10:緊急救助も承ります。
誤字修正しました。
ご連絡感謝!
昨夜、ダンジョンの空に架かった「地下の虹」は、世界中のSNSを席巻した。
『絶望を希望に変える運び屋』――そんな見出しがネットを踊り、レンのチャンネル登録者数は一夜にして数倍に跳ね上がっていた。
反面、昨日呟いた
「カグヤと一緒に見たかったな…」
という発言の切り抜き動画があげられ、一部カグヤのガチ恋勢達から一斉に叩かれ、プチ炎上してしまい、カグヤからも素っ気ない態度をされている。トホホ…
そんな余韻に浸る間もなく、その熱狂に冷や水を浴びせるような一報が、早朝のギルドを激震させた。
「第30階層、大規模採掘プラント『アトラス』にて崩落事故発生! 上層で発生した鉄砲水がなだれ込み、崩落した坑道により作業員10名が孤立!」
ギルドの緊急会議室には、青ざめた表情の幹部たちが集まっていた。
「水位は上昇中。救助用の大型魔導車両は、途中のガレキに阻まれて進入不能。……かといって、小型のバイクでは10人を一度に運び出すのは物理的に不可能です」
「水が引くのを待てないのか?」
「……24時間はかかります。更なる崩落と、水の流入は、魔導具の力で抑えられているそうですが、作業員の体力が持つかどうか……」
誰もが絶望していた、最悪の事態を考慮しなければと……。
そんな中、レンの端末に依頼が舞い込んできた。
依頼人は――採掘ギルドの責任者。
【第30階層 至急、孤立した10名へ食糧と医療品を届けて欲しい】
◆◆◆
俺はガレージで、今朝発現したばかりの「奇妙な装備」の前に立っていた。
レベルアップの通知と共に現れた派生スキル、デリバリー・キャリア。
ぱっと見、普通の牽引式リヤカーだった。
フレームには継ぎ目が一つもなく、まるで一つの巨大な金属の塊から削り出されたような流線型なのだが……やっぱり普通のリアカーなのだ。
「デリバリーバッグみたいな商品の状態を保持する機能もないし、見た目以上の荷物を積む空間拡張もない、保温機能もない。
強いて言えば、この車輪のサスペンションが……気味が悪いほど滑らかに動くくらいか」
正直、ガッカリした。
これまでのデリバリーバッグが有能すぎたのかな。
デリバリーランサーの後部に、その連結器をカチリと接続した。銀色のリヤカーを引いたママチャリ。その姿は、前時代的でシュール。だが、微妙に似合っているのが、悔しい。
まぁ、派生スキルなので、必要な時に取り出せる。必要な時が来るのかどうか知らんけど……。
そんた事を考えて居たとき、アプリの救援物資配送依頼の通知が届いた。
用途不明の残念派生スキルだと思ったが、まさかこの依頼で使う事になるとは……
◆◆◆
第35階層。そこは、泥水の濁流が渦巻く地獄絵図だった。
『お疲れさまです!』
『うぽつ』
『作業員さん達、今レンさんが暖かい食べ物届けてくれるよ』
視聴者のコメントが飛び交う中、俺はペダルを深く踏み込んだ。
「【絶対配送】の力は、濁流を物ともしない、原理は単純だ。沈む前に前に進む!
この濁った水なら、デリバリー・ランサーの推進力であれば、泥水をグリップして走る事ができる。
この原理も単純だ。泥水にはまる前に進む!
普通のチャリだと難しいが、訓練次第では可能な技術だから、視聴者のみんなも試してみてくれ!」
『うそつけwww』
『異常者の発想』
『お主も忍びの者か?』
『忍者が居るぞww』
『子供が真似するのでそう言うのは止めてください』
デリバリーランサーは、泥水の水面をまるでアメンボのように滑り始めた。
猛烈な水しぶきが上がる。
「飛沫で濡れる?
ご安心ください。当社のデリバリーバッグは、完全防水です。また、濡れない方法があります。
飛沫がかかる前に前に進めば濡れないのです。みなさん真似しても良いですよ。
よい子のみんなは、親御さんに相談してから真似しようね。」
『お前いい加減にしとけwww』
『ほほう…拙者も参考にするでござる。ニンニン』
『忍者も参考にするダンジョン・イーツチャンネルwww』
◆◆◆
崩落現場。作業員達は低体温症の危機にあった。震える体を、身を寄せ合って凌いでいた。
「……もう、ダメか」
その時だった。
静寂を破って、「チリン、チリン」という、あまりにもこの場に不釣り合いなベルの音が響いた。
「お待たせしましたダンジョン・イーツです!……出前の品、お届けにあがりました」
崩落した土砂をぬるりと突き抜けてきたママチャリ。彼はバッグから、ホカホカの牛丼10人前と、暖かいお茶、大量の飲料水やソフトドリンクを取り出した。
作業員達から歓声があがる。
「この人が噂のダンジョン・イーツのレンさんかーー」
「本当に壁ぬけするんだ…」
「すげーまるで、作りたての牛丼じゃん!」
「コーラコーラ!ポテチはないの?!」
「温かいうちにどうぞーー。」
作業員達は、わき目もふらずに牛丼を貪り食う。
そりゃ腹も減るよな…今は、暖かい食事で頑張れるけど、あと20時間以上彼等は待ち続けるのか……。
「はふはふ……レンさん有り難う!お陰で生き返ったよ!俺たちは大丈夫だから、次の仕事に向かってくれ。」
「あがとよーー」
「ポテチ……」
皆、良い笑顔で俺を送り出そうとしてくる。こいつらを置いていけねーよ……あ、もしかしたら……あれ使えるんじゃないか?!
「デリバリー・キャリア!」
目の前に銀色のリアカーが現れる、驚く作業員達。
俺は、デリバリーランサーに、リアカーを連結させる。
「さっ!皆さん、リアカーに乗り込んでください!!」
「「「え?!」」」
明らかに動揺している作業員達を、強引にリアカーに押し込む。
コメント欄も流れまくる。
『だ、だせーーーーwww』
『これ、町中で見たことあるぞ!白猫ムサシの宅配便だな!』
『コラボ動画かな?』
「佐河運輸ですが、当社ともコラボしてください!」
』
驚くべきことに、大柄な作業員が10人乗っても、リヤカーのフレームは軋み一つ上げない。
「よし、全員乗ったな。……地上まで最短ルートで行く。舌、噛まないように!」
◆◆◆
帰路の走りは、作業員達にとって最早、悪夢だったろう。
10人の人間という、総重量およそ800キロ近い荷を引っ張りながら、レンの速度は一切落ちなかった。
泥水の上を時速120キロで滑走し、積上がった瓦礫の山に突っ込んだかと思ったら、いつの間にか通り抜けており、超高速で流れる景色に作業員達は絶叫した。
「死ぬ! 死ぬぞぉぉぉ!」
「揺れてない! 全然揺れてないのに、景色だけが高速で流れていく!!」
「アガガガガ……」
「こんなに瓦礫の上を走ってるのに、一切ゆれないぞ!!」
「風もあまり感じないな、どういう理屈なんだ?!」
どんなにレンがチャリを傾けようと、荷台の床は常に水平を保ち、サスペンションがすべての衝撃を無効化していた。
◆◆◆
救助を諦めかけていたギルド職員や報道陣の前に、それは現れた。
泥水を、光り輝く銀の飛沫に変えて、一機の自転車がゲートを突き抜けた。
レンがブレーキを握りしめると、デリバリーランサーの後輪が激しくスライドし、リヤカーが180度ターンを決めて、救急車の目の前にピタリと停まった。
「お疲れさまです!!搬送サービス完了です!!」
レンが額の汗を拭い、どや顔でリヤカーに乗る作業員達に声をかける。
現場には歓声が沸き起こる……はずだった。
「お……おえ……っ!!」
「ゲブォォォッ!!」
「オロロロロロ……」
現実に戻ってきた10人の屈強な作業員たちが、ドミノ倒しのようにリヤカーから崩れ落ち、地面に鮮やかな虹《吐瀉物》を描いた。
「え……?」
「……レン。アンタ、車酔いって物を知らないの?普通の人間の体は、あんな速度に耐えられないのよ?」
いつの間にか、現場に来ていた呆れ顔のカグヤが、作業員達に状態異常回復の魔法かけて回っていた。
リヤカーの超高性能サスペンションは衝撃を消したが、急加速と急旋回による強烈なGまでは消せなかった。
驚くほど乗り心地の良いリアカーで、身体感覚と三半規管が完全にバグった10人は、地上に出た瞬間に脳が悲鳴を上げたのだ。
「……と、取りあえず、依頼は達成と言うことで、こちらにサインか、はんこお願いします。」
伝票を作業員達に渡したが、伝票はゲロまみれになった。
ストック無くなったので、毎日午前10時頃に毎日一話投稿の予定です。
読んでいただきありがとうございます。
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