表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョン・イーツ! ~戦闘力ゼロの俺、スキル【絶対配送】でS級冒険者に「揚げたてコロッケ」を届けたら、世界中の英雄から崇拝されはじめた件~  作者: たくみ
第三章 闇デリバリー 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/72

7:背負うべき重み、漕ぎ出す未来

 ゲート前のアスファルトに、俺たちは大の字になって転がっていた。

 全身の筋肉が悲鳴を上げ、肺が焼け付くように熱い。


 頭上には、皮肉なほどまぶしい太陽を浴びながら、警察に取り囲まれていた。


「――確保! 対象を確保せよ!!」


 サイレンの音と共に、重装備の警官隊が雪崩れ込んでくる。


 俺は痛む体を無理やり起こし、まだ放心状態のレイを背にかばうようにして立ち上がった。


「待て! 乱暴にするな! こいつは被害者だ! 無理やり操られていたんだ!」


 だが、殺気立った現場に俺の声は届かない。警官の一人がレイの腕を掴み、地面に組み伏せようとする。

 俺が止めに入ろうとしたその時、レイ自身が静かに首を振った。


「……いいんだ、兄さん」


 その顔には、長年の憑き物が落ちたような安堵と、深い疲労が滲んでいた。彼は抵抗することなく、駆け寄ってきた警官に両手を差し出した。


「僕がやったことには変わりない。……償いたいんだ」

「レイ……」


 弟の手首に、冷たい手錠がかけられる。俺とユウキも重要参考人として連行された。


◆◆◆


 取調室での時間は、永遠にも感じられた。


 俺がハリー社の不正を訴えても、警察官たちは懐疑的な目を向けるばかり。むしろ、ダンジョン内での制限速度違反と、施設の破壊行為について厳しく追求された。


 だが、その空気は一変する。


 取調室のドアが乱暴に開かれ、黒いスーツを着た集団が雪崩れ込んできたのだ。


「そこまでよ。私の大切な人たちに、随分と失礼な口を聞いてくれるのね」

 カグヤだった。


 彼女の後ろには、見るからに敏腕そうな弁護士たちが十人以上控えている。


「あ、あなたは九条カグヤお嬢様!? な、なぜここに……」


「この者たちの身柄は、私が預かります。ハリー社の件に関する証拠書類と、正当防衛を証明するデータは、すでに検察庁へ直送済みよ。……文句があるなら、九条グループ法務部が相手になるわ」


 警察署長が飛んでくる騒ぎの中、俺たちは数時間であっけなく解放された。


 これが、力を持つ者の戦い方か。俺は改めてカグヤの力を思い知った。


◆◆◆


 数日後。ルナ・コート・レジデンスのリビング。


 大型モニターに映し出されたニュース映像を見て、俺は握りしめたコーヒーカップを粉々に砕きそうになっていた。


『――今回の違法配送事件に関しまして、当社は一切の関与を否定いたします』


 画面の中で深々と頭を下げているのは、ハリー・エクスプレス社の広報担当役員だ。

 その横には、神妙な面持ちを作ったハリー社長の姿もあった。


『調査の結果、当社の子会社である「ハリー・ニューロ・システムズ」の一部役員が、功績を焦るあまり独断で開発・運用を行っていたことが判明しました。親会社である我々も、彼らの暴走に気づけなかった……痛恨の極みです』


 フラッシュの嵐の中、ハリー社長がハンカチで嘘くさい涙を拭う。


「……ふざけんな。トカゲの尻尾切りかよ」

 俺が命がけで持ち帰ったチップのデータも、カグヤが提出した決定的な証拠も、すべて子会社の暴走として処理された。


 国会でも野党による追求は行われたが、ハリー社は政界にも太いパイプを持っている。

 

 『捜査への全面協力』

 『社内コンプライアンス委員会の設置』

 『被害者救済基金の設立』


 美辞麗句を並べ立て、奴らはのらりくらりと逃げおおせたのだ。

 ネット上の反応も割れていた。


『ハリー社ひどいな』という声もある一方で、『社長も被害者だろ』『迅速な対応さすが』『株価下がった今が買い時』など、大企業のブランド力に踊らされる声も少なくない。


「悔しいですが……今の法制度では、これ以上本体に切り込むのは困難です」

 カグヤがソファで静かに紅茶を啜る。その表情は冷徹そのものだが、カップを持つ手は怒りで震えていた。


「ハリー社は、今回の件で『膿を出したクリーンな企業』としてアピールし、逆に株価を上げています。……私の、完敗ね」


「いや、負けじゃねえ」


 俺はリモコンを掴み、不愉快な会見映像を消した。


「あいつらが作りたかった『最強の兵隊』は、俺たちがぶち壊した。レイは戻ってきたんだ。それだけで、俺たちの勝ちは揺るがない」


◆◆◆


 一ヶ月後。


 関東医療観察センター。高い塀に囲まれたそのゲート前に、俺は立っていた。


 重厚な鉄扉が開き、少し痩せたレイが出てくる。

 手には小さなボストンバッグひとつ。

 レイの処分は決定していた。


 「心神喪失者等医療観察法」に基づく処遇。


 思考制御チップによる洗脳状態――法的には心神喪失状態での犯行と認められ、不起訴処分となった。


 ただし、チップ除去後の脳神経への後遺症治療と、精神的なリハビリのため、専門施設への入院。そして退院後、3年間の保護観察処分が言い渡された。


 運び屋としてのライセンスは、当然ながら無期限停止。

 社会的制裁としては、決して軽くはない。だが、刑務所行きになることだけは回避できた。それは、カグヤの弁護団の尽力と、何よりレイ自身が捜査に包み隠さず協力した結果だった。


「……兄さん」

 レイが俺の前に立ち、足元に視線を落とす。


「ごめん。僕のせいで、兄さんの仕事にも迷惑を……。それに、またゼロからのスタートになっちゃった」

 レイの声は震えていた。自分の犯した罪の重さと、未来への不安に押しつぶされそうになっている。


 俺は無言で歩み寄り、レイの頭を、昔と同じようにくしゃくしゃと乱暴に撫でた。


「馬鹿野郎」

「……え?」


「それのどこが迷惑なんだ?

 俺は、これからお前と苦労を、共有できる事が楽しみで仕方ないよ。

 

 おかえり、レイ。一緒に家に帰ろう。」


 レイはくしゃりと顔を歪め、瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちる。


「……っ、う、うん。……ただいま、兄さん……!」


 俺たちはゲートの前で、強く抱き合った。


「おーい! レイくーーん!! せんぱーーい!!」

 感傷的な空気をぶち壊すように、けたたましいエンジン音が近づいてくる。


 緑色のスーパーカブに跨ったユウキが、満面の笑みで大きく手を振っていた。


「退院おめでとうございます! さあさあ、カグヤ様が快気祝いパーティの準備して待ってますよ! 今日は最高級A5ランクの焼肉です! あたしが全部食べますけどね!」


「……あの人、本当に元気だね」

 レイが涙を拭い、呆れたように、でも嬉しそうに笑った。

「ああ。これからは、あいつらのペースに巻き込まれる日々だぞ。リハビリより疲れるかもしれないから覚悟しとけ」


 俺はデリバリーランサーの荷台をポンと叩いた。

「乗れよ.」

 レイが少し不安そうに俺の自転車と、自分の背中を見比べる。


「……うん。あ、でも兄さん」

「ん?」

「今日は、連結しないよね?」


 あの悪夢のような「ムカデ走行」を思い出したのか、レイが真顔で聞いてくる。


 俺は吹き出した。


「しねえよ! あれは緊急用の裏技だ! 今日は安全運転で帰るぞ」

 俺たちは笑い合い、晴れ渡った空の下、ゆっくりとペダルを踏み出した。


 ハリー社との因縁はまだ終わっていない。奪われた日常を完全に取り戻すには、まだ時間がかかるだろう。

 だが、今はただ、後ろに弟の重みを感じられる。

 それだけの事が、今の俺にはとてもうれしかった。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 読んでいただきありがとうございます。


 毎日7時30分頃に更新予定です。ブックマークや、評価、応援して貰えると、モチベアップに繋がります。

 あまり多く応援されると、ストック貯まってもいないのに、ついつい数話投稿してしまいますので、よろしくお願いします。チラチラ


よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
こんにちは。 大勝利と喜べる結果ではなかったのは残念では有りますが…レイくんを取り戻せただけでも判定勝利扱いですね。 いつかハリー社は完全にノックアウトしてやりたいですな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ