14:仕事納まりません!
12月28日、今日は大半の企業が仕事納めとなる。だがその裏で、年末年始関係なしに働く人たちも居る。まぁ、その中に俺も含まれている訳なんだが……。
ビジネス街は嵐が去った後のような虚脱感に包まれ、駅のホームでは電車を待つ人々が、スマホを眺めながら列を作っている。
だが、ダンジョンギルドの窓口だけは、駆け込みの依頼と、それを捌ききれない職員たちの悲鳴で溢れかえっていた。年末年始位、冒険者も休めと思うのだが、基本的に冒険者は変わり者が多い。ダンジョンの中でカウントダウン配信をする連中もいる。
昨今の若者達のテレビ離れの影響で、ダンジョン配信の人気は右肩上がりなのだ。
「……はい、そこ。そのパレットはあっちのEゲート。あと、この伝票の魔力封印、期限が切れてるわよ。再発行の申請は私が通しておいたから」
カウンターの奥で、てきぱきと現場に指示を飛ばしているのは、カグヤだった。
一週間前から「休暇」を宣言しているはずだが、あまりの惨状に見かねたのか、結局こうしてボランティア同然でギルドの機能維持を助けている。
「カグヤもお人好しだな、休暇中にボランティアとはな」
「勘違いしないで、レン。私はただ、このコーヒーを飲み終わるまでの暇つぶしをしているだけ。……ほら、あなたの分。まだ熱いわよ」
彼女は預かっていた俺の缶コーヒーを、グイと俺の頬に押し当ててきた。
「あつっ……サンキュ」
「ふふ。」
不意打ちを食らった俺と、それを見て満足げに微笑むカグヤ。
その瞬間、殺気立っていたはずのギルド内に、妙な静寂が走った。
「……おい、見たか。あのカグヤ様が男にコーヒー渡して……しかも頬に押し当てて笑ったぞ」
「てか、あの男、誰だよ……」
「ほらダンジョン・イーツのレンだよ。……マジかよ、あの二人、やっぱそういう仲なのか?」
「最強のS級と最速の運び屋……。職場でイチャつくなよ、独身にはこの寒波よりこたえるわ」
職員たちのヒソヒソ声が刺さるが、当のカグヤは柳に風といった様子で、優雅に自分のコーヒーを啜っている。
「悪いな、カグヤ。休暇中なのに」
「気にしないで。家でテレビを見ていても、どうせ特番ばかりだもの。それより、この依頼……本気なの?」
隣で温かい缶コーヒーを俺の頬に押し当てながら、カグヤが画面を覗き込んできた。彼女は一週間前から「休暇」を宣言し、ギルドの喧騒を他人事のように眺めている。
「秩父ダンジョン第21階層『氷晶の迷宮』。
孤立した調査隊への緊急物資搬送だ。救援の車両が雪で動けない以上、俺が行くしかない」
「物理的なルートはあっても、積載量が問題よ。予備バッテリーに防寒物資、合わせて200キロは超えるわよね?普通ならギルドの雪上車を使うレベルよ?
いくらあなたでも、ママチャリじゃ第10階層からの深雪地帯でタイヤが埋まるわ」
すでにギルドから、物資輸送に小型雪上車が向かったのだが、残念ながら21階層にある氷の山を登れず撤収してきたのだ。
「……短時間なら空中を走って回避できるが、あの距離をあの重量で『跳び』続けるのは、現実的じゃないか…」
俺が現地までのルート選択に、頭を悩ませていた時だった。
「――あの、それ! 私に手伝わせてもらえませんか!?」
元気のいい声と共に、オレンジ色のジャンパーを着た少女が飛び出してきた。手にはギルド発行の、クシャクシャになった紹介状。
「私、ユウキと言います! この前のハリー社との一件、配信で見て……レンさんの走りと、仕事に対すら姿勢に、すごく感動して! 自分もレンさんみたいになりたいと思って……」
「それは有り難い話だが……お前には深雪を走る手段があるっていうのか?」
俺がそう言うと、ユウキは不敵に笑って外の駐輪場を指差した。
最新鋭の魔導バイクが雪に足を取られて立ち往生する中、一台の緑色の『スーパーカブ』が、鎮座していた。
「おじいちゃんの代から続く、世界最強のビジネスバイク……そして、私のスキルアイアンジョッキーがあれば、どんな悪路でも走れる、最強のバイクに変わるんです!」
ユウキがカブのハンドルを握り、彼女のスキルである鉄馬使い《アイアン・ジョッキー》の派生スキル不屈の轍を発動させる。
すると、カブの車体から機械音が響き、後輪を包み込むようにクローラー(キャタピラ)が展開された。
「スノーラモードです。これならどんな深雪だろうと、ガンガン前に進みます。そして、私の通った後には、クローラーが生み出す魔法の道が生まれます。
そこを通れは、レンさんのデリバリー・ランサーでも、雪にはまることは無いと思います。」
デリバリー・ランサーとは、俺のママチャリの事だ。ママチャリとか、チャリ呼びが、定着しすぎて、その呼び名を俺も忘れていた……ゴメンよ、デリバリー・ランサー。
ちなみにスーパーカブとは、圧倒的な燃費と、丈夫さで世界中で愛されているビジネスバイクだ。
かつてはオイルの代わりに天ぷら油を入れても走り、ビルの屋上から落としても壊れないと言われた、伝説のビジネスバイク。
その信頼性にユウキのスキルが加わり、現代の魔導車両すら越えられないを突破する準備が整った。
「……面白いわね。レン、彼女とその骨董品みたいなバイクを信じてみなさいよ。」
カグヤはスマホの画面をタップし、二人分のルートを共有した。ユウキは伝説のS級冒険者が、普通の女の子のように、レンの側にいて、仲良くしている姿に驚いていたが、憧れのレンに認められたい一心で、気合いを入れて、バイクに跨がった。
「わかった、ユウキ。頼む。……カグヤ、ユウキのバイクに一緒に乗ってついて来てくれ。」
さっきまで、笑顔だったカグヤが、目を細め、獲物をしとめる時の氷の微笑を浮かべる。
「いやよ、私は……ここに乗るわ。」
彼女は、俺の後部座席に座り、腰に手を回してきた。
ちなみに数日前、俺のチャリの荷台は、お尻が痛くなるから、シートを付けてと言われていた。
「なによ……文句あるの?」
「いえ……よろしくお願いします。」
カグヤの顔が、真っ赤になっていることは、触れないでおこう。
ユウキまで顔を手で覆って、キャーキャー言ってやがる。
ルート案内は、俺の絶対配送で、なんとかなるが、あのダンジョンには、凶暴な熊が居るらしい、俺一人なら問題ないが、ユウキは身を護る手段がない。カグヤが護衛をしてくれれば安心だ。
静かなママチャリと、小気味よいカブの排気音。
二台の個性の強い乗り物が、吹雪く秩父ダンジョンへとむかった。
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