法!魂魄具現っ!!」
アリスが印を結ぶと、港の海面に眩い光が走り、全長20メートルの豪華クルーザー『クイーン・カグヤ号』とユウキの水上バイクが姿を現した。
「よしレイ、俺たちも行くぞ。……エネルギー伝達、開始!」
俺とレイは船底の動力室に入り、ペダルに足をかけた。出航直後、デッキチェアの上で横たわるバルト、ブリッジにはアリスが陣取っているのを確認し、俺たちは必死にペダルを回し始めた。
――異変が起きたのは、外海に出て数分後のことだった。
「……なぁレイ。なんか、船の動きがおかしくないか?」
船体が「ガクン!」と大きく傾き、激しく蛇行を始めたのだ。不安に駆られた俺は、動力室の窓から必死に外の様子を伺った。
窓の外。ユウキの水上バイクに牽引される黄色いバナナボート。
カグヤは富士山を豪快に揺らし、凄く楽しそうだ。
ユウキは、カブとは違う爽快感や、加速に大興奮、水上バイク状態も問題ないようだ。
だが、バナナボートの最後尾、そこに居るはずのない恐ろしい光景を見た。
その最後尾には、さっきまでブリッジにいたはずのエセ忍者が、スカーフをはためかせながら、満面の笑みでVサインを掲げていた。
「クルーザーの運転手が、バナナボートに乗ってるぞ!!」
「ええっ!? アリスさん、いつの間に!?」
誰もいないブリッジで、舵がカタカタと虚しく踊る。このままでは潮流に流されるか、岩礁に激突して海の藻屑だ。だが、俺はこの絶望的な状況で、ある可能性に賭けた。
「……待てよ。俺のスキルは『絶対配送』だ。この船自体が、ゲートストーンという『荷物』を届けるための『配送手段』だとしたら……!」
俺がペダルを漕ぎながら、ハンドルを握るイメージで魔力を流し込む。
【絶対配送】!
その瞬間、無人のブリッジにある舵が、クルクルクルと力強く回転した。
ふらついていた巨躯がピタリと安定し、伊豆の複雑な潮流を真っ向から切り裂いて、最短航路へと復帰する。
「……いける! レイ、漕げ! 俺のスキルがこの船を『配送車両?』として認識した! 自動操縦モードだ!」
「さすが兄さん!」
こうして、クルーザーは無人なのに完璧なライン取りで爆走を開始した。
その頃、甲板の上では、猛烈な蛇行の後に急激な適正ルートへの修正が行われたせいで、バルトの三半規管が限界を迎えていた。
「……ぉえぇぇっ!! ア、アリス……! あいつ……ころ……!」
バルトは柵にしがみつき、海に向かって虹色の放物線を描く。
「あ! 見てください、バルト殿がまた熱烈な応援を! !
ん?船酔いでござるな、修行が足りませんぞ!!」
ボートのアリスは、楽しそうに胸を揺らしていた。
◆◆◆
「……着いた!!」
伊豆半島沖、相模トラフ直上。俺の【絶対配送】がナビゲートした通り、船は完璧なポイントで停止した。
フラフラになりながら這い出した俺たちの前で、アリスがバナナボートから忍び寄ってくる。
「お館様! さすがの操船テクニックでござる! まるで船が生きているようだったでござるよ!」
「……お前、後で張り付け獄門の刑な」
俺の言葉を笑顔でスルーし、アリスが『しんかい12000・二号機』を実体化させる。
蒼い光とともに、鮮やかなオレンジと白の潜水艇が現れた。
吐ききって無の境地に至ったバルトを回収し、全員がハッチの中へと滑り込む。
「潜航開始! ニンニン♪」
太陽の光が届く海面が遠ざかり、深度計が500……1000……2000を刻んでいく。サーチライトが照らし出すのは、マリンスノーが舞う不気味な闇だけだ。
「……来るわよ。磁気嵐の境界線よ」
カグヤの声に、全員が息を呑む。
船体がミシリと音を立てる。磁気嵐の影響でノイズが走るモニターの先に、それは突如として現れた。
サーチライトの光が、海底の泥を払う。
そこに鎮座していたのは、現代建築の常識を遥かに超えた、巨大な石造りの門だった。
「……あれが、ダンジョンゲート」
暗黒の底で、未知の扉が俺たちを待ち構えていた。
ちなみに今回の任務は配信されていて、色々な意味で盛り上がっていた。
『スキル「絶対配送」の汎用性が高すぎるだろ。もはや概念系スキルじゃねーか。』
『女性陣の胸…あれは眼福でした(ユウキは除く)』
『おまっふざけるな!あの控えめな胸にグッと来るだろが!!』
『アリス…あいつイラッとくるわー』
『バルト、悟りを開いた目をしてやがる……』
『ダンジョンゲートの開放の映像って、もしかして世界初じゃないか?』
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