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異能が現実のものとなったこの街の片隅で。  作者: 松葉天佑


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冷やし中華はじめました

「やっほー!遊びに来たよー!」


 七月のとある火曜日。サンサンと降り注ぐ日光にしっとりと汗ばむ身体。そんな夏らしく晴れ晴れとしたそんな日、とあるマンションの505号室にやってきた2人の女性。



「あずちゃんいるー?お姉さん達だから出ておいでー?」


「あ……こんにちは。」


「なんだーまだパジャマじゃん」


「今日はお母さまもいますよ」


「あ、お母さま!」



 やってきて早々、玄関で立ち話を始めているのは諏訪澪、澪の母、そして峯桜の三人だ。

 高月にお母さまと呼ばれるのは澪の母。彼女のイメージカラーは白。そう断言出来るほどに白いモノが好きな一風変わった人である。衣服も白に統一する程の徹底ぶりだが曰く彼女の仕事柄、白いものを身につけることで清潔感をアピールしているのだとか。ちなみに高月に家事のイロハを叩き込んだのが何を隠そう、澪の母なのだ。


 女性というのは本当に、顔を合わせただけでいくらでも会話が出来てしまう。そう感じさせられる程に彼女らは玄関で、話に花を咲かせている。



「立ち話もなんだから、リビングに案内したまえーあずちゃんー」


「それ客人が言う言葉じゃないでしょ」


「私はもうここまで上がってくるだけでクッタクタですよ」


「えーエレベーターで上がってきただけなのにー?」



そんな会話も程々に、彼女らはリビングに通される。



「うわー、やっぱり片付いてるねーももちゃん家は」


「お掃除…毎日やってます…」


「流石だよね。私の部屋なんか荒らされたんかってくらいの状態だわ」


「ちょっと何言ってるの、全く駄目じゃないですか。私とあずちゃんでお掃除しに行こうかしらね?」



顔を合わせれば会話のネタは尽きない。そんな風にすら感じてしまう彼女達だが、今回の目的は別にある。



「で、今日は何作るんだっけ?ママ」


「そうですよ!今日はいつも家事を頑張ってるあずちゃんのために、私達で冷やし中華を振る舞ってあげようと思ってね?」


「そんな…頑張ってるなんてとんでもないです…」


「んな事言わないのー。専業主婦だって立派な職業なんだから、それをこなしてるあずちゃんはもっと誇っても良いんだよ?」


「まあこういう控えめな所もあずちゃんの良さなんだよなあ。本当に可愛いやつだよお前はー」



 そう言いながら峯は高月の脇腹をくすぐって戯れている。



「それじゃあチャチャっと作っちゃいますかね?」


「そうだねー」



――――――――――――――――――――――――



 こうして彼女らは各々準備を始め、峯、澪、そしてその母はキッチンに立ち、高月にはソファでくつろぐよう指示する。

 今日はいつも家事を頑張っている高月を労わるという名目でやってきたようで、彼女はキッチンに立つ事すら厳しく禁じられた。


 こうして始まった冷やし中華お料理会。まずはタレを作っていく。


 第一に醤油だれ。こちらは醤油、お酢、水、砂糖。この4種を適量用意してよくかき混ぜる。


 次にゴマだれ。こちらはゴマペースト、ゴマ油、醤油、お酢、砂糖を適量、そしておろし生姜を少量加えてこれもよくかき混ぜる。


 こうして醤油だれ、ゴマだれの二種が完成である。


 たれ二種が完成したら、具材のカットへ進んでいく。ロースハムときゅうりを千切りにする。錦糸卵、紅生姜は市販の物を使ってしまえばこれだけで終了である。


 あとは買ってきた中華麺を茹で、冷水でよく冷やしてやれば、もう完成まで間近だ。


 キンキンに冷やした中華麺を皿の上に盛り付け、ロースハム、きゅうり、錦糸卵そして紅生姜をトッピングする。


 その上から醤油だれ、ゴマだれをかけてしまえばもう、冷やし中華の完成である。


 この冷やし中華は美味い割に調理がとても簡単で手早く終わるので、読者諸君も夏の時期にはぜひ挑戦してみてほしい。


「さ、出来たよーあずちゃん!」



――――――――――――――――――――――――



 ダイニングテーブルに並べられた冷やし中華。それを囲うように座る高月、峯、諏訪、そしてその母。


「じゃあももちゃん風にいただきますしよっかー!」



 澪が音頭をとる。



「手と手を合わせてー?」



 いただきます!



 四人は箸を手に取り麺を勢いよくすする。諏訪は今にも垂れ落ちそうな頬を手で抑え、


「やっぱ夏はこれだよねー!」


 絶賛である。


「安定の美味さだよな」


 峯の言葉に高月は深く共感し頷きながら黙々と食べ進める。


「これぞママの味だよねー」


「え?冷やし中華にママの味なんてあるの…?」


 澪の言葉に思わずツッコミを入れる峯を他所に、


「ピリッとした味を楽しみたかったらこのラー油を入れてみてちょうだい!また違った美味しさがあるわよ」


澪の母の言葉の通りに高月はラー油をかけてみる。


「―――――お!」


 ご満悦の表情。どうやらお気に召したようである。


「ママ、あずちゃんのそのお顔が見れて嬉しいわ」


「ねー!あずちゃんは笑ってる顔が一番似合うよー!」


「そーいえばさ…」


不意に峯が話を切り出す。


「神栖君と今どんな感じなの?」


 ―――――ブフッ!?!?


 高月が盛大に噴き出す。


 なんなら麺が鼻に入ってしまったようだ。彼女は涙目を浮かべながらむせている。


「な、な、な、なんで御琴君の事を………!?」


「なになになに!?あずちゃんってば男の子出来たの!?ママにも聞かせてちょうだい!?」


 モロに動揺する高月の横で、澪の母は目をキラキラと輝かせている。野次馬根性全開だ。


「そりゃ、ももちゃんから逐一情報は聞いてるからねー」


「神栖君との話は私達にも共有されてるって訳。ていうか下の名前呼びかあ〜。初々しいなあこいつー」


 澪と峯もニヤニヤが止まらない様子。高月にとってはもはや悪魔的な笑みにも思えてしまうこの状況だが、こうなった以上はもう話す他あるまい。



「で?チューはしたのー?」


「し、してない…です…」


「手を繋いだりは?」


「ちょっとだけ、触ってみたり…」



 澪と峯の質問にイエスノー形式で答えていく高月。



「ねえ、その男の子の写真とか無いの?ママどんな子なのか知りたい」


「あーそれなら…」



 澪が自身のスマホを取り出して写真フォルダを漁る。



「これこれー!この子が神栖御琴君」



 彼女のスマホに映し出されたその写真は、美容室Irisでのモノ。正面、横、後ろからの3枚と、インカメで撮影した神栖、高月、澪のスリーショットの計4枚だ。


「あらーなにこの可愛い子は!マンネじゃない!マンネ!」


「マンネって…なんですか」


「末っ子って意味だよー」


 そう、マンネとは韓国語で末っ子を意味する。主にKPOPアイドルグループの中で、最年少のメンバーに使われる事が多い単語である。



「じゃあさ、神栖君とのツーショット、撮ったりしてないの?」


「………一枚だけ」


「マジか!!!」



 峯が今日イチのテンションを見せる。高月あずきという奥手そうな女の子が戦果をあげたとなれば、喜ばない者など居るはずもない。


 高月のスマホには、横浜で何気無く撮ったと思われる、フードコートでの一枚。パフェを頬張る神栖の隣で高月はカメラに向かってピース。


「えー!何これ良いじゃない!神栖君?この子こんな可愛いお顔出来るのね!」


「くー!あずちゃんがいつの間にかこんなにも成長して、私嬉しい」


「ウチもだよー。なんか感動して涙が出てきたあ」


「そんな…泣かないで」


 高月は彼女らの勢いにすっかりのまれ、三人を宥める事しか出来ずにいた。


「そうだー写真見て思い出した!あずちゃん、今日はケーキ作ってないのー?」


「今日はレアチーズケーキ…作ってみました」


「レアチーズ!?そんなオシャレなもの作ったのあずちゃん!!」


「よし、冷やし中華早く食べちゃって、ケーキタイムにしましょ!ママ達三人が相談に乗るから、神栖君の作戦会議するわよ!」


「あ、そうだ。冷やし中華の具材とたれ、冷蔵庫に入れてあるから夜になったらももちゃんと二人で食べちゃってね」


「あ、ありがとうございます…」



 こうして四人の女子会にはそれはもう、満開と言わんばかりに花が咲き、神栖と高月をくっつける為の作戦会議が行われる。



――――――――――――――――――――――――



 それから時間は経ち、女子会はお開きとなった。18時頃に那須が帰宅し、二人で残りの冷やし中華をペロリと平らげる。


 そしてそのあと。


 高月と那須はダイニングテーブルの椅子に腰をかけ、ゆったりと食後のティータイムを楽しんでいた。



「そっかあ、諏訪ちゃんのママさん来てたんだね」


「うん。皆で…その、御琴君の話で盛り上がった」


「えー何それ面白そう。神栖君とどうしたらくっつけるか話してたって事?」



 高月はコクっと頷く―――――



「私は良いと思うけどなあ。そりゃ神栖君はまだ未成年だから、清いお付き合いをしてほしいと先生としては思うけど。

あの子ならあずちゃんの気持ちにも答えてくれると思うよ」



高月は手元のティーカップを見つめて、不安げに小さく呟く。




「――――私でいいのかな」




 彼女の言葉を耳にした那須は深くため息をつくと、真剣な面持ちで高月を見つめる。



「あのね。不安なのはわかるよ。相手に拒まれたらどうしよう。付き合えたとしても自分が相手に見合わない存在だったらどうしよう。

その気持ちは皆が抱いてるものだからね。でもそんな風に卑下してたら何にも出来なくなっちゃうよ?

 好意を持つのは凄く素敵な事なんだよ。人を愛するっていうのは、相手を認め、許す事が出来るって事。それは強い心を持った人だからこそ出来る事なんだよ。それが出来ない人は孤立して一人ぼっちになっちゃう。

 でもあずちゃんはそうじゃない。神栖君の事を認めてあげて、彼の事を想ってお弁当を作ってあげる事だって出来た。それって人間として凄く立派な事なんだよ。神栖君を愛する資格はあるに決まってるんだよ。神栖君だってきっと嬉しいよ。

 別に付き合って結婚するだけが人間関係じゃないとは思うけど、せっかく好きだって気持ちがあるなら、それは相手に伝えるべきだと思うよ。そうするのが、後悔しない選択だと私は思うかな」



高月は那須の言葉を聞いてゆっくりと頷く。



「なーんてね。彼氏も居ない私が言っても説得力無いかな」



 那須はそう言って困ったような笑みを浮かべた。



「ううん、ありがとう。ももちゃん。なんか胸が軽くなった気がする」


「そうお?それは良かった!そうだケーキある?朝レアチーズケーキ作るって聞いてずっと楽しみにしてたの!」


「うん、あるよ。冷蔵庫に切り分けた分が入ってる。取ってくるね」


「やったー!真面目なお話もこれで終わりにして、ケーキのお食事会と行きましょうかー!」





 こうして那須による、ちょっぴりお真面目トークも幕を閉じた。


 もしあなたに思い人が居るのなら、その気持ちを素直に伝えてみるのも一つの選択肢かもしれない。


 例え良い方向に話が進まなかったとしても、悲観する事などない。あなたが胸に抱いたその気持ちは、あなたの人生にとって、何物にも変え難い宝となるのだから。

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