11:ダンジョン・イーツでは、再配達はお断りしています。
ダンジョンにおいて、軽視されがちな職業だが、とても重要な存在、それはポーター《荷物運び》だ。
戦う力を持たない彼らは、冒険者の後ろを歩くパシリに見えるかもしれない。だが、食糧、水、予備の武器、そして命を繋ぐポーション――それら全てを背負う彼らがいなければ、いかに最強の剣士と言えど、数日で飢えと渇きに屈し、遭難者へと成り下がる。
ポーターは、冒険者の『生命維持装置』そのものなのだ。
その日、レンは第40階層の指定ポイントで、依頼人である中堅パーティー『青い盾』を待っていた。だが、約束の時間を過ぎても彼らは現れない。
端末取り出し、連絡しようとしたタイミングで、あっちから連絡がきた。
リーダーの必死な声がノイズ混じりに響いた。
『レンさん……っ! すみません、指定場所に行けなくなりました! 待機してたら、上級パーティーの「ゴールデン・ルーク」が、自分たちが引き連れてきた魔物の群れをわざとこっちに押し付けてきたんです!
なんとか討伐はしたのですが、負傷者が出てしまい、身動きがとれなくて……
追加料金は払うので、ここまで再配達お願いできますか?あと緊急搬送サービスもお願いしたくて……』
レンの目が鋭くなる。魔物の擦り付けは、ダンジョン内では最も忌むべき禁忌の一つだ。
「事情は分かりました。規約第15条、第三者による悪質な妨害を適用。再配達料は無料です。
今持って行きますので、ゆっくり休んでいてください。」
「え?!そんな、レンさんに非はないのに、無料で再配達なんて……悪いですよ……」
「ご安心ください。悪いのはゴールデンルークです。青い盾の皆さんは、他の冒険者に被害が及ばないように、擦り付けられた魔物を、討伐してくれたじゃないですか。
大変立派な行為ですよ。」
「あ、ありがとうございます!」
レンはデリバリーランサーの後部に意識を集中させた。
「【デリバリー・キャリア】、連結!」
虚空から光の粒子と共に現れた銀色のリヤカー。
岩陰でボロボロになっていた彼らを即座に見つけだし、無事に収容した。
「本当に……すみません。残っていた物資も、あいつらに踏み荒らされて……」
「気になさらず。……彼らの行為は、ギルド共有の『信頼スコア』にレッドマークとして刻んでおきました。安心してください。
罪をいつか精算する時がやってきます。」
◆◆◆
思いの外早くその時はやってきた。
レンの端末に、これ見よがしに高額なチップが積まれた依頼が入った。
依頼人は――『ゴールデン・ルーク』のリーダー、ザック。
【第55階層 最高級レストラン『アルテミス』のフルコース、遅刻は許さん】
「……話通りの奴らか、確かめてやる!」
レンは一秒の狂いもなく、指定された第55階層のキャンプに到着した。だが、そこはもぬけの殻だった。
通信を繋ぐと、ザックの興奮した声がまくしたてる。
『あー、悪い! 待ってたらさ、素材が数百万するレアモンスターが目の前通ったんだよ! 追ってたら別の階層まで来ちゃってさ。戻るの怠いから、今いる場所まで持ってこいよ。チップ弾むからさ!』
やっぱりクソ共だったのか。
「ザック様。現在地は指定場所から二階層離れています。規約に基づき、あなたの『不在』を確定。配送を直前のキャンセル扱いとさせて貰います。キャンセルは100%です。」
『はあ!? 待てよ、再配達すりゃいいだろ! 運び屋の分際でガタガタ抜かすな。魔物を追う方が優先に決まってんだろ!』
「……お断りします。あなたの信頼スコアは、午前中の他パーティーへの妨害行為、および今回の身勝手な不在により、ブラックリストに登録されました。
今後の利用は、出来ないことをご留意ください。」
レンは淡々と「キャンセル料100%」の手続きを行い、ザックをブロックした。
◆◆◆
ザックたちがようやくレアモンスターを仕留め、意気揚々とギルドにポーター《荷物運び》の派遣を要請しても、返ってくるのは冷たい拒絶だけだった。
「ポーターが全員キャンセル!? 別のギルドも『ブラックリスト登録者はお断り』だって!? ふざけんな、俺たちは上級パーティー様だぞ!」
しかし、ポーター達も命懸けだ。レアモンスター欲しさに約束を破るような冒険者に、命を預ける馬鹿はいない。
結局、彼らは数百万のレア素材と予備の装備を、すべて自分たちで背負う羽目になった。
重すぎる荷物は彼らの機動力を奪い、戦えばボロボロ、歩けば鈍重。苦労して手に入れた素材も、敵の攻撃で徐々に失われていく。
効率は最悪となり、結局、予備の武器、高価なポーション、高価な素材の大半を「重すぎて」捨てていくという、悲惨な結末を迎えた。
◆◆◆
数時間後、やっとのことで第1階層のゲート前に到着。
自分たちで巨大な荷物を背負い、泥まみれで這い出してきたザックたちの目に、信じられない光景が飛び込んできた。
広場の一角で、レンが『青い盾』のメンバーと、豪華なテーブルを囲んで宴を開いていたのだ。
「うわあ! 『アルテミス』のフルコース! こんなの初めて食べる!」
「これ、さっきの注文のキャンセル分です。食べ物を粗末にするのは嫌いなんで、皆さんで食べてください。お代は既に『上級冒険者様』から頂いていますから」
それを見たザックが、顔を真っ赤にして怒鳴り込んだ。
「お前……! それは俺が払った料理だぞ! 返せ、今すぐだ!」
レンは冷たい視線で、彼等をみていた。
レンが何か言葉を発する前に、周囲の冒険者たちから罵声が飛んだ。
「おいおい、どの面下げて帰ってきたんだよ、ゴールデン・ルークさんよぉ!」
「約束を破ってレアモン追いかけてたんだってな? お前らみたいなのが居るから、冒険者の質がなんだのと言われんだろうがっ!」
「自分たちで担いできたその荷物、ゴミばっかりじゃねえか。ケチってポーター雇わなかったのかな??
あ、ポーターから見捨てられたんだーー!」
配信画面も「ざまぁ」の弾幕で埋め尽くされる。
『うわ、顔真っ赤www』
『ポーターなしで大半の物資を捨てたってマジ?』
『アルテミスの料理、美味しそう(笑)』
『レンの「ゴミを見るような目」最高です』
「これは既に、キャンセル扱いの商品となり、私の所有物となった荷物です。あなた達に差し上げる義務はありません。
……それより、随分と重そうな荷物ですね。ポーターがいれば、もっと楽だったんでしょうけど」
周囲の冒険者たちからも失笑が漏れる。
「おいおい、上級パーティー様が自分で荷物担いでるのか? 惨めだなぁ」
一斉に、他の冒険者からの笑い声が辺りを覆う。
ザックは、自分たちが捨てた「信頼」という荷物が、何よりも重いことを、その身に刻まれることになったのだ。
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